気管切開患者の気管カニューレ交換後、皮下気腫ができた!
『看護のピンチ!』(照林社)より転載。
今回は、気管カニューレが皮下迷入した際、どう対応すればいいかわからなくて迷った場合について解説します。
兵庫医科大学病院 看護部
クリティカルケア認定看護師

ピンチを切り抜ける鉄則
気管カニューレの皮下迷入を防ぐためには、気管カニューレ交換時にバッグバルブマスクによる換気で胸郭の動きを確認することやEtCO2モニタの装着によって気管にチューブが入ったことを必ず確認することが大切です。
また、気管切開術後早期は、肉芽の形成が不十分であることから、皮下迷入のリスクが高いことを念頭に置いて、カニューレ交換を行うことが必要です。
- 気管切開患者のカニューレ交換時に注意しないといけないのが、皮下迷入です。
交換時に留置位置を誤ってしまうと皮下気腫が生じてしまい、呼吸状態の悪化を招いてしまいます。
そのため、気管カニューレ交換時には、正しい位置に気管カニューレが挿入されているか確認し、呼吸状態や皮下気腫の有無を必ず観察しながら実施しなくてはいけません。
起こった状況
症例
患者Aさん。誤嚥性肺炎による呼吸不全で入院し、気管挿管管理となり、人工呼吸器からの離脱が困難のため、気管挿管2週間後に経皮的気管切開を行いました。
気管切開1週間後、初めての気管カニューレ交換です。
医師とともに気管カニューレを交換した後、皮下気腫が発生してしまい、人工呼吸器の換気不良アラームが鳴りSpO2の低下が見られました。
受け持ち看護師は何が起こったかわからずオロオロしています。
どうしてそうなった?
気管切開術後早期(およそ2週間程度)は、創部の気管・筋肉・甲状腺の間の肉芽の形成が不十分であり、気管孔の瘻孔が完成していないため、気管カニューレの逸脱・迷入によるリスクが大きいと言われています(図1)。
図1気管カニューレ皮下迷入

外科的気管切開の切開法には逆U字、前方切開法などさまざまあります。
外科的気管切開法の1つである逆U字切開法(図2)は、気管壁が縫合されていますが、それだけで気管切開孔が安定し、再挿入が容易な状況とは言えません。
図2逆U字切開法

気管全面に逆U字型に割線を入れ、窓を開くように気管を開け、気管軟骨と切開皮膚を縫合する。
また、最近では経皮的気管切開の製品化された専用のキットも普及しています。
しかし、経皮的気管切開法は、手技は簡便ですが、手術操作が盲目的であり、気管と皮膚を縫合しないため、気管カニューレの気管外への迷入の危険性が高いと言われています。
反対に、永久気管孔では、気管が皮膚に直接縫合されているためカニューレを抵抗のない方向に進めれば自然と挿入できます。
そのため、気管カニューレ交換時期や、気管切開の手技を理解しリスクをアセスメントした上で気管カニューレ交換を行うことが重要になります。
どう切り抜ける?
1 気管カニューレの位置を確認する
気管切開後には、まずバッグバルブ換気により、胸郭の挙上が得られるかどうか確認した上で、人工呼吸器が正常に作動し、気道内圧や換気量アラームは鳴っていないか、吸引カテーテルが挿入できるか、胸郭の動きはスムーズに行われているかの観察を行います。
さらに、カプノメータを装着し、呼気終末二酸化炭素(以下、EtCO2)を測定し、呼出曲線が正常(矩形波)であることを確認すること(図3)や、内視鏡で気管分岐部を確認する方法は、より確実な方法として推奨されています。
図3EtCO2モニタの矩形波

EtCO2モニタは、換気の評価に役立つ。短形波が現れているということは気管に気管カニューレが挿入できていることを示す。
2 気管カニューレの皮下迷入を疑う場合
逸脱・迷入した気管カニューレから強制的に強制換気を行うと、皮下気腫や縦隔気腫、緊張性気胸を発症し、呼吸状態がさらに悪化します。
そのため、気管カニューレを抜去し、再度正しい気管カニューレ位置に挿入し直します。
しかし、気管切開術後早期に気管カニューレが逸脱・迷入を生じた場合は、気管切開孔からの再挿入に固執せず、経口でのバッグバルブマスクによる換気や経口からの気管挿管に切り替えることも重要になります。
そのため、あらかじめ気管挿管の準備なども整えておきましょう。
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1) 木下佳子:いざというとき困らない!人工呼吸器・気管切開まるわかり.照林社,東京,2019:92-94.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のピンチ』 編集/道又元裕/2024年4月刊行/ 照林社


