食中毒【ケア編】|気をつけておきたい季節の疾患【9】

来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。

 

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食中毒

 

食中毒の症状_食中毒の主訴

 

太田かおり
独立行政法人労働者健康安全機構和歌山労災病院看護師長・感染管理認定看護師

 

 

 

〈目次〉

 

 

食中毒は、有毒な微生物や化学物質を含む飲食物を食べた結果生じる健康障害です。多くは、急性の胃腸障害(嘔吐、腹痛、下痢などの症状)を起こします

 

急性の腸障害が重症化すると、血便や高熱、ショック症状、意識障害が現れることもあります。患者さんの来院時に問診(トリアージ)を行い、優先診療や待合場所の確保などが必要になります。治療・検査中に看護師として気をつけなければならない点について説明します。

 

1食中毒は来院時の問診が重要

食中毒の患者さんが来院した際は、以下のように、詳細な症状や経過(症状出現時期、持続時間など)を聞きます

 

  • 食歴:いつ、何を、どこで、量(どのくらい)食べたのか?
  • 発熱:いつから、体温は何度なのか?
  • 下痢:いつから、形のある便なのか、水様便なのか、血便が出ていないか、回数
  • 嘔吐:いつから、回数

 

また、上記のほかに、同様の症状が出ている人が周囲(家族、職場、学校、保育所など)にいないか上記の症状のほかに苦痛になっている症状があるか海外渡航歴などもあわせて聞きます。

 

2診療の優先順位

問診をとり、患者のバイタルサインを見た上で、優先診療が必要であるか、待合場所の確保が必要かの判断をします。判断する上で参考となる細菌性食中毒の原因菌と症状、潜伏期間について表1に示します。

 

表1細菌性食中毒の原因菌と症状、潜伏期間

食中毒の原因菌別症状_食中毒の原因金の潜伏期間_感染型食中毒_毒素型食中毒

 

感染型食中毒が疑われる患者さんが来院した場合は、ほかの患者さんと隔離した場所で待っていただくこと、また使用するトイレを限定します。そして、使用後のトイレは予測される感染症(原因菌)に有効な消毒薬の準備をします。もし、トイレの限定が難しい場合は、ポータブルトイレやディスポーザブル用品を使用するようにします。その際、患者さんのプライバシー等には十分留意しましょう。

 

毒素型食中毒が疑われる場合、特にボツリヌス菌の症状(物が二重に見えたり、まぶたが重くなったり、声が出にくくなったり、呼吸困難など)がある場合は、優先的に診療ができるようにします。

 

3検査

食中毒の場合、原因菌を特定するため、便の検査(ウィルス迅速、培養)は必ず行われます。その際、感染に気を付けて採取し、糞便の曝露予防のため、手指衛生を行い、手袋、マスク(必要時 ゴーグル)の着用をして採取し、検査科に提出します。血液検査では感染徴候、体液バランスを見ます。

 

4治療時のケアポイント

食中毒の治療は、基本的に対症療法です。高熱や下痢・嘔吐による脱水症状がある場合は、体内の血液循環量が低下し、血圧も低下するため、水分補給が行われます。経口的に水分が摂取できる場合は、スポーツ飲料による電解質(ミネラル)補給を勧めます。ただし、一気に飲むことで胃腸が刺激され、よけいに下痢や嘔吐の症状が現れる場合があるため、少量を飲んでから様子をみて、ゆっくり飲むことを勧めましょう。その際、できれば冷たい飲み物でなく、常温もしくは少し温めた飲み物がよいでしょう。

 

嘔吐が頻回にある場合は、誤嚥しないように仰臥位ではなく側臥位で体位を保持しましょう。経口で水分の摂取ができない場合は、点滴治療が行われます。

 

抗菌薬の使用は、病原体が特定されてから使用されます。ウィルス性の場合は効果がない上に腸内細菌のバランスを壊したり、耐性菌を発生させたりします。また、下痢を止めるためめの止瀉薬を使用することはありません

 

ナースの視点

1観察のポイント

食中毒は、急性の胃腸症状を発症し、急激に症状が進行する場合があります。来院時は、患者さんへの問診は的確に、迅速に実施することが重要です。
毒素型食中毒でボツリヌス菌の場合は、重症になると呼吸筋の麻痺が起こり死に至ることがあるため、呼吸状態の観察が必要です。本人の「息がしにくい」「胸がしんどい」などの訴えを見逃さないことです。呼吸回数、酸素飽和度の観察を行います。

 

2看護のポイント

食中毒の患者さんは頻回の嘔吐や下痢で、心身ともに消耗しています。保温と水分補給ができるようにしましょう

 

診断後、自宅療養する場合は、保温・安静・消化の良い食事の摂取と水分補給に努めるよう説明します。また、帰宅後に余計に症状がきつくなった、翌日も症状が持続する、良くならない場合などは再度受診するように伝えます

 

3感染対策のポイント

食中毒の患者さんからの曝露を防ぐため、対応する際は、標準予防策、感染経路別の個人防護具を適切に装着しましょう。手指衛生を行い、患者さんの嘔吐物や糞便を扱う際は、接触予防策(手袋、マスク、ゴーグル、エプロンの着用)を実施します。また、感染を拡大させないために、待合時や入院時の患者さんの隔離、特に排泄物の扱いには注意します。

 

4院内や関係部署への連絡

検査結果により治療方法が決定するため、検査科に食中毒の疑いがあることを連絡して、より迅速な結果をもらえるよう依頼します。

 

問診時に、周囲に同じような症状の人がいると聞いたり、同じような症状の患者さんが複数来院した場合は、集団の食中毒が疑われます。さらに多くの患者さんの来院が予想されるため、診療にあたるチームでの情報共有をします。

 

食品衛生法に基づき、食中毒を診断した医師は、24時間以内に管轄の保健所に届出を行う義務があります。その場合、確定診断ではなく「疑い」の場合でも届ける義務があります。
また、コレラや細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌などは感染症法の3類感染症に、ボツリヌス菌は4類感染症に分類されており、直ちに医師の届け出が必要となります。

 


[文 献]

 

  • (1)大曲貴夫ほか編.感染管理感染症看護テキスト.東京,照林社.2015,497p.
  • (2)国公立大学附属病院感染対策協議会編.病院感染対策ガイドライン.改訂第2版.東京,じほう.2016,272p.

 


[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長

 

芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長

 


[Design]
高瀬羽衣子

 


 

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