なぜ術前・術後は血糖コントロールが重要なの?|周術期管理

『エキスパートナース』2017年3月号<バッチリ回答!頻出疑問Q&A」>より抜粋。
周術期の血糖管理について解説します。

 

 

原 芳樹
帝京大学医学部麻酔科学講座准教授

 

 

なぜ術前・術後は血糖コントロールが重要なの?

 

手術侵襲が血糖値を大きく変動させるためコントロールは重要です。
極端な高血糖低血糖は「昏睡」を招き、術後高血糖は「創部感染」のリスクを高めます。

 

〈目次〉

はじめに

手術による侵襲のため、血糖値の自動調節機能が崩れてしまい、血糖値が大きく変化してしまうことがあります。

 

血糖値が極端に高すぎたり低すぎたりすると、昏睡を起こすことがあります。また、術後の48時間は血糖値が高すぎると、創部が感染しやすくなります。

 

通常、血糖値は自然に適正化される

まず大前提ですが、人間、生きていくためにはいかなる場合でも“妥当な血糖値”であることが必要です。血糖値が極端に高くなれば昏睡(ケトアシドーシス)になり、極端に低くなっても昏睡(低血糖性昏睡)になります。

 

健常者の体内ではこのようなことにならないよう、低血糖ではグルカゴンやエピネフリンの分泌、高血糖ではインスリンの分泌により、自然に血糖値の適正化を行っています。それ以前に、低血糖になればお腹が空いて食事をとる、高血糖になれば食欲が収まる、といった摂食のコントロールによっても、血糖値は適正を保たれているのです。

 

周術期では血糖値が大きく変化する可能性がある

ところが手術を受けた患者さんでは、このような血糖値の自動調整機能が損なわれてしまうことが多くなります。

 

原因は表1のように多岐にわたります。

 

表1周術期に血糖の自動調整が損なわれる主な原因

 

  • 術前・術後の禁飲食
  • 手術・麻酔による生体侵襲
  • 輸液管理といった糖分摂取量や摂取方法の変化
  • 術前の不安や術後の痛みによるストレス

 

このようなこと全体が、血糖値の自動調整をつかさどるホルモンの分泌に影響を及ぼします。その結果、通常であれば血糖値を自然に適正化できる患者さんでも、大きく血糖値が変化してしまうことがあるのです。

 

したがって、周術期管理としての血糖値コントロールはもはやルーチンとなっていますし、とりわけ、術前から耐糖能に問題がある患者さんや大きな手術を受けた患者さんでは厳密な血糖管理が必要になるでしょう。もちろん糖尿病患者では、たとえ短期間であっても高血糖を放置すれば、神経学的なダメージは進行していくことを前提に管理すべきです。

 

高血糖では手術創部の感染リスクが高くなる

次に大きな問題として、高血糖により手術創部が感染しやすくなることが挙げられます。

 

細菌を培養する実験や検査では血液寒天培地がよく使われますが、この血液と糖分の組み合わせほど、細菌が好むものはありません!

 

これは手術を受けた患者さんにおいても同様で、高血糖の患者さんの創部は細菌にとって絶好の繁殖地になります。それを裏づけるように、糖尿病を併発する患者さんでは術後感染の危険性が高く、血糖値のコントロールがとりわけ感染対策として重要であることが報告されています。

 

ちなみに、交感神経が緊張すると血糖値は基本的に上昇しますので、術後の血糖値は高いことが多くなります。

 

糖尿病患者の血糖値コントロールは、先に説明した“大前提”があり、当然、術前からはじめるのですが、感染の危険因子としては、慢性的に血糖値コントロールが不良であることよりも、むしろ手術侵襲による一過性の高血糖値のほうが大きな問題とされています。感染対策としての血糖値コントロールは、術後の48時間までが最も重要です。

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2017照林社

 

P.14~15「なぜ術前・術後は血糖コントロールが重要なの?」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2017年3月号/ 照林社

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