P波とQRS波が別々のリズムの心電図|不整脈の心電図(7)

 

心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。

 

[前回の内容]

PQ間隔が短い心電図

 

今回は、P波とQRS波が別々のリズムの心電図について解説します。

 

田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長

 

〈目次〉

 

房室解離

言葉の定義をはっきりさせておきましょう。

 

房室ブロックの項でも房室解離が出てきましたね。完全房室ブロックは、心房からの興奮が完全に遮断されて心室に入ってこない状態で、そのままでは心室が停止してしまいますので、ヒス束以下の自動能を発揮して心室が独自のリズムで拍動する、つまり心房と心室が別の調律ということで房室解離でしたね。

 

でも、別に心室で調律しなくても、心房からの興奮に依存しない心室興奮はすべて房室解離といいます。次項で解説しますが、上室性期外収縮と同様に心室での期外収縮を心室性期外収縮といいますが、この場合は心房での興奮が心室に伝導して収縮したわけではないので、これも1拍といえども、心房興奮と無関係に心室が興奮しているので房室解離です。つまり、心房からの伝導でなく、心室が独自に興奮すれば房室解離(AV dissociation)というわけです。

 

図1の心電図はどうでしょうか。

 

図1房室解離の心電図

房室解離の心電図

 

4拍目以降は、P波がはっきりしていて、23コマごとに規則正しく出現しています。洞調律ですね。このPP間隔をディバイダーで固定しておいてください。

 

また、4拍目以降のPQ間隔も4コマ程度で一定でQRS波も正常です。問題は最初の3拍です。QRS幅が広いのでヒス束~脚~プルキンエ線維を正常伝導していないことはおわかりだと思います。また、先行するはずのP波がはっきりしませんね。そこでさっき23コマに広げたディバイダーを4拍目のP波から前に(左に)合わせて、本来そこにあるはずのP波を探しましょう。

 

3拍目のQRS波の直前にありましたね。そこからさらに左にディバイダーを合わせると、2拍目のQRS波のなかに隠れています。ではそこにP波があると仮定して、その前は、1拍目のQRS波の直後にありますね。

 

では、このP波はQRS波と関連があるでしょうか。P波の興奮が心室に伝導してQRS波になることを“同期している”といいますが、最初の3拍は同期していませんね。

 

では最初の3拍のRR間隔はどうでしょうか。ディバイダーで合わせてみると同じ間隔ですね。約25コマで心拍数に直すと1500÷25=60回/分です。

 

最初の3拍は心室が独自の周期で興奮していて、心房とは同期していませんので、この部分は房室解離です。

 

促進型調律

心室の、自動能の周期が洞周期に近い場合、たとえば、洞不整脈などで洞周期が少し長くなった拍子に心室の自動能が洞周期を追い越して顔を出す場合があります。通常は、心室の自動能は心拍数でいうと20~40回/分程度で、洞結節のリズムが生理的な範囲内(50~100回/分)で変動していれば、洞調律を追い越すことはありません。

 

しかし、心疾患(急性心筋梗塞など)や薬剤の影響、ときにはそういった背景がなくても心室の自動能が亢進して、生理的な洞調律を追い越して顔を出す場合があります。これを促進型心室固有調律(accelerated idioventricular rhythm:AIVR)といいます。

 

促進型というのは、生理的な洞調律を追い越したという意味です。心室固有調律は心室の自動能です。つまり、心室の自動能が洞調律の心拍を上まわったということですね。洞調律が生理的範囲を下まわって病的に低下し徐脈になった場合に、下位の調律がバックアップして調律するのは、促進型とはいわずに補充調律といいます。

 

この心電図では、幅の広いQRS波なので心室起源でよいと思いますが、接合部の自動能が洞結節を追い越すことがあり、この場合は幅の狭い正常QRS波と洞性P波が房室解離をきたすことになります。これを促進型接合部調律といます。

 

まとめ

  • 心房と心室が関連なく興奮する現象を“房室解離”という
  • 病的な洞徐脈や房室ブロックによって下位の自動能が、バックアップで心室を調律する場合を補充調律といい、洞調律が生理的範囲内にもかかわらず、下位の自動能が亢進して洞調律を追い越す場合を“促進型”調律という
  • 補充調律でも促進型調律でも、房室解離の場合は、心房と心室が異なる周期で興奮していることを確認すればよい。つまりPP間隔とRR間隔が異なっている

 

アクティブ心臓病院の看護部で例えると、心房管理室の業務周期と、心室病棟の業務周期が異なっている状態が房室解離です。たとえば洞結節総師長が24時間ごとに命令を出して心房管理室は24時間周期で業務を行い、心室は、仮に右脚主任の自動能が亢進して22時間周期で命令を出すと、心室は22時間周期で興奮することになります。

 

房室解離で、心房管理室と心室病棟が別の周期で活動する場合、理由は2つあります。

 

1つは洞結節総師長の命令周期が病的に長くなる(洞不全)か、房室間の連絡が悪くなる(房室ブロック)かで、心室に命令が届きにくくなったときに、ヒス束病棟師長以下、下位の自動能でなんとか心室病棟の業務サイクルを維持する場合で、これは補充調律といいます。

 

もう1つは、洞結節総師長、管理室、房室間の連絡は問題ないにもかかわらず、下位の自動能が暴走して、心房管理室の周期よりも短くなる場合で、これを促進型調律といいます。

 

[次回]

幅広QRS波の心電図|不整脈の心電図(8)

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版

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