興味本位での「カルテの不正閲覧」、訴訟リスクも|看護roo!ニュース

「タレントさんが入院してきたから、ちょっとカルテを見ちゃった」

「知り合いが病院にいるのを見かけたから、何の病気か電子カルテで調べた」

 

こうした業務に関係のない目的でのカルテの閲覧は、個人情報保護の観点から問題がある行為で、勤務する病院の内部規定や就業規則などに違反し、処分される可能性があります。

 

過去には、病院が管理上の責任を問われ、訴訟に発展したケースもあります。

 

しばしばニュースで取り上げられる、病院職員のカルテの不正閲覧について解説します。

 

 

島根大病院で、殺人事件の被害者のカルテを多数の職員が閲覧

2018年11月、島根大学医学部附属病院で、出雲市内で発生した殺人事件の被害者として搬送されてきた患者のカルテを、多数の職員が閲覧していたことが発覚しました。

 

閲覧記録が確認されたのは、医師、看護師、事務職員ら、延べ312人の職員で、アクセスした中には業務に関係がない職員も含まれていました。その人数は明らかにされていません。

 

看護師が、担当外の職員が閲覧していることを不審に思ったのがきっかけで判明しました。

 

同院は「診療・業務に関係のない目的のために患者の情報をみだりに閲覧してはならない」と定めた内部規定に抵触するとし、遺族に謝罪するとともに、該当する職員の処分を検討するとしています。

 

また、再発防止に向け、職員の研修をはじめ、閲覧時の注意喚起表示などのシステム改修など、ソフトとハード両面での改善を進める方針です。

 

 

過去には訴訟に発展したケースも

2014年には、宮城県の大崎市民病院で、同院で働いていた事務職員の家族のカルテを同僚らが業務外で閲覧したことが判明し、問題となりました。

 

患者は父親の家庭内暴力で保護入院していた同職員の子どもらで、カルテを見なければわからない入院に至った経緯を上司が知っていたことを同職員が不審に思い、発覚しました。

 

2015年7月、病院側が発表した調査結果によると、業務外で不正にカルテを閲覧した職員は看護師や事務職員ら24人で、業務外での閲覧が禁じられていることは全員が認識していたといいます。

 

その後、同職員と子どもらは、プライバシーを侵害されたとし、同院および事務職員を派遣していたニチイ学館に対し、計900万円の慰謝料を求めて提訴。2018年1月に和解が成立しました。

 

 

緊急時対応を考えると、難しい閲覧制御

病院でカルテの不正閲覧が起こる背景には、下記のような幾つかの要因が考えられます。

 

  • 電子カルテの普及により、患者情報にアクセスしやすくなった
  • 業務上、閲覧する必要がある担当者が多岐にわたるため、閲覧制御がしづらい
  • 閲覧制御をすると、緊急時対応に支障が出る可能性がある

 

カルテを紙で管理する場合、担当の診療科や病棟などで保管されているため、ほかの職員の目があり、担当外の職員が閲覧することは困難です。

 

しかし、電子カルテの場合は、ログインの必要があり、使える機能は職種によって限られているものの、多くの職員が端末さえあれば時間や場所を選ばずに閲覧が可能で、便利な反面、不正閲覧が起こりやすいとも言えます。

 

そのため、電子カルテを導入している病院では、特別に配慮が必要な患者情報に対する閲覧制御、アクセスログの監視や閲覧者履歴の表示による注意喚起など、さまざまな不正閲覧の防止策が取られています。

 

ただ、直接、患者の治療やケアに当たる医師や看護師だけでなく、ベッドコントロールや感染サーベイランスなどの病院横断的な業務や、事務処理などの後方支援業務もあり、閲覧が必要な職員を特定し、閲覧制御をかけるのは至難の技です。

 

また、緊急時にカルテの確認ができる職員がいないと患者の命にかかわることも、安易に閲覧制御ができない大きな理由です。

 

システム上の対策で、興味本位の閲覧を完全に防止するのは難しいのが実情です。

 

 

最終的には「医療者の倫理観」頼み

電子カルテのシステム上での不正閲覧の防止が難しい以上、最終的には医療者一人ひとりの倫理観に委ねられているとも言えます。

 

島根大学医学部附属病院では、不審に思った看護師が行動を起こしたことで明るみになった、「自浄作用」が働いたケースです。

 

個人情報の取り扱いは、利用目的での使用に限られており、たとえ院内であっても利用目的外での使用は認められていません。

 

患者の病気や症状、治療などを記録するカルテは、「究極の個人情報」です。

 

ちょっとした好奇心で、患者の尊厳をおびやかさないよう、不要なトラブルに巻き込まれないよう、注意が必要です。

 

看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo

 

 

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(参考)

病院職員による不適切なカルテ閲覧に関するお詫び(島根大学医学部附属病院)

電子カルテ不正閲覧に関する再調査結果の報告とお詫びについて(大崎市民病院)

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