痰がなかなか取れず吸引圧を上げたら出血した!

『看護のピンチ!』(照林社)より転載。
今回は、気管挿管患者の痰が固く、吸引圧を上げて実施したところ出血してしまった場合について解説します。

武見 和基

日本医科大学多摩永山病院看護部
集中ケア認定看護師

 

 

 

気管挿管患者の痰が固く、看護師が吸引圧を上げて実施したところ出血してしまった様子のイラスト

 

 

ピンチを切り抜ける鉄則

吸引圧は20kPa(150mmHg)程度を上限とし、実施前に必ず設定を確認しましょう。
出血が起きた場合には、呼吸状態と痰の観察を継続するとともに凝固異常や抗血栓療法の有無について確認しましょう。
異常がある場合には、速やかに医師へ報告し対応します。
また、痰の粘稠度を下げるため、体液バランス、気道の加湿(加湿器の使用)、去痰薬について検討し改善を促しましょう。

 

POINT
  • 痰が粘稠で吸引しづらい患者さんに遭遇することがあります。
    このような患者さんに高い圧で吸引を行うと、気管粘膜を損傷してしまう恐れがあります。
    出血が持続すると、場合によっては呼吸状態が悪化して緊急処置を要する状況となります。
    適切な圧力で吸引を実施して出血を予防することが大切です。

 

起こった状況

症例

患者Aさん、肺炎で入院中。気管挿管し、人工呼吸器を装着しています。
担当看護師が訪室するとAさんが咳嗽をしていました。聴診では前胸部で低音性連続性ラ音(ロンカイ)が聴こえていました。
はじめ20kPa(150mmHg)で吸引を行いましたが、痰が粘稠でなかなか除去できません。
そこで、看護師が吸引圧を40kPaへ上げて実施したところ次第に血液混じりの痰が引けてきてしまいました。
看護師はどうすればよいのかわからずにオロオロしています。

 

 

どうしてそうなった?

高い吸引圧による気管粘膜損傷が原因と考えらえます(図1)。

 

図1気管粘膜損傷

気管粘膜損傷を表したイラスト

高圧や繰り返す吸引刺激により粘膜損傷が誘発される。

 

気管粘膜には細かい血管があり傷つきやすいため、吸引圧は20kPa(150mmHg)以下で行うことが推奨されています。
出血が持続する場合には、酸素化や換気が障害され呼吸状態が悪化する可能性があります。

 

 

どう切り抜ける?

1 呼吸状態を観察する

吸引を中止し、呼吸状態を観察します。患者さんの自覚症状や肺音、SpO2 、人工呼吸器のパラメーターを観察します(図2)。

 

図2呼吸状態の観察

呼吸状態の観察を表した図

 

低酸素血症や人工呼吸器のパラメーターに異常がないかを観察し、平常に戻れば吸引を行わず経過観察とします。

 

2 痰の性状を観察する

量・鮮血かなどの性状を確認します。血液の割合が少ない場合には、気管粘膜損傷が軽度と考えられ、自然に止血することを期待して経過観察とします。
しかし、気管粘膜損傷の程度が大きい場合、また凝固異常や抗血栓療法中は、出血が持続する可能性があるため注意深く経過観察を行います。

 

3 凝固機能のチェック

凝固関連の検査データ(血小板数、APTT、PT-INR)に異常値がある場合や、抗血栓療法を行っている場合には出血が持続するリスクが高まるため、医師へ報告し指示を仰ぎます。

 

4 気管支鏡による処置

呼吸状態が悪化した場合には、気管支鏡による診断と処置が行われる場合があります(図3)。

 

図3気管支鏡

気管支鏡を表したイラスト

気管支鏡では診断と痰の除去、止血処置を行うことができる。

 

筆者の経験ですが、気管粘膜損傷から呼吸状態悪化を来し気管支鏡による処置を要した例がありました。
肺炎で気管挿管中の患者さんで人工呼吸器のグラフィック波形で痰の貯留が疑われ、呼吸音は前胸部での低音性連続性ラ音(ロンカイ)、触診では前胸部に振動がありました。
血痰が吸引され、SpO2、1回換気量、分時換気量の低下が起こりました。
医師へ報告し、吸入酸素濃度100%への変更と気管支鏡が行われることとなりました。
気管粘膜の複数箇所にびらんがあり、じわじわとした出血が起きていました。

 

また、凝血が気管支を閉塞させており、換気が妨げられている状態でした。
気管支鏡で肉眼的に確認しながら凝血を吸引することで、徐々に呼吸状態の改善が得られました。
この患者さんは敗血症で凝固異常を伴っていました。
吸引は適正圧で実施されていましたが、徐々に気管粘膜損傷が進んだことが原因と考えられました。

 

図4気管支鏡検査画像(気管分岐部)

気管支鏡検査画像(気管分岐部)

日本呼吸器内視鏡学会:気管支鏡-臨床医のためのテクニックと画像診断 第2版.医学書院,東京,2011:61.を参考に作成

 

 

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引用文献 閉じる

1) 日本呼吸器内視鏡学会:気管支鏡-臨床医のためのテクニックと画像診断 第2版.医学書院,東京,2011:61.

 

参考文献 閉じる

1) 日本呼吸療法医学会気管吸引ガイドライン作成ワーキンググループ:気管吸引ガイドライン2013,日本呼吸療法医学会,2013.

2) 日本呼吸療法医学会気管吸引ガイドライン作成ワーキンググループ:わかる!できる!気管吸引あんしん教育ガイド.メディカ出版,大阪,2011.

3) 安倍紀一郎,森田敏子:関連図で理解する呼吸機能学と呼吸器疾患のしくみ.日総研出版,名古屋,2009.

 


 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『看護のピンチ』 編集/道又元裕/2024年4月刊行/ 照林社

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