手軽で安い「ボトックス」受ける前に知っておくべき注意点
知っておきたいボトックスの事実―Botox Injections
シワ治療「ボトックス」は、切らない気軽さ・10分程度で終わる手軽さ・手の届きやすい費用などから、アンチエイジングの救世主として世界中で瞬く間に爆発的な人気となり、その波はここ日本にも普及しています。
しかし、アメリカでは、手軽さゆえに安易に繰り返されるボトックスに警鐘を鳴らすニュースや記事、副作用や健康被害の事例が増えているのも事実です。
【Index】
・本日のKey Word:frown lines(眉間のシワ)
セレブから火がついたアメリカのボトックス事情
2002年に日本の厚生労働省にあたるアメリカの政府機関:FDAが美容目的のボトックスを承認して以降、手軽で合理的なことを好むアメリカ人のあいだでボトックスが大流行し、今や年間の施術数は700万件に届く勢いと報告されています。
ボトックスの手軽さと若返りの即効性が世間に浸透した結果、製造元が不明瞭な安価なボトックスがインターネットで購入できたり、アルコール等が用意されたパーティーでボトックス施術を行う「ボトックスパーティー」が流行ったりなど、行き過ぎたボトックスの実態が数年前から問題視されているのも事実です。
多くの美容外科医たちは、安易に繰り返される危険なボトックス施術を危惧し、その副作用や合併症を未然に防ぐ必要性を利用者に提唱しています。
ボトックスの健康被害と合併症
ボトックスは、シワ治療目的で開発された薬ではなく、もともとは、食中毒の原因として知られるA型ボツリヌス菌の毒素が筋肉を麻痺させる作用があることから、眼瞼や顔面の痙攣治療薬として承認された薬剤です。
比較的副作用の少ないと言われるボトックスですが、主に注射をする部位は顔面です。顔面には、顔面筋の運動などをつかさどる第7脳神経の顔面神経が耳下から放射状に分岐しています。すべての顔が異なるように、神経の走り方も人それぞれ異なるため、施術前には解剖学的な知識を持つ医師の専門的な診察が不可欠です。
ボトックスの健康被害は、目的が美容のため「失敗例」として一般的に知られています。主に、上まぶたの眼輪筋・額の前頭筋に過度のボトックスや深部にまで注射した場合の眼瞼下垂、内出血、複視、さらに新たなしわの形成などが報告されています。ほとんどが薬剤自体の健康被害ではなく、経験不足の医師の知識や技術が招いたケースと言えます。
美容外科医自身が提唱する正しい医師の選び方
アメリカの美容外科医たちは、ボトックスの健康被害を未然に防ぐ鍵は、「正しい医師と正しい病院の選択にある」と述べています。きちんと施術前の診察で解剖学的アセスメントを行い、ボトックスに伴うリスクや副作用の可能性、それらの回避の仕方などをきちんと説明する、または、質問したときにきちんと説明できる医師であるかどうかが、「正しい医師」を選ぶポイントだといいます。
それは決して、ボトックスパーティーに出向き、ほろ酔い気分で施行するような医師ではありません。
私自身、アメリカに住み人々の暮らしを垣間見たり、看護師として患者や医療者と接したりしていると、「ここすごく安かった」「いい先生だった」など情報交換は盛んなことがわかります。でも、病院のウェブサイトにいってどんな薬剤を使っているか、医師の経歴などを調べようとする人はあまり見たことはありません。ちなみにボトックスに限らず、「流行っているからとりあえずやってみる・買ってみる」という人がとにかく多いです。
「いい先生」とは、「よくお話をしてくれるフレンドリーな先生」のことをいいます。安くボトックスができてフレンドリーな先生がいれば、「いい先生でいい病院」という基準を満たすのです。
ボトックスは手軽さが魅力ですが、れっきとした医療行為です。「いい」ではなく「正しい医師と正しい病院」を選ぶために、ポイントを踏まえた情報収集を事前に行い、正しい判断ができるよう時間をかけるべきです。
日本では、どのクリニックが自分の理想とする施術を提供しているか事前に調べ吟味する人が多いかもしれません。しかし、全ての美容広告が正しい情報を載せている保証はなく、日本の美容業界特有の闇や落とし穴も存在しています。
日本のボトックスの落とし穴―「眉間のシワ」以外は未承認と知っていますか?
FDA承認の薬剤を使うことで高い効果と安全性を掲げ、目尻・眉間・額などの表情ジワの改善や小顔・痩身の効果があると宣伝しているクリニックもありますが、これには注意が必要です。
まず2002年、アメリカでFDAが認めた美容目的のボトックス使用条件は、「18歳から65歳までの成人における眉間のシワ」です。2013年、目尻のシワの使用を追加しています。
一方、日本の厚生労働省は、2009年にアラガン社の薬剤「ボトックスビスタ」のみを正式に美容目的として承認しましたが、認めた条件は「65歳未満の眉間のシワ」のみです。
つまり、FDAが承認している薬剤であっても、おでこ・ほうれい線・首のシワ、さらに小顔目的のエラ部分や痩身目的のふくらはぎなどのボトックスは現在、日本で正式に認められていません。
美容外科の広告はどれも目を引くものばかりですが、厚生労働省が規制強化に乗り出すほど、美容医療の誇大広告が氾濫しているのも事実です。FDA承認の薬剤=どの部分の注射も国が認めているので安心、と拡大解釈を促すようなボトックスの広告には、注意した方がいいでしょう。
また、安すぎる価格にも警戒心を持つべきです。
ちなみに、基準となるアメリカの眉間シワ治療(FDA承認薬使用)の相場は、$250-$350(約3-4万円)です。アメリカの製剤を使っているにも関わらず、アメリカの相場よりも安価な設定の場合は要注意です。
悪質な場合は、安価な中国製・韓国製・ロシア製などの未承認薬が使われている可能性もあります。これらの薬剤は、製造方法が不明瞭で薬剤に含まれる保存料などによりアレルギーなどを起こす危険性も懸念されます。
100%自己負担の美容施術は自由診療です。病院や施術内容を選ぶ自由が患者にあると同時に自己責任も伴います。
「シワが消える」「美しく若返る」などの広告に振り回されず、慎重な情報収集と警戒心を持ち、信頼できる医師や病院を選ぶことが、健康被害を回避するための心得ではないでしょうか。
本日のKey Word:「frown lines」(眉間のシワ)
ボトックス美容に出てくる「シワ」の英語表現を紹介します。
まず「眉間のシワ」は「frown lines」が一般的です。「frown」は「顔をしかめる」という意味があり、眉間のシワは「しかめっ面のシワ」といわれています。
また、目尻の小シワは「crow’s feet」です。「crow’s feet」は「カラスの足跡」という意味です。英語圏でもカラスはあまり好まれる鳥ではありません。年を重ねて刻まれた好ましくないシワを「カラスの足跡」と表現するあたりにユーモアを感じますよね。
今回紹介した原文で、「frown lines」を含むsentenceを紹介します。
Botox Cosmetic is FDA-approved to smooth the frown lines between your eyebrows, though it is used off-label for other facial wrinkles as well.
(ボトックス美容はFDAが承認する眉間のシワを目立たなくする治療以外にも、他の顔面のシワへ適応外の治療として使われている。)
【Sources】
Botox Injections(All About Vision)
There's a black market for Botox & other things to know before getting injected(TODAY)
【筆者】佐藤まりこ
2001年旭川医科大学医学部看護科を卒業。2010年California RN Licenseを取得後、LAでRN(Registered Nurse)として活躍中。
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