批判された「妊婦加算」なぜ? 妊婦の患者さんにどう寄り添う?|看護roo!ニュース

 

2018年4月の診療報酬改定で新設された「妊婦加算」が厳しい批判を浴びています。

 

相次ぐ批判を受けて、厚生労働省は、年内にも算定対象を厳しく見直すほか、自己負担を実質ゼロにし、2020年度の診療報酬改定で加算を廃止する方向で検討を始めました(※)。

 

炎上中の妊婦加算について、看護師が知っておきたいポイントをまとめました。

 

【※】2018年12月14日、根本匠厚生労働大臣は妊婦加算を「凍結する」と発表しました。2019年1月1日から事実上の廃止となります。

 

妊婦の外来受診は負担増、初診230円・再診110円

妊婦加算により、妊婦さんが外来を受診すると、図の通り、診療費が上乗せされます。

 

 

診療時間などで加算額は変わりますが、一般的に自己負担3割の場合、初診なら230円再診なら110円、患者さんの窓口負担が増えることになります。

 

加算を算定できるのは「医師が診察して妊婦と判断した場合」で、診療科を問いません。風邪やけがなど、妊娠に直接関係しない受診でも加算されます。

 

 

「妊婦税」と炎上、自己負担ゼロ・加算廃止へ

ところが、実際に窓口負担が増えたという妊婦さんのtwitter投稿をきっかけに、秋ごろから猛批判が巻き起こりました。

 

「なぜ妊婦であることで支払いが増えるのか」

「まるで妊婦税。少子化対策に逆行している」

など、妊娠しているがために増やされる負担に疑問の声や反発が広がりました。

 

 

さらには、

  • 診療が終わった後で妊婦とわかったのに加算された
  • 投薬のないコンタクトレンズの処方で加算された

など、「どうしてこれで加算されるの?」と納得しがたいケースがあることも指摘されています。

 

世論の批判は収まらず、とうとう厚労省も動きました。

 

根本匠厚生労働大臣は、11月30日の記者会見で「妊婦であると判断せずに行った診療やコンタクトレンズの処方のみの診療などについては、不適切である旨を明確化する」と発言。年内にも算定対象となるケースを厳格化する考えを示しました。

 

さらには12月13日、2020年度の診療報酬改定で妊婦加算を廃止する方向で、厚労省が検討を始めたことが報じられました。廃止までは当面、自己負担が実質ゼロになるような手当も講じられる見通しです。

 

 

加算の狙いは「妊婦の受診環境を守ること」

そもそも、なぜ妊婦加算がつくられたのでしょうか。

 

それは、特別な配慮が必要な妊婦さんを適切に診療する医療機関をきちんと評価する(=報酬をプラスする)ためです。

 

妊婦さんの診療には、さまざまな配慮が必要になります。

 

たとえば、投薬。

妊娠の継続や胎児に影響しないか、妊娠週数によっても異なる処方の注意に医師は神経を使います。薬の使用を心配する妊婦さんに対して、医師や看護師から丁寧な説明が必要になる場面もあるでしょう。

 

参照:中央社会保険医療協議会総会(第363回)資料

 

また、妊婦に多い合併症、妊娠中だと診断が難しい疾患、流行の感染症などにも注意が必要です。

 

参照:中央社会保険医療協議会総会(第363回)資料

 

このように特別な配慮が求められる妊婦さんの外来診療。産婦人科以外の医療機関が及び腰になり、「妊婦さんは診られない」「産婦人科で診てもらって」と、きちんと診療しないというケースも起きています。

 

妊婦加算は、特別な配慮を行う医療機関への評価であると同時に、産婦人科以外の診療科に対して「外来に来た妊婦さんをちゃんと診て」と促すインセンティブでもあり、ひいては「妊婦さんが安心して受診できる医療環境を守ろう」というのが本来の狙いでした。

 

ただ、そのための負担を妊婦さん自身にも背負わせたことが、批判の的となったのです。

 

 

炎上の背景にある「子育てしにくさ」

実は、患者さんの属性や疾患に伴う加算は、ほかにもあります。

 

乳幼児の初診・再診料に妊婦加算と同額を上乗せする「乳幼児加算」、糖尿病高血圧症などの患者さんで算定できる「特定疾患療養管理料」などは、その一例です。

 

ですが、こうした診療報酬の仕組みがあまり知られていないこと、乳幼児の医療費には自治体の助成制度があること、妊婦加算について事前周知がほとんどなかったこと――なども今回の批判の一因でしょう。

 

さらに言えば、子育て世代が日ごろ感じる「子どもを産み、育てにくい社会」への不満も下地になっています。

 

保育園の待機児童問題、妊娠・出産・育児に伴う収入減、キャリアは中断、出産・育児でかさむ出費…。

「このうえ医療費も!?」と妊婦さんが憤るのも無理のないことと言えるでしょう。

 

 

自己負担ゼロはいつから?

新設から一転、2020年春には廃止される線が濃厚になった妊婦加算。

ですが、それまでの間、具体的にいつから自己負担がなくなるのかは、現時点でまだはっきりしません(※)。

 

また、厚労省は、もともとの趣旨である「妊婦の安心な受診環境」のために、自己負担が増えないような形で代替策を検討するとしています。今度はどんな形になるのか、その議論もこれからです。

 

加算を嫌がって妊娠を隠して受診するような患者さんが出てしまっては「安心な受診環境」どころではありません。

 

自己負担が実質ゼロになるまでの間、まずはこうした妊婦の患者さんの気持ちに寄り添いつつ、理解を求める対応が看護師として必要になる場面もあるかもしれません。

 

※2018年12月14日、根本匠厚生労働大臣は妊婦加算を「凍結する」と発表しました。2019年1月1日から事実上の廃止となります。

※妊婦加算の診療報酬点数・自己負担額の表について差し替えました。妊婦以外にも適用される時間外加算・休日加算・深夜加算と同額分を差し引いた点数・金額のみを示しています(2019年6月26日)。

 

看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko

 

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(参考)

平成30年度診療報酬改定 個別改定項目について(厚生労働省)

疑義解釈資料の送付について その1・平成30年3月30日事務連絡(厚生労働省)

中央社会保険医療協議会総会(第363回)資料(厚生労働省)

産婦人科診療ガイドライン―産科編2017(日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会)

妊婦加算、自己負担ゼロへ 批判受け厚労省検討(日本経済新聞、2018年12月13日)

妊婦加算を凍結、厚労相が表明(日本経済新聞、2018年12月14日)

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