クリアランス|尿の生成と排泄

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。

 

[前回の内容]

腎臓の基本的機能|尿の生成と排泄

 

今回は、クリアランスについて解説します。

 

片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授

 

Summary

  • クリアランスの算出式は、心拍出量を求めるフィックの原理と同様にして導くことができる。
  • クリアランスは、血漿中の物質をすべて尿中に排泄するために必要な血流量と考えることができる。

 

〈目次〉

 

クリアランスとフィックの原理

腎機能を評価する重要な指標の1つにクリアランス clearance がある。このクリアランスの概念は、心拍出量を求めるフィックの原理 Fick principle と比較すると分かりやすい(図1)。

 

図1フィック Fick の原理とクリアランスの比較

フィック Fick の原理とクリアランスの比較

 

図1心臓に流入する混合静脈血の酸素濃度をCv、流出する動脈血の酸素濃度をCa、肺における酸素摂取量をVドットo2とすると、時間⊿tにおける酸素の量(重量、分子数など)に関して、流入O2量 + 摂取O2量 = 流出O2量 という式が成立する。ここで、Qドットは心拍出量である。

 

腎臓でクリアランスを考える場合、フィックの式における流入する動脈に相当するのが輸入細動脈、流出する静脈に相当するのが輸出細動脈である。クリアランスは糸球体で濾過される物質に関する量なので、血漿中の物質が糸球体ですべて濾過された場合の輸出細動脈におけるその物質の濃度はゼロと考える。

 

したがって、血漿中の量-尿中の量=0 という式が成立する。このような比較から分かるようにC(クリアランス)には「血漿中の物質をすべて尿中に排泄するのに必要な血流量」という意味がある。

 

代表的な物質のクリアランス(表1

表1代表的な物質のクリアランス

代表的な物質のクリアランス

 

尿の生成に関する腎臓の3つの基本的機能(『腎臓の基本的機能』参照)とクリアランスとの関係で考えると、クリアランスとは、濾過される物質に着目した指標といえる。着目する物質が濾過された後、再吸収あるいは分泌されるか否かによって、クリアランスは特徴的な値をとる。

 

グルコースは生体にとって重要な物質なので、通常は、濾過されたものは100%再吸収されて尿中には出ない。ただし、血糖値が高くなると再吸収しきれなくなり、尿中に糖が出る(糖尿 glucosuria)。

 

イヌリン inulin は再吸収も分泌もされず、濾過されたものがすべて尿中に出るので、尿中のイヌリン量は血漿中の濃度(P)に糸球体での濾過量(糸球体濾過値) glomerular filtration rate (GFR)をかけたものになる。

 

パラアミノ馬尿酸 p-aminohippuric acid (PAH)は、生体にとって不要なものなので分泌され、再吸収はされない。したがって、尿中のPAH量は血漿中の濃度(P)に糸球体および尿細管周囲の毛細血管における血漿流量(腎血漿流量) renal plasma flow (RPF)をかけたものになる。

 

イヌリンの代用物質

イヌリンと同様に再吸収も分泌もされない物質として、チオ硫酸ナトリウム sodium thiosulfate やクレアチニン creatinin などがある。クレアチニンは、イヌリンやチオ硫酸ナトリウムと異なり、骨格筋などでクレアチンリン酸 creatine phosphate からつくられる生体内にある物質なので静注する必要がないという利点がある。

 

Nursing Eye糖尿

糸球体で濾過された血中ブドウ糖 blood glucose は近位尿細管でほとんどが再吸収され、健常人では尿中に出るのは微量(2~20mg/dL)である。しかし、糖尿病などで血糖値が尿細管の再吸収限度(尿細管最大輸送量) tubular transport maximum (TmG)を上回って上昇すると糖尿が現れる。このような状態でみられる糖尿をオーバーフロー糖尿 overflow glucosuria という。TmGの値は約400mg/dLである。血糖値がTmGよりも低いにもかかわらず、糖尿が現れる場合を腎性糖尿 renal glucosuria という。

 

[次回]

腎臓の酸分泌機構|尿の生成と排泄

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版

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