特定行為研修修了者を特別な看護師と思わないで

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

 

末田 聡美=日経メディカル


 

高度な医学的知識や技術を持った看護師が医師の判断を待たずに必要な処置などを行えるようにするための「特定行為に係る看護師の研修制度」(特定行為研修制度)が始まって、この9月でちょうど2年になる。筆者は、制度創設前から看護師の役割拡大の動きに期待して、動向を追ってきた立場だ(関連記事:なぜ広がらない?看護師特定行為研修制度)。

 

だが、いまだに医療現場ではこの制度が浸透していないし、受け入れられていないと感じる場面が多い。

 

画像。特定行為を担う看護師が活躍する現場のイメージ

特定行為を担う看護師が活躍する現場のイメージ(日経メディカル2010年12月号の特集「コメディカルに『医行為』解禁へ」の表紙より)

 

筆者は最近、臨床現場でバリバリ活躍している看護師や医師の友人(主に30歳代)に会うたびに、看護師には「『特定行為研修』についてどう思う? 受けたい?」、医師には「周りの看護師に受けてほしい?」と聞くようにしている。

 

だが、「特定行為」という言葉はかろうじて知っていても、制度のことを詳しく知っている人はほとんどいない。看護師の友人たちは、「意識の高い看護師が医者っぽいことやってる制度だよね」「何となく聞いたことあるけど、周りに受けたいと言っている人はいないな~」といった薄い反応だ。医師の友人に至っては大抵、制度のことを知らない。いずれにせよ、みな自分たちには関係ない世界のことと捉えている。

 

そうした関心の薄さを何となく肌で感じていたため、6月の医道審議会の「保健師助産師看護師分科会看護師特定行為・研修部会」で公表された最新の研修修了者数の少なさには、がっかりしたのと同時に「やっぱりな」と思ってしまった。

 

2015年10月の制度開始から2016年度3月末までの研修修了者は583人(2015年度259人、2016年度324人)。583人の修了者の就業場所はほとんどが病院で523人。診療所は5人、介護施設5人、活躍の場として特に期待されていた訪問看護ステーションはたった15人だった。

 

制度スタート時に厚生労働省は、団塊の世代が75歳以上になる2025年までに約10万人の養成を見込んでいたが、その目標には到底、届きそうもない数字だ(関連記事:看護師特定行為研修、制度見直しに向け検討へ)。

 

「自分たちには関係ない」という声多数

医療現場の負担が増え続ける中、限られた医療資源を有効に使うためにも、医師の働き方改革を推し進める上でも、医療者間のタスクシフティングは喫緊の課題だと考える。中でも、特定行為研修は既に始動しており、現場で今すぐ活用できる貴重な制度だ。

 

特定行為研修の取材をしていると、研修修了者の活躍が、医療の質向上や効率化に大きく貢献しているケースが多く、ぜひ現場で広がってほしいと切に願う。研修修了者を上手に活用すれば、患者にとっては必要なケアや処置をタイムリーに受けられ、重度化予防にもつながる。

 

医師にとっては、負担が軽減されて医師にしかできない業務に専念できる、看護師にとっても自分の裁量で判断し実行できることが増え、スキルアップややりがいにつながる。実務面での課題は山積しているものの、大きく捉えればいいことづくめだ。

 

一般的な医療現場では、いくら能力が高くやる気がある看護師でも「診療の補助」として任せてもらえる医行為の範囲は限られ、いつまでも他の看護師と同じレベルというケースが多い。もどかしさや無力感を感じることもあるだろう。この制度は看護師のキャリアアップの1つの道として、もっと身近であっていいはずだ。

 

6月の検討会では、研修修了者数が伸びない原因として、制度の認知度の低さや、研修の受けづらさ(高額な費用や人手不足、研修場所の未整備)などが指摘された。研修受講者を増やすために、厚労省は今後、研修体制の整備に向けた計画を2018年度に始まる第7次医療計画に盛り込むとともに、費用補助によって研修を受けやすくするなどの方策を進める方針だ。

 

もちろん、それらの取り組みは重要だが、筆者は大前提として、特定行為研修は『意識の高いごく一部の人たちが受講しているもの』『自分たちには関係ない』といった、現場の医師や看護師が抱いているイメージを払しょくすることがまず不可欠だと考える。

 

ある看護師の友人は、「できることが増えるのはいいけど、職場で立ち位置が微妙だよね。わざわざ働きづらくなることしたくない」と話していた。そうした研修に対する“アウェ-”な雰囲気が解消されない限り、看護師が制度に興味を持ったとしても、研修を受講しにくい、そして研修を修了しても活躍しにくい状況が続くだろう。

 

また特定行為研修修了者は、医学的な知識や技術をしっかり学んでいるとはいえ、実務は未経験だ。研修医と同様、指導してくれる医師がいないとそもそもスキルを磨けないし、職場で活躍できない。勤務環境に配慮してくれる看護部の協力も不可欠だ。周囲の理解と支えがないと研修を受講することも、研修修了後にその能力を発揮することもできないため、医療機関の管理者層の理解が進むこともぜひ期待したい。
 

「特別な存在」ではなく「ちょっとよくできる看護師」

先日、取材に伺った埼玉医科大学総合医療センターでは、まさに現場にとって身近で受け入れられやすい形で、研修修了者を活用しようとしていた。

 

同センターは、埼玉県内で最大のNICU(新生児集中治療室)病床数を誇る。周産期の搬送患者数が増え続けて医師の負担が増す中、2015年ごろから病棟改革の一環として、看護師が行える医行為を増やそうという動きがあった。

 

その流れの中で、2016年2月に特定行為研修の研修施設となり、自前で特定研修を実施している。院内のNICUに所属する看護師約140人のうち、最低10人は特定行為研修を修了してもらう方針で、常に病棟に研修修了者がいる体制を目指している。

 
既に2017年3月に研修を修了した2人の研修修了者は、NICUの病棟で患者を受け持たず、フリーの立場として業務に携わる。他の看護師から相談・報告を受けたり、教育的な立場として初めて行う処置のフォローをしたりしている。また、気管カニューレ瘻交換、人工呼吸器の設定変更などの「特定行為」を担っており、医師との役割分担を模索中だ。

 

同センター総合周産期母子医療センター副センター長で助産師の内田美恵子氏は「看護師に求められる能力はどんどん上がっているものの、これまではその能力が発揮できるほどの教育を受けられなかった。経験を積んだ看護師がもっとスキルアップできる環境を作るべきと考えており、特定行為研修は看護師の質を向上させるための手段としてちょうどよい」と話す。

 

実際には、現場のニーズに合わせて教育を行い、医師との信頼関係を構築した上で、そこから徐々に活躍の場を広げるというイメージだ。「研修修了者は特別な存在ではなく、経験を積めば自分もできると思えるような『ちょっとよくできる看護師』でよいと思っている」と同氏は話す。

 

病棟看護師は、患者の病状などを医師に報告する前に、まず特定行為研修修了者に報告し、研修修了者が必要性を見極めてから医師に報告する体制を目指している。「病棟看護師が研修修了者に相談し、話し合うことで病棟全体のアセスメント能力アップにつながる。医師にとっては負担が減り、本当に重要な報告だけが得られる。患児にとっては早期の介入により状態が良くなる、という効果を期待している」と内田氏。既に、当直医への看護師からの呼び出し回数は大きく減っているという。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

Aナーシングは、医学メディアとして40年の歴史を持つ「日経メディカル」がプロデュースする看護師向け情報サイト。会員登録(無料)すると、臨床からキャリアまで、多くのニュースやコラムをご覧いただけます。Aナーシングサイトはこちら

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