インフルエンザ・SARS…パンデミックはナースの成長チャンス!
「インターナショナルクリニック」の看護師で「エスコートナース」でもある山本ルミが、患者さまとのドタバタな日常をお届けします!
医療者として働いている限り、パンデミック(大流行する病気)が起こったときの苦労は避けられませんよね!
冬になったら必ずインフルエンザで忙しくなるし、お隣の韓国で「MARS」のパンデミックが騒がれたのは記憶に新しいです。
外国人ばかりを扱うインターナショナルクリニックやエスコートナースの仕事でも、その時々でいろいろな苦労がありました。
ただ、普段と違う状況は、看護師として成長のチャンス! でもありますよね。
ナースであるかぎり「関係ない病気」はない
4、5年前に日本で急に大流行して大騒ぎになった、新型インフルエンザを覚えていますか?
飛行機に乗っていた人が発病していて、運悪くその周りに座っていた人たちが、そのまま成田空港のホテルでしばらく監禁状態になってしまった、あのインフルエンザです。
当時のインターナショナルクリニックにも、予防接種を受けるためだけに、それまで来たことのない日本人患者さんが毎日30~40人も来院しました。
そのとき改めて、私たち医療者が病気に対して正しく、そして詳しく理解することの大切さを感じました。
患者さんがパニックにならないよう、私たちが病気についてきちんと説明し、正しい行動が取れるように指導しなければなりません。
去年は渋谷の公園でデング熱が出ました。今年はエボラ熱で、アフリカのたくさんの方が亡くなりました。
「デング熱? エボラ熱?」日本に住む私たちは、今まで自分に関係ないことだと思っていました。でも、そんなことを言って逃げてはいられません。
SARSを起こすコロナウイルス(!)
午前7時前の診療を1日3件・週3回
私の記憶で一番大変だったパンデミックは、「SARS(重症急性呼吸器症候群)」のときです。
2002年から2003年頃に中国の広東省から世界に広がった病気で、患者さんの咳やくしゃみの飛沫・体液を介して感染し、かかるとインフルエンザに良く似た症状が出ます。
香港で大流行したときは、毎日のようにニュースで患者さんの様子を目にしました。
もちろん、このときはインターナショナルクリニックも大忙し。
朝から往診鞄を持って、週に3日はドクターと出かけていました。
SARS患者の20%が肺炎になって重症化するのは事実でしたが、インターネットやテレビで騒ぎ立てられたということもあって、多くの人が過剰に恐れていた印象があります。
中国から日本に来たビジネスマンは、“本日診察した結果、SARSに感染したと思われる症状は現時点では見られない”という内容の診断書がないと、会社訪問やミーティングに参加できなかったようです。
クリニックが始まる午前9時では仕事に支障が出てしまうので、7時前に3件のホテルを訪問して診察するという、かなりクレイジーな状況でした……。
アジアから帰国すると10日は家に帰れない
アメリカから来たあるビジネスマンは、日本とアメリカを往復するだけなのに、アジア地域に行ったというだけで「SARSに感染しているかもしれない」と疑われるらしく、「帰国したら10日間は家に帰らないでホテルで過ごすんだよ」と話していました。
理由を尋ねると、「子どもたちに会ってしまうと、彼らも学校に10日間通えなくなるからね」とのこと。
潜伏期間が2~10日だったので、その間は発病する可能性があるということでしょうか?
日本ではほとんど患者さんが出なくて、本当に良かったです。
SARS騒ぎの香港は、まるでゴーストタウン!
SARSで大騒ぎしていたときの、つかの間の昼休み。私に1本の電話がありました。
「ルミ、お願いがあるんだ」
電話の主はフランスのボスでした。
「下血で入院しているアメリカ人の患者の状況が少し落ち着いたから、サンフランシスコの病院に転院したいそうなんだけど、まだ1人じゃ無理みたいで」
つまり、付き添いが必要ということ。でも、アメリカのナースが香港に行くと、10日間は病院で働けなくなってしまうので、誰も迎えに行ってくれないという状況でした。
「アメリカの保険会社にルミに頼むように言われたんだけど、今すぐ香港に行ってくれない?」
さすがに午後の仕事を休むわけにはいかなかったので、返事に困ってしましました。
すると、インターナショナルクリニックのドクターが事情を理解して、「ルミちゃんが行かなかったら、患者さんがアメリカに帰れないでしょ、行ってきなさい!」と許可をくれました。
そして、私はその夜の最終便で香港に向かったのです。
到着して、本当にビックリしました。
大きな空港なのに人はまばら。
「夜だからかな?」と思いましたが、次の朝、タクシーで病院に向かう途中に見た景色は、映画に出てくるようなゴーストタウン。
外出している人も少しだけ見かけましたが、ほとんどの人がマスクをしていました。
普段の香港はこんなに賑やか
病気は身体だけでなく精神も犯してしまう
病院へ患者さんを迎えに行くと、涙を流しながら喜んでくれました。
「君が来てくれなかったら、もう、どうして良いかわからなかったよ。僕はSARSじゃないけど言葉の壁もあったし、とにかく不安だったんだ……!」
熱がある人は飛行機に乗れなかったようで、空港内でも体温を測る人をたくさん見ました。
町中と同じく空港内の雰囲気も異様でしたが、私たちを乗せた飛行機はサンフランシスコに向けて無事出発。
患者さんは安心したのか、疲れてしまったのか、機内ではほとんど眠っていました。
貧血だったので顔色は良くありませんでしたが、体調は良好。
帰国できることがうれしくて、気分がハイになっていたのだと思います。
寝顔は安堵の表情でした。
サンフランシスコ空港で待っていたアメリカ人ナースに5分で申し送りをすると、あっという間にお別れの時が来ました。
患者さんは車いすに乗せられ、別の搭乗口へ。
その短い間に「ありがとう! 感謝してる!」と何度も繰り返してくれました。
ナースでいる限り勉強に終わりはない!
そこで感じたのは、「やっぱり病気というのは、身体だけでなく精神までも犯してしまうものなんだなあ」ということ。
香港の人たちはSARSに怯えながら生活していて、心がとても痛みました……。
医療は日進月歩。
ナースでいる限り、勉強に終わりはありませんよね。
これからも、患者さんのために仕事も勉強も頑張っていきましょう!
今まで、ありがとうございました
ところで皆さん。
突然のことで本当に申し訳ありませんが、仕事の事情で、今回の記事を最後に、連載を終えることになりました。
インターナショナルクリニックやエスコートナースの仕事に興味を持ってくださった方、励ましのコメントをくださった方、今までこの連載をお読みいただいた、すべてのナースの皆さまに感謝いたします。
本当に、ありがとうございました。
空飛ぶナースは世界のどこかで、皆さんの今後の活躍を願っています!
それでは、お元気で!
皆さんお元気で!
【山本ルミ】
大分県出身。93年より六本木のインターナショナル・クリニックに勤務。98年よりエスコートナースとしても活躍している。著書に「患者さまは外国人(山本ルミ・原案 世鳥アスカ・漫画)」など。
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