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2018年11月15日

新卒ナースの私でも「訪問看護師」は無理じゃない|新卒からの訪問看護(1)

 

患者さんの自宅でケアに当たる若手の訪問看護師の写真

 

訪問看護師になるには3~5年は病棟を経験しなくちゃ――

 

そんな"常識"が変わり始めています。

 

臨床経験ゼロの新卒で、あるいは病棟1~2年目の若手で、訪問看護の世界に飛び込む看護師が増えています。

 

2025年に向かって、ニーズも注目度もますます高まっていく在宅医療。

「新卒で訪問看護師になる」というキャリアを選んだ若い看護師たちを取材しました。

 

 

難病の夫と妻、ふたりの暮らしをサポートする

在宅患者をケアする小倉さんの写真

新卒から訪問看護師になって2年目の小倉遊さん(左)

 

「それじゃ吸引していきますねー」

 

昼下がりの静かな和室。

ケアプロ訪問看護ステーション東京(中野ステーション)の訪問看護師・小倉遊さん(24歳)が落ち着いた声で話しかけました。

 

利用者の高田義彦さん(79歳、仮名)は在宅ALS患者。

 

毎日の訪問看護と訪問介護、週1回の訪問診療や訪問リハビリなど、各種サービスを利用しながら妻の幸さん(78歳、仮名)と2人、自宅で暮らしています。

 

「きょうは痰が多いですね。大丈夫ですか?」

 

義彦さんとアイコンタクトを取りつつ、小倉さんが喀痰吸引をしているところへ、「ゆうべの雷、怖かったわねえ!」と話しながら、幸さんが部屋に入ってきました。

 

高田さん夫妻と小倉さんの写真

ケアの間も3人のおしゃべりが弾む

 

「幸さん、体調はいかがです?」

 

小倉さんは幸さんの体調にも気を配ります。この2日前の訪問時、幸さんは風邪気味で、少しつらそうにしていました。

 

「うん、もう大丈夫よ。こないだ来てくれたとき『私がいる間、2階で休んできて』って言ってくれたでしょ。おかげで安心して眠れたのが良かったの。すごく助かったわあ」

 

義彦さんのベッドサイドで、3人は「ふふふ」と微笑みました。

 

 

新卒で訪問看護師、「普通ではないけど、特別でもなかった」

処置内容をノートに記入する小倉さんの写真

多職種が閲覧するノートに、この日の処置内容などを記録する小倉さん

 

小倉さんは訪問看護師になって2年目。

もともと病院での看護より地域看護や予防看護に関心があり、大学4年の夏、卒業後の進路を在宅に決めました。

 

「新卒でも訪問看護師になれるという話は聞いていて、ゼミの先生も後押ししてくれました。看護師のキャリアとして、“普通”とは違うんだろうけど、私にとって特別なことではなかったです」

 

高田さん宅に置かれている他職種連携ノートの写真

利用者宅に置いてあるノート上でさまざまな施設、職種のスタッフが情報を共有する

 

入職後、先輩看護師の訪問に同行して間近でケアを学ぶうち、あることに気づいたときの驚きを覚えています。

 

「30分や1時間の訪問で看護師がやることって、それ自体はけっこう単純だったりするんですよね。認知症の利用者さんのお宅で薬をチェックしてセットするとか。

 

でも実は、いろんな角度、いろんな時間軸で検討したことを踏まえた上で『この30分でするべきこと』を決めてケアしています。

 

現在の症状チェックはもちろん、この利用者さんはどういう生き方をしてきた人なのか、今はどんな生活をしているのか、来週の訪問までにどういうことが起こり得るか、そして数年後はどうなっているか――。

 

それがわかったとき、すごくびっくりしました。びっくりして『訪問看護、おもしろい!』と思いました」

 

 

1人で訪問、「自分にできるのか…」

小倉さん、利用者家族、薬剤師の写真

在宅訪問の薬剤師さん(右)とも情報を共有する

 

その一方で「知識も経験も浅い新卒の自分に、こんな看護ができるのか」という思いも。そうは言っていても入職から半年ほどすれば、単独での訪問を任されるようになります。

 

「やっぱり最初は、利用者さんの足がむくんでいるだけで『これはどうしたら!?』とオタオタしちゃいました(笑)」。

 

ケアプロでは、こうした場面で新卒や若手に一人で判断させるのではなく、その都度、所長をはじめとする先輩看護師に電話で連絡・相談し、一緒に考えて決めるというプロセスを積み重ねます。

 

「現場で一人で判断しなければならないのは怖い」。訪問看護につきまとうこんな不安を、小倉さんたちケアプロの新卒訪問看護師はあまり感じたことがないのだそう。

 

「現場では確かに一人なんですけど、『一人でやってます!』という感覚は全然ないですね。先輩に助けられて経験を踏むうちに、これは大丈夫なレベル、これ以上ひどくなったらこうすると、だんだん自分で考えられるようになってきて、そうすると、また一段、訪問看護がおもしろくなりました」

 

 

正解のない訪問看護、白黒は付けないままで

笑顔でケアする小倉さんの写真

「いろんなやり方があっていいんだと思えるようになりました」と話す小倉さん

 

最近、ある経験が小倉さんに大きな気づきを与えました。

 

それは、起き上がるのが難しくなった利用者の女性宅での出来事。

 

小倉さんたち訪問看護師は、楽に身体を起こせるようにと、ベッドに手すりを付けることを提案し、女性も承諾。すぐにケアマネジャーと再訪問し、具体的に話を進めようとしたところ、女性は「やっぱり嫌だ」と拒否しました。

 

「どうして? 手すりがないと困るでしょう?」。

 

説得する小倉さんたちに、女性は「困らない」と言って、こう返したそうです。

 

「手すりを入れる入れないって、それは結局、あなたたちの筋書きでしょう?」

 

「ああ、そうだなあって思ったんです。

手すりがないと困るはずだ、必要なはずだと私たちはケアの筋書きを考えましたが、彼女の筋書きでは不要だったんですよね。

 

そして、そんな考えも含めて彼女という人。

 

看護師としてはこうするのがいいと思っても、それが常に正しいわけではない。『訪問看護に正解はないんだ』『それでもいいんだ』と思えるようになって、何か少し変わりました」

 

小倉さんはこう続けます。

 

「もしかしたら在宅は、答えがなくて不確実なことが病院よりも多いのかもしれません。白黒付けられないモヤモヤを白黒付けないまま向き合っていく、本人やご家族自身が納得できる答えを出せるまで待つ。そんなことが大事なのかなと思っています」

 

 

3年目で感じる責任の重みとやりがい

在宅患者さんの口腔ケアをする小川さん

小川奈美さんは3年目の訪問看護師。責任も増してきた

 

「訪問看護師として、自分の言動が持つ責任の重みは以前よりも感じますね」

 

キュッと表情を引き締めて、小川奈美さん(25歳)=ケアプロ訪問看護ステーション東京(足立ステーション)=は話します。

 

新卒から訪問看護師になった"3年生"。

状態の落ち着いた利用者を担当することが多かった1年目に比べて、看取りが近い利用者宅にも一人で訪問することが増えました。中には、このまま自宅で過ごすか、あるいは病院に行くか、医師から選択肢を提示されているような場合も。

 

「ご本人やご家族は迷って、訪問看護師の私に意見を求めたり、悩みを話したりしてくださいます。じっくりかかわって信頼していただいているからだと思うんですが、だからこそ、私の意見が過度に利用者さんたちの判断に影響しないかー。ご本人たちの望む選択ができるように、訪問看護師としてどうお話しするかは本当に難しいです」

 

そんな難しさにこそ、訪問看護のやりがいを見出してもいるようです。

 

利用者夫妻へ孫から贈られた表彰状の写真

部屋にはお孫さんからの「表彰状」も。訪問看護の現場はそれぞれの暮らしの場

 

 

訪問看護も新卒・若手の選択肢に

病院・診療所を中心に治療やケアが展開されてきた日本では、訪問看護は、まだまだこれからの領域。

 

今までは「豊富なキャリアがないと…」と、なかなか飛び込みにくかった世界ですが、徐々に新卒・若手の採用や育成に力を入れる訪問看護ステーションが増えてきました。この動きは「病院から地域・在宅へ」の流れを受けて、今後ますます広がっていくとみられます。

 

新卒を含む若手の看護師にとっても、訪問看護師というキャリアが以前よりも身近な選択肢になっていきそうです。

 

看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko

 

 

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(参考)

第142回社会保障審議会 介護給付費分科会 訪問看護(参考資料)・PDF(厚生労働省)

介護サービス施設・事業所調査(厚生労働省)

訪問看護アクションプラン2025(日本看護協会ほか)

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