気管支拡張症の疾患解説
【大好評】看護roo!オンラインセミナー
この【実践編】では、呼吸器内科専門医の筆者が、疾患の解説と、聴診音をもとに聴診のポイントを解説していきます。
ここで紹介する聴診音は、筆者が臨床現場で録音したものです。眼と耳で理解できる解説になっているので、必見・必聴です!
初学者の方は、聴診の基本を解説した【基礎編】からスタートすると良いでしょう。
今回は、感染性呼吸器疾患である「気管支拡張症」について解説します。
皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授)
気管支拡張症という病気は知っていますか?
気管支が拡がってしまって、元に戻らなくなる病気です!
学校でも習ったから、覚えています♪
正解です。
じゃあ、男性と女性、どちらの患者さんが多いと思いますか?
えーっと・・・どっちかな?
さすがに学校でも教わらないかな。
ここで詳しく解説していきますので、知っておくべき疾患のポイントを一緒に確認していきましょう。
〈目次〉
- 気管支拡張症の基礎知識
- 気管支拡張症の原因と病態生理
- ・先天性要因による気管支拡張症
- ・気管支拡張症の原因と病態生理
- 気管支拡張症の症状
- 聴診時に気を付けるポイント
- ・副鼻腔気管支症候群の患者さんを聴診する際は要注意
- ナースへのワンポイントアドバイス
- Check Point
気管支拡張症の基礎知識
気管支拡張症とは、気管支が拡がってしまい元に戻らなくなる病気です(図1)。
図1気管支拡張症のイメージ
気管支拡張症の発病者は、男性よりも女性に多く、日本人では約25,000人がこの病気に罹患していると言われています。しかし、性差がある理由(何故、女性に多いか)はわかっていません。
拡張する気管支の形は、気管支壁が円筒状になったり、紡錘状や嚢状の形態になることもあります。
気管支拡張症の原因と病態生理
気管支拡張症には、生まれつき罹患している先天性の要因と、生まれた後に罹患する後天性の要因があります。
先天性要因による気管支拡張症
気管支拡張症の主な先天性の要因は、慢性副鼻腔炎や気管支拡張症、カルタゲナー症候群(Kartagener syndrome)が挙げられます。
memoカルタゲナー症候群
カルタゲナー症候群とは、別名、原発性線毛機能不全症候群(immotile cilia syndrome:ICS)と呼ばれる先天性機能不全の病態です。また、原発性線毛ジスキネジア(primary ciliary dyskinesia:PCD)などにも属する疾患です。
症状の中には、内臓の配置が左右反対になる内臓逆位と呼ばれる症状があります。
後天性要因による気管支拡張症
気管支拡張症の主な後天性の要因は、感染症や膠原病(例:関節リウマチ、シェーグレン症候群)が挙げられます(1)。
幼児期に呼吸器の感染症を引き起こすと、気管支壁が弱くなり、気管支閉塞や肺炎、無気肺が起きやすくなります。
成人になっても、気道の同じ部位に感染したり、炎症を引き起こすことを繰り返すと、気管支壁が破壊されて、細菌の定着につながることがあります(例:非定型抗酸菌症、緑膿菌など)。
気管支拡張症の症状
気管支拡張症の症状は、慢性の咳や膿性痰が特徴です。しばしば、感染症になったことをきっかけに症状が増悪し、血痰や喀血がみられることもあります。
また、喀痰や呼吸困難感の増加、咳嗽の増加、発熱(38℃以下)、胸痛、喘鳴の増加などを認めることもあり、X線検査でこれまでには見られなかった肺の異常陰影が出現することもあります。
聴診時に気を付けるポイント
気管支拡張症は、中下肺野の気管支が拡張することが多く、特に、中肺野の聴診をしっかり行いましょう(図2)。また、背部では、下肺野の呼吸音も聴きましょう。
図2気管支拡張症の患者さんに行うべき聴診の位置
副鼻腔気管支症候群の患者さんを聴診する際は要注意
気管支拡張症の患者さんは、副鼻腔気管支症候群の症状が現れやすいことがあります。この症状は、嗅覚が低下する慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の症状と同じです。
慢性副鼻腔炎を起こしている患者さんの場合、常に気管支拡張症の異常音がないかを考慮しながら、呼吸音を聴きましょう。
ナースへのワンポイントアドバイス
気管支拡張症の患者さんは、中肺野を中心に聴診を行いましょう。特に女性では乳房を持ち上げて聴診すると良いでしょう。
気管支拡張症が進行すると、2次性の肺高血圧症を合併することがあるので、喀血、失神、息切れなど、患者さんの容態の変化には注意しましょう。
また、副鼻腔気管支症候群の患者さんの場合は、聴診と問診が大切です。患者さんの中には、カルタゲナー症候群のような、線毛異常を伴う先天性疾患が隠れている場合があるので、不妊症などの病歴も確認しましょう。
次回は、実際の気管支拡張症の患者さんの聴診音を紹介します。
代表的な音ですので、しっかりと聴いて特徴を覚えましょう。
[次回]
- ⇒『聴診スキル講座』の【総目次】を見る
[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授
[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授
Illustration:田中博志