気管切開患者にトラキマスクで酸素投与中、努力呼吸が出現した!

『看護のピンチ!』(照林社)より転載。
今回は、マスクがはずれて、気管切開孔を塞いでいた場合について解説します。

栗木 公孝

嶋田病院 看護部

クリティカルケア認定看護師

 

 

 

ピンチを切り抜ける鉄則

固定ストラップの緩みや体動などマスクのずれが生じる危険性がある場合は、生体情報モニタを併用することで異常の早期発見につなげることができます。

 

トラキマスクの特性と安全性を理解し、閉塞リスクの高い患者さんの場合は使用するT型コネクタなど別製品を検討します。

 

POINT
  • 患者さんの体動や固定状態などによりトラキマスクの装着位置にずれが生じた場合、マスクが気管切開チューブのコネクタ口を塞ぎ、気道を閉塞する恐れがあるため、リスクを考慮して使用を検討します。
  • トラキマスクを使用する際は、患者さんの状態に応じて生体情報モニタを併用しながら呼吸パターンを注意深く観察・アセスメントする必要があります。

 

 

起こった状況

症例

患者Aさんは気管切開チューブを装着し、トラキマスクを使用し酸素投与を行っていました。

Aさんは体動が多くトラキマスクのずれを生じやすい状況でした。

装着していた生体モニタ(心電図モニタ)の酸素飽和度低下のアラームが鳴り、看護師が訪室したところ、Aさんは努力呼吸が認められ、蒼白となり、四肢はチアノーゼ症状を認めました。

 

どうしてそうなった?

患者さんの体動によりトラキマスクを固定するバンドが緩みマスクがずれ、気管切開チューブのコネクタ口がトラキマスクにより塞がれた状態です。

そのため、マスクにより気切口が閉塞したことで呼吸による空気の流入が妨げられることで気道閉塞となりました。

空気の通り道が塞がることで、吸気仕事量(弾性仕事量)が増加し、呼吸補助筋を使用した呼吸パターンとなり努力呼吸が出現しました。

 

どう切り抜ける?

1 気管切開患者の酸素療法の選択

人工呼吸管理は必要ありませんが、気管切開チューブが挿入され、酸素療法が必要な患者さんは上気道がバイパスされているため、必ず加温加湿が必要になります。

 

加温加湿の方法としては、酸素療法における加温加湿か、人工鼻の装着のどちらかがあり、酸素流量によっていずれかを選択します(図11

 

図1気管切開患者における酸素療法の選択

道又元裕:新人工呼吸ケアのすべてがわかる本.照林社,東京,2018:122.より引用

 

酸素投与の必要がない場合は人工鼻(トラキベント®)を使用し、低流量システム(酸素3L/分以下)の場合はトラキベントプラス®を使用します。

 

また、高流量システム(酸素4L/分以上)の場合は、トラキマスクまたはトラキTアダプター(Tピース)とヒーターケンドール®などを使用して酸素投与を行います。

 

2 トラキマスク使用時の注意点

トラキマスクを使用する際は、マスクの固定が緩いと患者さんの体動などによりマスクがずれ、マスクによるチューブ閉塞のリスクがあるため(図2)、マスクがずれないよう固定します(図3)。

 

図2マスクがずれてチューブを閉塞

 

図3トラキマスク固定

 

また、マスクがずれやすい患者さんや閉塞リスクのある場合は、生体情報モニタを併用することで、変化の早期発見につながります。

 

トラキマスクを使用する場合は、呼吸異常を早期に発見する必要があります。

緊急かつ注意を要する呼吸状態に「上気道閉塞」があります。

通常、吸気時に胸郭も腹部も拡張していきますが、空気の通り道である気道が閉塞すると胸部と腹部が同期せず、吸気時に上腹部が陥没する呼吸パターン(シーソー呼吸)になります。

視診で患者さんの頸部から胸を観察し、吸気時に胸骨部、鎖骨上部の陥没、首周りの筋肉を使用した呼吸パターンの場合、空気の通りが悪いと考え、直ちに空気の通り道(気道)を確保する必要があります。

 

3 他の製品も検討する

トラキマスクと同じ使用目的を有する製品として、気管切開チューブに接続して使用する、人工鼻やT型コネクタもあるため、患者さんの体動や固定状態によりチューブ閉塞のリスクがある場合は、それらを使用することで、気管切開チューブ閉塞のリスクがなく安全に酸素供給を行うことができます(図4)。

 

図4人工鼻装着時の酸素療法

 

引用文献 閉じる

1)道又元裕:新人工呼吸ケアのすべてがわかる本.照林社,東京,2018:122.

 

参考文献 閉じる

1)医薬品医療機器総合機構    PMDA    医療安全情報:https://www.pmda.go.jp/files/000145217.pdf(2024/3/18アクセス)

2)トラキマスク取扱説明書:https://www.j-mednext.co.jp/cms/wp-content/uploads/2017/12/gm-14.pdf(2024/3/18アクセス)

 


 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『看護のピンチ』 編集/道又元裕/2024年4月刊行/ 照林社

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