マスクが1日1枚…!!新型コロナウイルスで不安な看護師のためのQ&A

新型コロナウイルスで不安な看護師のためのQ&Aタイトルイラスト

医療では必須のはずの個人防護具…特にマスクが不足している状況が続いています。 マスクの使用制限がある中で、看護師の皆さんが不安に思っていることを感染症専門医が解説します。

※2020年4月24日時点の情報に基づいています。

 

▼基本のQ&Aはこちら▼

【新型コロナウイルス】看護師のためのQ&A~予防・検査・患者さんへの対応は?

 

 

浜松医療センター
院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長
矢野邦夫

 

 

新型コロナウイルス、今わかっていることは?

 

新型コロナウイルスって結局どんなウイルスなんですか?

 

これまでヒトに感染するコロナウイルスには6種類がありました(図1)。そのうちの4種類が風邪ウイルスです。日常みられる風邪の10~15%ほどはコロナウイルスが原因です。

 

 

このほかに、SARSやMERSを引き起こすコロナウイルスがあります。これらは重症肺炎が起こりやすいため、致死率が高く、SARSは10%、MERSは37%です1)


 

 

図1 コロナウイルスの種類

コロナウイルスの種類の解説図

 

2019年12月に中国の武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症(正式名:COVID-19)は、当時の致死率が20%ほどであったため、SARSやMERSの仲間ではないかと危惧されていました。しかし、最近の日本での致死率は2.4%ほどとなっています(今後、PCR検査抗体検査が一般化し、感染者数が把握されれば、致死率はさらに低下するものと思われます)。将来は新型コロナウイルスは風邪コロナウイルスの仲間になるのではないかと言われています。

 

 

新型コロナウイルスの潜伏期間と臨床症状は?

 

 

新型コロナウイルスの潜伏期間と臨床症状は図2の通りです。

 

図2 新型コロナウイルス感染症の症状と経過

図2、感染から発症までの潜伏期間5~6日間、発症~約5日で発熱・乾性咳・倦怠感など。80%の患者は軽症・中等症で回復する。発症して約5~7日に15%の患者が重症化し、呼吸困難・低酸素・頻呼吸などの症状が出る。約8日以降、5%の患者が重篤となり、呼吸不全、多臓器不全、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などに陥る

 

新型コロナウイルス感染症の患者さんの場合、CT所見は発症後1~2週間目までに明らかな異常所見が見られ、3週目から徐々に軽減します(ただし、CT所見だけで新型コロナウイルス感染症と診断することは困難です2))。

 

重症化と死亡のリスク要因は「60歳以上」「基礎疾患(高血圧、糖尿病、心血管疾患、慢性呼吸疾患、癌など)があることです。致死率は年齢とともに高くなり、80歳以上で21.9%と報告されています3)

 

子どもは新型コロナウイルスに罹患しても症状が出ることは少なく、重症度も低いことが明らかになっています。発熱があるのは感染した子どもの41.5%で、15.8%の子どもは感染しても無症状でした(X線検査でも肺炎像は見られません)。確かに、重篤となった子どもはいますが、全員が基礎疾患(水腎症、白血病など)や腸重積などの疾患を持っていました4)

 

そのため、日常的に元気な子どもで、新型コロナウイルス感染症によって重症化するというような問題はほとんどないでしょう。

 

 

新型コロナウイルスの感染ルートは?空気感染の可能性はありませんか?

 

新型コロナウイルスは飛沫感染もしくは接触感染します。しかし、ヒトからヒトに長距離にわたって伝播する空気感染の可能性はありません5)

 

ただし、エアロゾル産生処置(挿管・人工呼吸器、ネブライザー治療など)を行うときには空気予防策を実施します6)

 

なお、エアロゾル感染と空気感染が混同されることがあるので、その違いを明確にしたいと思います(図3)。

 

図3 エアロゾル感染と空気感染の違い

 

エアロゾルは「煙霧や粉塵のように、さまざまな微粒子が空気中に漂っているもの」と定義されます7)

 

このエアロゾルに病原体が含まれていれば、患者さんの周囲にいる人々に伝播することになります。しかし、エアロゾル感染では病室を越えた長距離での伝播はありません8)

 

一方、空気感染では病原体は飛沫核に乗って移動します。飛沫核は空気中に長時間浮遊でき、空気流に乗って室内のみならず、病室を越えての隣接空間にも移動できます8)

 

 

マスク制限がある時の注意点は?

 

マスクの使用制限が出ています。どのようなことに気をつければいいですか?

 

1日1枚など、マスクの使用制限があるときは、患者さんの1メートル以内でケアする可能性があるスタッフはサージカルマスクを着用し、それ以外のスタッフ(事務系など)はサージカルマスクではなく、家庭用マスクや布製マスクを着用します。手指衛生を徹底するという対策は継続します。

 

その際、マスクを付けたり外したりを行うことも考えられます。そういった場合には、個人の名前を書いた紙袋に保存するとよいと思います。
紙袋で保存するのは、マスクの表面にはウイルスが付着している可能性があるので、手指や環境表面を汚染させないためです。

 

なお、保存する際には、マスクの口が当たる方を手で触れないように内側に折りたたみ、紙袋に入れましょうマスクを出し入れする際には、必ず手指消毒をするようにしてください。

 

なお、マスク交換は「肉眼的に汚染したと思われたとき」もしくは「飛沫を浴びたとき」に交換するようにします。

 

これは私の私見ですが、新型コロナウイルス感染症の効果的な感染対策の重要度はマスクよりも手指衛生の方が大きいと思います。

 

新型コロナウイルスの環境表面での生存時間は、紙の上では1日以内、プラスチックの上では3日以内と比較的長時間です9)

 

そのため、ドアノブや手すり、患者さんの周辺環境には感染性を保ったウイルスが付着している可能性が高いことを認識しておきましょう。

 

一方、飛沫感染には、図4のような4つの条件が必要です。

 

図4 飛沫感染の4つの条件

患者さんから1メートル以上離れていれば、患者さんがをしたとしても感染することはないでしょう。逆に、患者さんから1メートル以内にいても、患者さんが咳をしなければ、また、患者さんと会話しなければ感染しません。患者さんが咳やくしゃみをするときに咳エチケットをすれば感染する機会はさらに減少します。

 

このように感染の確率を比較すると、「手指を介しての感染の方が飛沫感染より可能性が高い」と推定されます。

 

つまり、「マスクは着用しなくても、手指衛生を徹底する」ことが感染のリスクをかなり低くすると思います。

 

なお、咳エチケットのように周囲に飛沫が飛び散るのを防ぐために使用するマスクであれば、サージカルマスクである必要はありません。この場合にはティッシュでも構わないのですから、家庭用マスクや布製マスクを用いたり、それらの再利用でも問題ないことになります。

 

マスクの在庫が枯渇したときには、「絶対にサージカルマスクが必要な区域」以外では家庭用マスクや布製マスク、およびそれらの再利用マスクをやむなく使用することもあるでしょう。

 

 

さいごに

新型コロナウイルスとの戦いは長期化すると推測されています。おそらく1~2年の戦い、あるいはそれ以上の年月を要するかもしれません。

 

最近は「コロナ疲れ」とか「閉塞感がつらい」などと訴える人も増えています。このような疲労感や閉塞感は差別や偏見を生み、感染した患者さんや家族だけでなく、患者さんをケアする医療従事者まで差別の対象となるケースが残念ながら起きているようです。

 

当たり前ですが、こうした差別は断じてあってはならないことです。

 

もし万が一、「保護者が医療従事者のお子さんは、保育園への登園を控えてほしい」「家族が出勤を拒まれた」といった不当な扱いを受けてしまったら、とてもつらいと思いますが、文書にして渡してもらうなど、毅然とした態度で臨んでください

 

また、そのようなときには勤務先にも報告し、一人で不安を抱え込まないようにしましょう。

 

2009年の新型インフルエンザのときも社会はパニック状態に陥り、致死率が低いにもかかわらず過剰な感染対策を続けたことが後々、強く反省されました。
私たち医療従事者はプロフェッショナルです。常に冷静に対応することが大切です。 新型コロナウイルス感染症の流行はしばらく続くかもしれません。しかし、収束する日は必ず来ます。それまで、一緒に頑張りましょう。

 


著者紹介

矢野邦夫(やのくにお)
浜松医療センター 院長補佐兼感染症内科部長兼衛生管理室長
医学博士。インフェクションコントロールドクター。感染症専門医・指導医。抗菌化学療法指導医・認定医。日本エイズ学会指導医・認定医。血液専門医。日本輸血・細胞治療学会専門医。日本内科学会指導医・認定医。日本感染症学会・日本環境感染学会評議員。日本医師会認定産業医

 


[文献]

1)Wang C, et al. A novel coronavirus outbreak of global health concern.(2020年3月閲覧)

2)Shi H, et al. Radiological findings from 81 patients with COVID-19 pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study.(2020年3月閲覧)

3)Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019 (COVID-19).(2020年3月閲覧)

4)Lu X, et al. SARS-CoV-2 Infection in Children.(2020年3月閲覧)

5)CDC. Interim Infection Prevention and Control Recommendations for Patients with Suspected or Confirmed Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) in Healthcare Settings.(2020年3月閲覧)

6)WHO. Infection prevention and control during health care when novel coronavirus (nCoV) infection is suspected.(2020年3月閲覧)

7)CDC. Aerosols.(2020年3月閲覧)

8) CDC. 2007 Guideline for Isolation Precautions:Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare settings,.(2020年3月閲覧)

9)N van Doremalen, et al. Aerosol and Surface Stability of SARS-CoV-2 as Compared with SARS-CoV-1.(2020年3月閲覧)

 


看護roo!編集部 林 美紀/烏美紀子(@karasumikiko

 

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