驚愕!患者が犯した思いもよらない吸入ミス|吸入療法の失敗はこう防ぐ《1》

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驚愕!患者が犯した思いもよらない吸入ミス

吸入療法が気管支喘息やCOPD治療の主役となり、数多くの吸入薬が使用可能になった。しかし、吸入療法に失敗する患者は少なくない。失敗を防ぐには、吸入薬選択の考え方を変え、他職種も巻き込んだチームで吸入指導に当たることが有効だ。

(加藤 勇治=日経メディカル)

 

写真:中山 博敬 (解説は本記事最後に掲載)

 

今や気管支喘息・慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療の主役は吸入薬。薬効や使いやすさから多くの患者に処方されているが、中には医師が考えもつかない誤った使い方をしてしまう例が続出している。

 

 

CASE1 70歳代男性 薬剤がないのに吸入を継続

東濃中央クリニック(岐阜県瑞浪市)院長の大林浩幸氏は、喘息治療のため、吸入ステロイド(ICS)/長時間作用性β2刺激薬(LABA)配合剤のアドエアディスカスを処方した。患者には4週間後に再診するよう伝えてあったが、クリニックに姿を見せず、8週間後に「最近、薬の効きが悪くなった」と吸入薬を持参して来院した。吸入は毎日していたという。

 

そこで吸入薬を見せてもらうと、薬剤の残量を示すカウンターがゼロになっていた(写真1)。処方時に、カウンターを確認してから吸入操作をするように指導していたが、再診時にそのことを指摘しても「そんなところにカウンターなんかあったか?」と、すっかり忘れている様子だった。

 

大林氏はこのとき、内部の薬剤がなくなっても操作自体はできてしまうデバイスがあることに気が付いた。これ以降、カウンターの残量確認を患者に徹底させる指導をするようにした。

 

写真1 カウンターがゼロになったことに気が付かず吸入していたケース  薬剤が切れているのに吸入しているつもりに

写真1 カウンターがゼロになったことに気が付かず吸入していたケース

 

 

CASE2 70歳代女性 アロマテラピーと勘違い

喘息治療のため、大林氏はICS/LABA配合剤のシムビコートタービュヘイラーを処方した。吸入指導をした後、実際に患者に触らせて、操作ができることを確認した。

 

しかし2週間後、「効かない」と訴えてきた。正しく操作ができているか確認すると問題なかったので、1日2回の吸入以外にも増悪時には吸入してもよいと伝えて帰したが、2週間後にまた「効かない」と来院。つい患者の前で「吸入できてるのかな」とつぶやいてしまったが、それを聞いた患者は「これは吸うものだったのですか?」と話した。吸入操作をした後に机の上に置いておけば、薬剤が部屋中に広がって治療効果が出ると思っていたという(写真2)。患者がアロマテラピーを趣味としていたことも災いした。

 

写真2 デバイス操作はできたが吸入していなかったケース 吸入薬がアロマテラピーと同じだと勘違い

写真2 デバイス操作はできたが吸入していなかったケース

 

大林氏は、吸入指導でデバイスの操作法を見せたときに、デバイスを口にくわえて吸入するところまでは患者に見せず、操作した後は机に置いたと振り返る。それが、患者が机の上に置いておくだけで効果があると思い込んでしまった原因だった。

 

 

CASE3 70歳代女性 キャップのくぼみが噴射口?

喘息治療のため、大林氏はICS/LABA配合剤のフルティフォームエアゾールを処方。呼吸同調が難しいため、スペーサーを付けて吸入するよう指導した。患者はしばらく問題なく吸入できていたが、あるとき「薬を吸った感じがしない」と訴えてきた。吸入の様子を再現させると、吸入口を保護するキャップを外さないでスペーサーを付けていた(写真3)。

 

 写真3 キャップを付けたままスペーサーを使っていたケース スペーサーを付けるようになってから吸入した感じがしない・・・  このキャップのくぼみを噴射口と勘違いして、キャップをしたままスペーサーにセットしていた

写真3 キャップを付けたままスペーサーを使っていたケース

 

患者に聞くと、ある日、キャップの中央にくぼみがあることに気が付き、それを噴射口だと思ってそのままスペーサーを付けるようになったという。「うまく吸入できていても、何らかのきっかけで突然、誤った吸入法をしてしまう典型例」(大林氏)だった。

 

 

CASE4 10歳代男子 慣れて手技が雑になった男児

吸入デバイスを誤って使うのは高齢者だけではない。若年者でも、慣れや自身の病状の改善により、手技がおろそかになるケースは少なくない。

 

JA広島総合病院(広島県廿日市市)小児科部長の辻徹郎氏は、朝晩の咳き込みと運動時の喘鳴を認めた小学6年生の男児にアドエアディスカスを処方した。母親同席で実薬を使った吸入指導もしっかりと行った。

治療開始後すぐに症状は消失し、肺機能検査でも改善が認められたが、半年が経過した頃から再び症状が出るようになった。

 

患児に吸入の様子を再現させると、吸気努力が不十分で、吸入後の息こらえもしていなかった。また、マウスピースを唇の先でくわえていただけなので、薬剤が前に当たり吸入できていないことも分かった。治療開始当初は緊張して丁寧な操作をしていたが、慣れてきたことで無意識のうちに手技が雑になったようだった。母親も当初は毎回吸入の様子を見守っていたが、6年生なので大丈夫だろうと判断し患児本人に任せきりとなっていた。

 

 

患者の4割は操作を誤る

日常的に喘息やCOPD患者を診察している医師のうち、患者が誤った使い方をしているのを発見したことがある医師は4割に上る(図1)。これは日経メディカルOnlineが7月に医師会員を対象に行った調査での、喘息・COPD患者を診察している1652人の回答結果だ。

 

問:患者が誤った吸入デバイスの使い方をしていることを発見したことがありますか。  4割の医師が、患者が誤った使い方を していることを発見した経験がある

図1 日経メディカルOnline医師会員を対象とした調査結果

 

 

吸入指導に力を入れている前赤十字病院(群馬県前橋市)呼吸器内科副部長の堀江健夫氏らの調査でも、入院した喘息患者の4割は吸入デバイスを正しく使えていなかった。堀江氏は「患者は正しく吸入できないという前提に立って吸入指導を充実させる必要がある」と指摘している。

 

◆写 真 解 説◆

この吸入デバイス(エリプタ)は、カバーを開くだけで吸入できるのが特徴だが、吸入時に空気を取り入れる吸気口(左写真の赤丸部分)を指で塞いでしまうと、有効な吸入ができない可能性がある。

 

エアゾール製剤は薬剤タンクが上になるように持つのが正しく、スペーサーを装着した場合も同じ。しかし、スペーサーを装着するとまるで拳銃のように見えてしっくりくるからと、写真のように保持した患者がいた。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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