PQ間隔が長い、P波の後にQRS波がない心電図|不整脈の心電図(5)

 

心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、PQ間隔が長い、P波の後にQRS波がない心電図について解説します。

 

田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長

 

[前回の内容]

P波がみつからない心電図

 

前回までは、不整脈の解析を心房リズムから読み解く勉強をしました。心房は川の上流にあたります。川上の心房の流れが速いか、遅いか、乱流かで川下の心室のリズムも変わります。今回からは、川上心房と川下心室の間にある房室接合部ダムと、川下心室の流れについて勉強します。

 

〈目次〉

 

はじめに

房室伝導の復習をしましょう。正常の心臓の興奮は、洞結節から始まり心房から房室伝導を経て心室へと伝導します。川が源流から下流へ流れるのと同じです。房室接合部はダムのようなもので、興奮をためて心室に放流するのを遅らせます。

 

また、上流の心房が乱流、濁流になってしまった場合、下流の心室が氾濫しないように水量を調節しています。

 

心房を興奮させた信号は、房室接合部で潜行します。房室接合部は、心房内にある房室結節と心室につながるヒス束を合わせた房室間のつなぎ部分で、伝導を遅らせるのは房室結節です(図1)。この興奮潜行部分は、心電図ではPQ間隔に反映されます。

 

図1刺激伝導系

刺激伝導系

 

房室伝導をチェックする場合、まずP波の後にQRS波があるかどうか確認します。最初に、全体の流れを見てリズムを確認していれば、まず見落としはないと思いますが、P波の後にQRS波がなければ心房の興奮が心室に伝わっていないということになり、これは異常ですね。

 

次にPQ間隔をチェックしましょう。

 

P波の始まりからQRS波の始まりまでの間隔で、心房興奮の開始から心室興奮の開始までの時間を意味しています(図2)。さらに各心拍で、PQ間隔が一定かどうかを確認し、その間隔を計測しましょう。

 

図2正常心電図

正常心電図

 

下限は0.12秒(=3コマ)、上限は0.20秒(=5コマ)です。0.12秒未満はPQ短縮、0.21秒以上はPQ延長です。

 

短縮は房室接合部の伝導速度が速すぎるか、ヒス束以外に伝導路がある場合(副伝導路といいます)に見られます。延長は房室接合部の伝導速度が遅いために房室伝導に時間がかかっていることを示しています。

 

以上の判定には、条件がつきます(図3)。

 

図3房室伝導の解析手順

房室伝導の解析手順

 

PQ間隔のチェックは、あくまでもP波が洞性P波の場合のみです。洞結節からの信号で心房が興奮して、房室接合部を経て心室に至る場合の基準です。

 

たとえば、上室性期外収縮が早いタイミングで発生すると、房室結節の不応期にあたり心室に伝導しない場合があります。これを非伝導性上室性期外収縮といいますが、これは房室結節の伝導が本質的に悪いわけではなく、期外収縮のタイミングが早すぎたために、房室伝導が機能的にブロックされた結果です。

 

また、たとえば心房頻拍で、心房が250回/分の心拍数で暴走した場合は、房室結節の心室保護機能(不応期が長いという性質)で、ある程度の心房興奮をブロックして心室に伝えません。これも機能的なブロックといえます。

 

さらには、心房細動や心房粗動ではP波自体がないのでPQ間隔を判定しようがありませんよね。ですから、PQ間隔の判定はあくまでも洞調律、洞性P波の場合にかぎります。

 

アクティブ心臓病院看護部に例えると、どうなっているでしょう。

 

洞結節総師長が命令を出して、心房管理室スタッフが仕事をする。そしてこの命令を受け取って心室病棟に申し送るのが、房室結節副総師長とヒス束病棟師長の接合部コンビです。

 

房室結節副総師長はよい人で、心房管理室と心室病棟に時間的余裕をつくって円滑に業務ができるようにするとともに、混乱して乱発された心房管理室の命令は、適当に省いてヒス束病棟師長、心室病棟に伝えます。さらに、心房管理室からの命令が途絶えると自ら命令を出す自動能も備えています。ただ、生来の性格が災いして命令を伝えないサボタージュがあるので注意が必要です。

 

まとめ

  • PQ間隔は房室伝導を反映する
  • P波の後にQRS波が見られ、PQ間隔は一定で0.12秒(=3コマ)、上限は0.20秒(=5コマ)が正常
  • PQ間隔の判定は洞性P波(洞調律)の場合にかぎる

 

1度房室ブロック

図4の実際の心電図で説明しましょう。ディバイダーを用意してください。

 

図41度房室ブロックの心電図

1度房室ブロックの心電図

 

まず全体を把握。なんとなくピリッとしませんね。RR間隔が整っていないようです。

 

P波、PP間隔はどうですか、Ⅱ誘導で陽性で各心拍で同じ形ですね。洞性P波ですね。ただし、PP間隔は20コマ前後で心房心拍数は75回/分程度ですが、ばらつきがあります。

 

そうです、洞不整脈ですね。しかし洞性P波ですから、PQ間隔をチェックしましょう。P波の始まりからQRS波の始まりを測りますよ。

 

アレレ、7コマありますね。

 

正常は3~5コマですから、PQ延長ですね。P波の後にQRS波が脱落している様子はなくて、各心拍でのPQ間隔は一定のようです。

 

このように、P波とQRS波が1:1に伝導していて脱落がなく、PQ間隔は一定で5コマ(0.20秒)を超えている場合(0.21秒以上)を1度房室ブロック(1st degree AV block)といいます。

 

ブロックされていないのに“ブロック”なんて変な感じもしますが、用語の定義ですのであしからず。

 

図4の心電図の不整脈診断は、洞性不整脈、1度房室ブロックということになります。

 

難しい話をすると、房室結節は細胞間の伝導連絡が悪く、興奮の伝導に時間がかかります。具体的な伝導速度は、房室結節0.05m/秒、心房筋・心室筋1m/秒、脚・プルキンエ線維4m/秒で、房室結節は、脚・プルキンエ線維の実に80分の1の遅さです。この遅さが房室間に時間差をつける秘訣です。

 

房室結節は洞結節とともに自律神経の影響を受けやすい組織で、迷走神経が優位になれば伝導速度が遅くなりPQ間隔は延長します。また、ジギタリス製剤やβ遮断薬などによっても同様の作用をきたし、PQ間隔が延長します。疾患に関連する場合もありますが、基本的には房室結節内の生理的現象ですから心配ありません。

 

アクティブ心臓病院看護部では、洞結節総師長~心房管理室の命令が房室結節副総師長のところでモタモタしているので、心室病棟への伝達に時間がかかっています。ただし、キチンと一定時間で確実に伝達しています。体調や自律神経の影響ですから、そっと見守ってあげましょう。

 

まとめ

  • 洞調律でPQ間隔が一定、QRS波の脱落はないが0.21秒以上(5コマを超える)の延長が1度房室ブロック
  • 経過観察でよい

 

2度房室ブロック(ウェンケバッハ型)

1度房室ブロックはPQ間隔が一定で0.21秒以上(5コマ超え)の延長でした。

 

2度房室ブロック(ウェンケバッハ型)とは、どんな不整脈でしょうか。定義にすると「2拍以上の房室伝導後の1拍だけ房室ブロック」ということになります。

 

図5の実際の心電図で勉強しましょう。

 

図52度房室ブロック(ウェンケバッハ型)の心電図

2度房室ブロック(ウェンケバッハ型)の心電図

 

ではディバイダー。全体を見ると……どうも乱れていますね。何かおかしいですね。

 

趣向を変えて問題形式にしてみましょう。二者択一です。

 

・P波:(ある・ない)、(洞性P波・異所性P波)
・PP間隔:(一定・わずかに不定)で(洞不全症候群・洞不整脈)、約(25コマ・30コマ)
・心房心拍数:約(30・60)回/分
・PQ間隔:1拍目(3・5)コマ、2拍目(5・7)コマ、3拍目(8・12)コマ、4拍目(20コマ・脱落)、5拍目(3・6)コマ……

 

答え合わせです(図6)。

 

図6ウェンケバッハ型の心電図のブロック位置

ウェンケバッハ型の心電図のブロック位置

 

洞調律で、洞不整脈はありますが心房は正常のリズムで、約68回/分くらいですね。

 

問題は房室伝導です。房室伝導はPQ間隔に反映されています。この心電図では、1~3拍までのPQ間隔は、5コマ、7コマ、8コマと徐々に延長して、4拍目のP波の後にQRS波が見られません。この4拍目の心房興奮は心室に伝導されなかった、すなわちブロックされたのです。その次の5拍目のP波の後には、QRS波が続いていますね。QRS波は、幅が狭くヒス束~脚~プルキンエ線維を正常に伝導しています。

 

2拍以上伝導して、1拍だけブロックされるタイプを2度房室ブロック(2nd degree AV block)と定義しました。この2度房室ブロックには2種類あって、このように、房室伝導時間すなわちPQ間隔が徐々に延長して、1拍だけブロックされる2度房室ブロックをウェンケバッハ型(Wenckebach type)とよびます。

 

この“徐々に延長する”という性質は、房室結節特有のものです。

 

房室結節は他の心筋組織のなかでもとりわけ伝導速度がゆっくりで、不応期が長いというのはすでに勉強しましたね。房室結節は、興奮が通過すると不応期に入りますが、不応期から脱した直後あたりに次の興奮が進入してくると、もともと伝導速度が遅いくせに、さらにゆっくりと伝導します。時間をかけて通過するので、さらに長い不応期を残して、その次の興奮がまた輪をかけて遅い伝導になり、しまいにブロックされてしまいます。

 

ブロックされると、次の興奮が来るまで1拍分時間が空くのでリフレッシュして、伝導機能は元気になり、不応期、伝導速度が回復します。この繰り返しがウェンケバッハ型2度房室ブロックです。

 

不応期には絶対不応期相対不応期があって、絶対不応期は、興奮開始からしばらくの間どんな強い刺激が入っても興奮できない時間です。相対不応期は不応期終了(活動電位の終了)前後で、弱い刺激では反応しないけれど、強い刺激が入ると反応するという時間帯です。固有心筋(心房筋・心室筋)では受攻期という細動をきたしやすい時間帯ですが、房室結節での相対不応期は伝導速度の低下という現象がみられます。

 

例え話にしましょう。

 

誰でも依頼があって仕事を始めると、その仕事が続いている間はほかの仕事は受け付けませんよね。でも1つの仕事の終わりがみえてくると、条件次第、たとえば残業手当を弾んでくれるなど、強い依頼には乗ってしまうこともあります。

 

心筋組織では依頼は刺激で、刺激によって活動している間が活動電位持続時間です。基本的にはこの期間は刺激に対して反応しない時間、不応期ですが、終了間際は強い刺激には反応します。前半のテコでも動かない時間が絶対不応期、活動電位終了前後の強い刺激に反応する時間帯が相対不応期です。

 

心室筋でいうと、刺激による興奮の開始がQRS波、活動電位持続時間はQT間隔、その終了はT波の終了として認識できますが、相対不応期はT波の頂点付近から下りスロープあたりです。T波の頂上はとくに刺激に敏感で、心室細動を起こしやすいので受攻期といわれます。

 

房室結節では、興奮の通過ごとに不応期を残しますが、次の興奮が相対不応期のタイミングで入れば、伝導速度が遅くなります。ゆっくり伝導すると、伝導後に前より長い不応期を残し、これを繰り返せば興奮の進入してくるサイクルが同じでも、徐々に伝導速度が遅くなって、ついには伝導しなくなる、まさにウェンケバッハ型のブロックをきたすわけです。

 

***

 

それでは、どう対処したらよいでしょうか。

 

房室結節は心房内にある特殊心筋(刺激伝導系)の1つです。ここに集まった興奮が心房から心室を貫くヒス束に伝わり心室に伝導されていきます。ですから、ウェンケバッハ型2度房室ブロックは、視点を変えれば「心房内ブロック」ともいえるわけです。

 

また、房室結節は洞結節同様、自律神経(交感神経と迷走神経)の影響を強く受けるので、交感神経が優位な場合には伝導速度は速くなり、不応期は短くなり、興奮は伝導しやすくなりますね。

 

逆に、迷走神経が優位な場合は伝導速度は遅くなり、不応期は長くなるので、通りにくい、そうですウェンケバッハ型になりやすくなるのです。

 

夜間や睡眠時は迷走神経が優位ですし、若年者や運動選手、交感神経を抑制する薬剤の投与中なども迷走神経の作用が強くなり、ウェンケバッハ型をきたしやすい状態です。

 

自律神経の調整範囲内、薬剤の結果ならば、病的なブロックではなく「生理的ブロック」といえます。つまり、ウェンケバッハ型2度房室ブロックは「心房内」の「生理的」な房室ブロックで、ゆえに「良性ブロック」ということになり、基本的には経過観察で、薬剤の影響があれば必要に応じて量の調整をするというのがよいと思います。

 

***

 

アクティブ心臓病院看護部に例えると、どうなっているでしょう。

 

洞結節総師長、心房管理室は平常どおり周期的に業務を行っています。房室結節副総師長が疲れています。命令を受けるごとに、だんだんヒス束病棟師長へ伝える時間が長くなり、ついには1拍分伝達しません。しかし、1回休めばリフレッシュしてまた伝達速度は回復します(図7)。ヒス束病棟師長以下は受けた指示を忠実に実行しています。原因は房室結節副総師長の体調不良です。温かく見守りましょう。

 

図7房室結節が疲れてくると……

房室結節が疲れてくると……

 

まとめ

  • 洞調律で、2拍以上連続して房室伝導した後に、1拍だけブロックされるのが2度房室ブロック
  • 2度房室ブロックのうち、PQ間隔が徐々に延長して1拍QRS波が脱落するものがウェンケバッハ型
  • 房室結節内のブロックで、心房内・生理的で良性ブロックなので、基本的には経過観察

 

2度房室ブロック(モビッツⅡ型)

では、図8の心電図から入りましょう。全体を見ると……大体よさそうですが、1か所RR間隔が長いですね。

 

図82度房室ブロック(モビッツⅡ型)の心電図

2度房室ブロック(モビッツⅡ型)の心電図

 

では解析。

 

・P波:(ある・ない)、(洞性P波・異所性P波)
・PP間隔:一定で、約(25コマ・30コマ)
・心房心拍数:(60・100)回/分ですね。
・PQ間隔:1拍目(  )コマ、2拍目(  )コマ、3拍目(  )コマ、4拍目はQRS波が脱落、5拍目(  )コマ……

 

それでは解説しましょう。

 

PP間隔は一定で洞リズムですから、少なくとも心房興奮は正常ですね。QRS波も幅が狭く心室内の伝導は正常のようです。問題は房室間の伝導にあります。

 

2拍以上の房室伝導があって1拍だけ房室間にブロックをきたす房室ブロックは、2度房室ブロックです。

 

2度房室ブロックのうち、この心電図のようにPQ間隔の延長なしに心室への伝導が1拍ブロックされるタイプをモビッツⅡ型(Mobitz type Ⅱ)といいます。

 

Ⅱ型というならⅠ型もあるはずですね。ありますよ。前述したウェンケバッハ型は、別名モビッツⅠ型とよびます。間違えやすいのでウェンケバッハ型とよぶことが多いようです。

 

ウェンケバッハ型との本質的な違いは、ウェンケバッハ型が房室結節内のブロックであるのに対して、モビッツⅡ型はヒス束より下位のブロックであるという点です(図9)。ヒス束内の伝導障害あるいは、両脚を含む心筋の広い範囲の伝導障害が原因です。

 

図9モビッツⅡ型の心電図のブロック位置

モビッツⅡ型の心電図のブロック位置

 

ヒス束以下は心室の伝導路ですから、モビッツⅡ型は「心室内ブロック」といえます。心室内は自律神経の影響はないので、心室内伝導路の器質的障害つまり「病的ブロック」です。このタイプは後述する高度房室ブロックや完全房室ブロックといった、病的な徐脈に進行することが多く、その意味で「悪性ブロック」といえます。

 

ですから、もしモビッツⅡ型と判定した場合は、重症な徐脈になる危険を意識して注意深い観察が必要です。多くの場合は“人工ペースメーカー”という心室への人工的な電気刺激が必要になります。

 

看護部に例えるとどうなっているかというと、房室結節副総師長が病気で、予告なく1日休んで心房管理室からの命令が1回抜けます。1日休めばまた伝達できますが、病気ですから間もなく心房管理室からの指示が全く伝えられなくなる危険な状態です。また、ヒス束病棟師長は元気でもその部下の、右脚・左脚両主任やプルキンエリーダーたちの大部分が病気にかかっても同じことが起こります。

 

まとめ

  • 洞調律で、2拍以上連続して房室伝導した後に、1拍だけブロックされるのが2度房室ブロック
  • 2度房室ブロックのうち、PQ間隔の延長なしに1拍QRS波が脱落するものがモビッツⅡ型
  • ヒス束以下のブロックで、心室内・病的で悪性ブロックで、重症徐脈へ移行する場合が多く、注意深い観察が必要
  • 多くはペースメーカー治療が必要になる

 

ここで、2度房室ブロックを復習しておきましょう。

 

まず2度ブロックは“2拍以上連続した房室伝導後に1拍のみQRSが脱落”するものです。なぜ、2拍以上連続かといえば、2拍以上連続して伝導していないと“徐々に延長して”か“延長なしに”ブロックされるかが判定できないためです。表1のように対比してみました。

 

表1ウェンケバッハ型(モビッツⅠ型)とモビッツⅡ型の比較

ウェンケバッハ型(モビッツⅠ型)とモビッツⅡ型の比較

 

高度房室ブロック

“高度”とは、ここでは“重症”という意味で使います。心房の興奮が2回以上連続で心室に伝導しない状態が高度房室ブロック(advanced AV block)です。

 

図10の心電図で実感しましょう。

 

図10高度房室ブロックの心電図

高度房室ブロックの心電図

 

まず、全体をざっと見ます。規則正しく幅の狭いQRS波が連続していますが、RR間隔は長いようです。心拍数はRR間隔が33コマですから1500÷33≒45回/分、徐脈ですね。

 

では、P波はありますか。QRS波に先行してⅠ誘導、Ⅱ誘導、aVFで陽性P波があるので洞性P波のようですし、PQ間隔は5コマ=0.16秒です。洞性徐脈でしょうか。

 

基線をよく見てみましょう。T波の後に小さい波が出ていますね。そうです、これはP波です。

 

さっき確認したP波と比較してみてください。同じ形ですね。ということは、これも洞性P波です。QRS波の前にあるP波とこの孤立するP波は、いずれも洞性P波ですからこの間隔が洞周期になりますね。

 

計測してみましょう。

 

16.5コマ(0.64秒)、したがって心拍数は1500÷16.5≒90回/分となります。わざわざ16.5コマとしたのは、心房と心室の心拍数の比が2:1であることを強調したかったからです。

 

この心電図の場合、心房の興奮は洞調律で、洞性P波・洞性P波・洞性P波・洞性P波・洞性P波・と規則正しく90回/分で繰り返されていますが、房室間は、伝導・ブロック・伝導・ブロック・伝導・ブロック・伝導・ブロック・と2回に1回しか心室に伝えません。

 

したがって、心室は、QRS波・休み・QRS波・休み・QRS波・休み・QRS波・休み・QRS波・休み、と心房の半分の頻度で興奮することになります。

 

このように、洞性P波が2拍以上は連続して伝導しない状態が高度房室ブロックです。

 

P波何拍に対してQRS波が出現するかを伝導比といい、この場合は伝導比2:1ということになります。2:1より悪い伝導比つまり、洞性P波3拍に対して1拍伝導する場合が3:1伝導または、3回に2回ブロックされるので3:2ブロックといっても構いません(図11)。

 

図11高度房室ブロック(3:1伝導)の心電図

高度房室ブロック(3:1伝導)の心電図

 

4回に1回なら4:1伝導(4:3ブロック)、5回に1回なら5:1伝導(5:4ブロック)、というわけです。2:1伝導よりも伝導比が悪いものはすべて高度房室ブロックです。

 

注意すべきは、身体はそう精密なものではないので、同じ高度房室ブロックでも2:1になったり、4:1になったり変動することがある点です。いずれにしても2拍として連続して伝導しないのが高度房室ブロックです。

 

このタイプもモビッツⅡ型と同様に、ヒス束以下に器質的障害つまり病的な伝導能障害があるために出現します。後述する完全房室ブロックの一歩手前の状態であるとともに、すでに徐脈となっていてペースメーカー治療の適応となります。

 

モニター心電図で、突然心拍数が半分になった、3分の1になったという場合は、2:1や3:1の高度房室ブロックの可能性を疑い、すぐに心電図(できれば標準12誘導心電図)を確認して、早急に医師に報告、処置が必要です。

 

***

 

アクティブ心臓病院に例えると、ヒス束病棟師長が病んでいて、あるいはヒス束病棟は元気でも脚主任以下の大部分が病んでいるために、2回の指示を1回分だけ心室筋スタッフに伝えるのがやっとで、場合によっては3回に1回、4回に1回という場合もあります。必要な業務が滞ってしまいますので、外部からの直接指示(ペースメーカー)が必要です。

 

まとめ

  • 洞調律で、2拍連続では房室伝導が見られないものが高度房室ブロック
  • 具体的には2:1伝導、3:1伝導(3:2ブロック)、4:1伝導(4:3ブロック)の形をとるが、さまざまな伝導比が混在する場合もある
  • 完全房室ブロックとなる危険が高いとともに、高度の徐脈を呈することが多く、ペースメーカー治療の適応

 

3度房室(完全房室)ブロック

心房から心室への伝導が完全に遮断された状態が3度房室ブロックです。完全房室ブロックともいいます。

 

ヒス束あるいはヒス束より下位の広範な障害で発生します。心室に興奮が来ないわけですから、そのままでは心臓が停止してしまいます。ここで活躍するのが自動能という機能です。

 

復習になりますが、刺激伝導系は自らが周期的に興奮してペースメーカーとなる能力、すなわち自動能をもっています(刺激伝導系と心筋の特殊な性質参照)。

 

平常時は、洞結節の刺激発生周期が短いので、下位の自動能をリセットしながら全体のリズムをつくっています。房室間の伝導がなくなってしまって、興奮が心室に届かなくなった場合は、心室内、具体的にはヒス束、脚、プルキンエ線維の自動能で心室を興奮させます。

 

このように徐脈によって下位の自動能がペースメーカー機能を果たす調律を補充調律、補充調律による心室の収縮を補充収縮といいます。

 

では、図12の心電図を見てみましょう。

 

図123度房室(完全房室)ブロックの心電図

3度房室(完全房室)ブロックの心電図

 

まず全体。QRS波が少ないですね。一見して徐脈です。RR間隔を測って心拍数を計測してみましょう。RR間隔は約67コマ、0.04×67=2.6秒。心拍数は1500÷67=22回/分と高度の徐脈です。ここで、RR間隔がほぼ一定になっていることを覚えておいてください。

 

次にP波を探してPP間隔を計測してみましょう。

 

Ⅰ誘導、Ⅱ誘導、aVFで陽性P波、PP間隔は18コマ(0.72秒)で規則正しく出現しています。ところどころQRS波、T波と重なっていますので注意してください。洞調律で、洞結節~心房は0.72秒間隔つまり83回/分で平常どおりに活動しています。では、PQ間隔をチェックしてみましょう。

 

う~ん、どうも規則性がないですね。バラバラです。そうですね、このP波はQRS波と関連がない、つまり心房興奮は心室に伝導していないのです。これが完全房室ブロックです。

 

なぜ、関連がないと言い切れるかといえば、心室の興奮周期が、心房の興奮周期と無関係だからです。PP間隔、RR間隔とも規則正しく、一定ですが、別々の周期ですね。これは、心房は洞調律ですが、房室伝導がないために、心室が補充調律になっているからです。このように心房と心室が別々のリズムで興奮していることを房室解離といいます。

 

補充調律はその出所によって、QRS波の形、周期が変わります。ヒス束内でブロックされた部位のすぐ下流からの補充調律なら、興奮はヒス束から脚、プルキンエ線維と通常と同じ伝導をしますので、幅は正常の狭いQRS波です。また、上位からの自動能ですから比較的正常に近く、安定した心拍数が維持できます。

 

もっと下位からの調律、たとえば左脚からの補充調律だと、左室側から興奮が始まって、通常のルートを通らず右室側は後から興奮しますので、時間がかかり、かつ右室側の興奮が遅れる“右脚ブロック型”のQRS波になります(右脚ブロックは後述します)。また、下位に行くほど自動能は弱いので、心拍数は遅く、不安定です。

 

対応は原因がなんであろうと、高度の徐脈ですからペースメーカーが基本です。補充調律が安定していて、心拍数も正常でペースメーカーが不要だということもまれにありますが、ごく例外です。

 

***

 

アクティブ心臓病院に例えると、洞結節総師長の定期的な指示、心房管理室の業務、房室結節副総師長までは異常ありませんが、ヒス束病棟師長あるいはそれ以下の病棟スタッフの病気によって、指示が全く伝わりません。病気の人より下位の指示系統で健康な人が指示を出さないと(補充調律を出さないと)、業務がストップしてしまいます。ヒス束病棟師長は管理に長けているので指示出しも安定しています、しかし末端のスタッフほど管理業務に慣れていませんから、指示が安定せず、指示を出す間隔も長くなり、心室病棟業務は心もとないですね。早く外部から安定した指示を出す(ペースメーカー)必要があります。

 

まとめ

  • 房室間の伝導が完全に遮断された状態が完全房室ブロック
  • 心室は補充調律によって収縮する
  • 心房と心室が別個に興奮することを房室解離という
  • 心電図ではPQ間隔に規則性がなく、PP間隔(心房周期)とRR間隔(心室周期)が互いに独立している(房室解離)
  • ペースメーカーを必要とする

 

最後に房室ブロックの復習を表2にまとめておきます。

 

表2房室ブロックの種類と性質、対応

房室ブロックの種類と性質、対応

 

一目瞭然ですが、2度房室ブロックのウェンケバッハ型とモビッツⅡ型の間には、決定的で本質的な差があります。モビッツⅡ型より重大な房室ブロックは、なんらかの病的な障害をもっています。障害の原因としては、伝導系そのものが加齢などによって変性する“特発性”のものと、疾患の一部として現れる“続発性”のものがあります。

 

原因疾患としては、虚血性心疾患、心筋炎、サルコイドーシスなどさまざまですが、内容については別コラムで説明します。

 

 

[次回]

PQ間隔が短い心電図|不整脈の心電図(6)

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版

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