医療的ケア児への在宅看護-事例1
『新訂第2版 写真でわかる小児看護技術 アドバンス』(インターメディカ)より転載。一部改変。
今回は医療的ケア児への在宅看護の事例について解説します。
佐々木祥子
東京都看護協会/小児看護専門看護師
訪問看護は、各家庭の環境に合わせながら、訪問時の児の様子のみではなく、訪問前までの様子も踏まえて総合的に判断する。ここでは、実際の様子を訪問看護の流れに沿って紹介する。
Aちゃんの場合(5歳/女児/訪問看護・訪問リハビリ利用/週1日幼稚園へ通園)
訪問看護の様子
挨拶
・これから訪問看護が始まることをお話しし、目線を合わせるようにして挨拶する(図1)。
・ Aちゃん周囲の環境を観察、安全の確認をする。
・ Aちゃんは看護師と遊ぶことを楽しみにしているため、Aちゃんといつ、どのような遊びをするか約束をする。
図1 挨拶

検温、観察
・ Aちゃんに話しかけながら、バイタルサインの測定をする(図2)。このとき、測定値やAちゃんの様子が普段と変わりないか観察をする。
・ 室温や湿度が体調に影響していないか、併せて観察する。
図2 検温と観察

家族との情報共有
・訪問するまでのAちゃんの様子を家族から聴取し、訪問時のバイタルサイン測定値や観察した内容を家族に伝え、Aちゃんの状態を家族と共有する(図3)。
・かかりつけ医や往診医に、次回診察時に報告、相談するようなことがあれば、家族と一緒に確認する。
図3 家族との情報共有

人工呼吸器の設定確認
・人工呼吸器の設定(換気圧や回数)、人工呼吸器回路から気管カニューレまでの接続の状態などを確認する(図4)。
・人工呼吸器回路の加温、加湿の状態を確認する。
図4 人工呼吸器の設定確認

口鼻腔吸引
・Aちゃんは唾液が気管へ垂れ込んでしまうことがあるため、唾液の垂れ込みを予防するため、入浴前や移動前のタイミングで口鼻腔の吸引をする(図5)。
図5 口鼻腔吸引

脱衣
・ Aちゃんは全身の筋力低下と軽度の下肢の拘縮があり、脱衣時に骨折する危険性がある。
自力で脱衣できないため、関節可動域を考慮しながら送り袖で脱衣する(図6)。
図6 脱衣

計測
・Aちゃんは月1回身体計測(体重・身長)を行っている。立位での計測ができないため、側臥位で3か所に分けて測定する(図7)。
*測定法や測定箇所の分け方は、身体の変形等の特徴に合わせて選択する。
・測定時は保温に留意し、前回の測定値を把握しておき、測り直しがないようにする。
図7 計測

入浴
・ お母さんと役割を分担して入浴介助をする(図8)。
・看護師は、Aちゃんが沈み込まないように体を支え、気管切開部、人工呼吸器接続部に水がかからないよう注意を払う。
・入浴中はパルスオキシメーターを外しているため、顔色や呼吸状態は特に注意する。
・入浴後の着衣時は、脱衣時と同様に関節可動域や気管カニューレ等に注意しながら、迎え袖で行う。
図8 入浴

整髪
・ドライヤーの作動音で人工呼吸器のアラーム音が聞こえにくくなるため、Aちゃんの様子や人工呼吸器を目視で確認する(図9)。
・ドライヤー施行時は、首が動きやすいため、人工呼吸器と気管カニューレの接続部が外れないように注意する。
図9 整髪

移動
・Aちゃんは嚥下機能が弱く唾液の垂れ込みが起こることがあるため、上体を挙上しすぎないようにして移動する*(図10)。
*どの角度で垂れ込みが起きやすいか把握しておくことが重要である。
・筋力が低下しているため、四肢の重みで脱臼や骨折をしないように、手首はバンド等で、下肢も膝下を確実に固定する。
図10 移動

カニューレバンドの交換
・カニューレバンドの交換は、カニューレの抜去がないように2人で行う(図11)。(Aちゃんの場合、お母さんがカニューレを押さえ、看護師がカニューレバンドを交換している。)
・発汗や蒸れなどでカニューレバンド装着箇所に発赤が生じることがあるため、清拭、保湿をして清潔に保つ。
図11 カニューレバンドの交換

気切孔の観察
・気管カニューレや吸引チューブの刺激により気管粘膜に肉芽が生じることがあるため、適宜観察する(図12)。
図12 気切孔の観察

気管内吸引
・気管粘膜の損傷や肉芽防止のため、吸引チューブは決められた長さを挿入する(図13)。
・気管内分泌物が硬いとカニューレ内が閉塞する可能性があるため、分泌物の性状や量を観察し、適度な粘稠度になるように人工呼吸器の加温加湿器を調節する。
図13 気管内吸引

ミキサー食の注入
・胃瘻栄養法では半固形物を注入できるため、家族が食べているものと同じ、さまざまな食品をミキサー食にして摂取することが可能である(図14)。
・注入前後は、胃瘻孔や周囲の皮膚の状態を観察する(図15)。
図14 ミキサー食の注入

図15 注入中は状態を観察する

・食事に興味や楽しみをもたせるため、注入する食材を伝えたり、ミキサー食を見せて、食品の香りや温かさを伝えたりする(図16)。
・初めて注入する食品は、アレルギー症状の出現に注意する。
図16 ミキサー食を見せて食品の香りや温かさを伝える

遊び
・訪問時の遊びの時間は5~10分程度と短いが、可能な限りAちゃんが希望する遊びを選択する。
・この日はウサギの折り紙を一緒に作ると決定(図17)。サインペンの把持は手伝い、目や鼻を一緒に書く。
図17 ウサギの折り紙を一緒に作る

訪問リハビリ
姿勢保持・理学療法
・Aちゃんの体型にあった固定具を使用。成長に伴い適宜調整する。
・Aちゃんの拘縮を予防するために、肩関節や下肢の可動域を拡げる動きを実施している(図18、図19)。
図18 姿勢保持と理学療法

図19 姿勢保持と理学療法

幼稚園への通園(週1回)
登園
・バギー乗車中は、振動により排痰が促進されることがあるため、呼吸状態をよく観察する(図20)。
・必要時すぐに吸引ができるように、吸引器はAちゃんの傍に配置しておく。
図20 幼稚園への登園

幼稚園での様子
・登園には感染予防など注意が必要だが、仲良しの友達と会えるため、Aちゃんは幼稚園に行くことをとても楽しみにしている(図21)。
図21 幼稚園での様子

・この日はいつもより気管内分泌物が多いため、幼稚園の看護師が適宜状態を観察し(図22)、Aちゃんが参加可能なプログラムを幼稚園教諭と検討している。
図22 幼稚園の看護師が状態を観察する

・お迎えの車が到着するまでの時間で、幼稚園教諭、看護師と折り紙で遊ぶ(図23)。
図23 折り紙で遊ぶ

降園(図24)
図24 幼稚園から降園

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本連載は株式会社インターメディカの提供により掲載しています。
単行本に収録されているWeb動画は掲載していません。視聴されたい場合は、単行本をお買い求めください。
[出典] 『新訂第2版 写真でわかる小児看護技術 アドバンス』 監修 山元恵子/編著 佐々木祥子/2022年7月刊行/ インターメディカ


