最終更新日 2018/01/17

多発性骨髄腫

多発性骨髄腫とは・・・

多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ・MM・multiple myeloma)とは、さまざまな合併症を引き起こす造血器の腫瘍である。単クローン性の形質細胞=骨髄腫細胞が増殖してMタンパクと呼ばれる単クローン性のγグロブリンを産生する。日本での発症率は10万人当たり2~4人、好発年齢は60代である。造血器腫瘍の10%を占め、年間4000人程度が死亡する。発症率、死亡率ともに増加している。

【症状】
症状は様々であるが、骨髄での骨髄腫細胞増殖により正常の骨髄機能が障害され、貧血や白血球減少による感染症状、血小板減少による出血症状が見られることがある。またMタンパクが過剰に作られる代わりに正常な抗体(タンパク)が作られなくなるため感染しやすくなる。過剰なMタンパクの沈着により腎障害をきたす。また、骨髄腫細胞による骨芽細胞抑制で骨融解を起こすため骨折しやすくなるとともに、高カルシウム血症に伴う口渇や、嘔気、多尿、意識障害などが生じる。

【検査】
上記のような症状、検査所見(高タンパク血症、高カルシウム血症、汎血球減少など)を認めた場合、多発性骨髄腫を疑い、血清総タンパクの成分を詳しく分画して分析する血清タンパク電気泳動を行う。正常では左から、アルブミン、α1グロブリン分画、α2グロブリン分画、βグロブリン分画、γグロブリン分画の順に並ぶが、多発性骨髄腫に代表される単クローン性高γグロブリン血症では、このタンパク電気泳動のγグロブリンの部分の幅が狭く、急峻に立ちあがったピークを示す。このピークをMピークとよび、Mタンパクの存在を示す。そのほか、異常な免疫グロブリンの一部(L鎖)である尿中ベンス・ジョーンズ(Bence-Jones)タンパクの同定も診断に役立つ。Mタンパクやベンス・ジョーンズタンパクを同定するための血液、尿の免疫電気泳動、免疫固定法、血清フィリーライトチェイン(free light chain: FLC)のほか、骨髄穿刺生検)によって確定診断を行う。全身への進展度をみるために全身の骨のX線検査、CT、MRI、PET検査などを行う。骨のX線検査では、打ち抜き像(punched-outlesion)と呼ばれる特徴的な骨融解所見を示す。

【治療】
治療方針は病型により異なる。臓器障害を伴う狭義の骨髄腫(症候性骨髄腫)は、近年、免疫調節薬(レナリドミド)、プロテアソーム阻害(ボルテゾミブなど)を中心とした薬物療法による導入、それに続く自家造血幹細胞移植併用大量化学療法が中心となっている。高齢や重篤な臓器障害で自家移植の適応がない場合は、薬物療法のみを行う。骨髄腫による症状や臓器障害のないくすぶり型多発性骨髄腫は積極的な治療は行わず定期検査で経過観察する。意義不明の単クローン型γグロブリン血症(MGUS・Monoclonal Gammopathy of Undetermined Significance)は、Mタンパクや骨髄内の骨髄腫細胞が少なく、臓器障害がないため治療の必要はないと考えられているが、骨髄腫に進展する可能性はあり、定期検査を行って経過観察する。骨病変や腎障害、高カルシウム血症など合併症のコントロールも重要である。

執筆: 柳井真知

神戸市立医療センター中央市民病院 救命救急センター医長

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