消化酵素による分解の仕組み|食べる(2)

解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、消化器系についてのお話の2回目です。

 

[前回の内容]

栄養と代謝|食べる(1)

 

解剖生理学の面白さを知るため、身体を冒険中のナスカ。食物から得られる栄養素と代謝作用について知りました。

 

今回は、消化酵素による分解の仕組みの世界を探検することに……。

 

増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授

 

食物を分解して体内で作り替えるなんて、まるで工場みたい

 

それも、身体はかなり省エネで、効率のよい工場。私たちのからだは、高い熱も圧力も使わず、複雑な化学変化をかなりの速さでやってのけるんですからね

 

どうして、そんなことができちゃうんですか

 

それはね、酵素のおかげなの

 

酵素って、たしかタンパク質の一種ですよね?

 

酵素には化学変化のスピードを上げる触媒(しょくばい)としての作用があります。ほらよく、洗剤のCMなどでにするでしょ、「酵素の力ですばやく汚れを分解」って。あれは、汚れのモトになるタンパク質や脂質を、酵素の力で分解して落としますよ、っていう意味なの

 

分解力をアップする酵素の力

食物を吸収できるように小さく分解することを生理学では消化といい、大きく分けて2つの段階があります。1つは物理的消化、もう1つは化学的消化です。

 

物理的消化とは文字どおり、食物を砕いて細かくしていく作業です。口の中で咀嚼(そしゃく)したり、の中で撹拌(かくはん)したりという作業が、それに当たります。

 

物理的消化によって食物を際限なく細かくできたとしても、それではまだ、十分に分解されたとはいえません。からだが栄養素を吸収するには、血管の壁を通り抜けられるほど小さな分子でなければならないからです。血管の壁を通り抜け、しかも、その流動性を損なわないように物質を化学的に変化させる消化を、化学的消化といいます。

 

体内に存在するたくさんの酵素は、この化学的消化を助ける働きがあります。たとえば、酸素と水素を結合させて水を作るには通常、400℃以上の熱が必要ですが、砕いた白金を加えると、低温でも酸素と水素が結合して水ができます。つまり酵素は、体内ではこの白金のような働きをするのです(図1)。

 

図1おもな消化酵素

 

おもな消化酵素

 

人間の体温は通常、36~37℃程度に保たれています。これは、スピーディな化学変化に十分な温度とはいえません。しかし、化学反応を早めようとして体温を上げてしまうと、細胞を構成するタンパク質がその熱に耐えられず、変性してしまいます。酵素がなくては消化もできず、代謝は成り立たないのです。

 

そうか。酵素ってすごく大事なんですね

 

体内を流れる体液は、弱アルカリ性(pH7.35~7.45)に保たれています。これを強力な酸性やアルカリ性に変えれば反応速度は速くなりますが、その分、粘膜などの細胞を傷つけてしまいます。自分自身を傷つけず、しかもスピーディに化学反応を起こすために、私たちはたくさんの酵素をもっているのよ

 

36℃前後という体温は、酵素にとっても居心地がいいんでしょうか

 

体温は、多くの酵素が最も活性化する温度に設定されているの。酵素もまたタンパク質の一種なので60℃以上になると変性してしまってパワーを発揮できません

 

酵素が働く最適なpHというのも、あるんですか?

 

それは、酵素の種類にもよるの。たとえば、胃で働くペプシンはpH2、唾液のアミラーゼはpH7、膵臓から出るトリプシンはややアルカリ性のpH8くらいが最適かしら

 

けっこうバラバラなんだ

 

分泌される環境に合わせて、最も活動しやすい酵素が活動している、ともいえるわね

 

消化酵素による分解の仕組み

消化酵素は、物質を化学的に切っていくハサミのようなものです。ただし、なんでも切れる万能バサミではありません。ハサミの種類によって、切れるものと切れないものが存在します。

 

さらに、このハサミはけっこう大雑把です。両端から一つひとつ切っていく――なんていう面倒な作業はしません。まずは大きな塊ごと、幅をもって切っていきます。

 

デンプンを分解する消化酵素は、唾液などに含まれるアミラーゼです。アミラーゼは、デンプンを細かく切り刻み、グルコースが2分子のマルトース(麦芽糖)や数個結合したデキストリンという物質に変えていきます。そのデキストリンが小腸に来ると、次に小腸壁の細胞にあるマルターゼという消化酵素が働きます。マルターゼは二糖類を分解する専用バサミです。デキストリンはこのハサミによって加水分解され、グルコースとなって小腸に吸収されます。

 

アミノ酸がたくさん結合してできたタンパク質の場合、ハサミによって切る場所も違えば、できる物質も違ってきます。いずれにせよ、小腸に来るまでに短いペプチドに分解され、小腸壁の細胞にあるジペプチダーゼという酵素によって、2分子のアミノ酸に分解されながら吸収されます。

 

ここでのポイントは、吸収前はあえて2分子のまま残し、1分子のアミノ酸まで切り分けしないことにあります。

 

1分子まで分解してから小腸の細胞内で吸収されても、1分子のグルコースにしかなりません。でも、2分子のまま、小腸の細胞膜あるマルターゼによって消化されながら吸収されると、細胞内には2分子のグルコースが吸収されることになります。つまり、2分子の状態のままで吸収したほうが、より効率よく吸収できるのです(図2図3)。

 

図2消化酵素の働き

 

消化酵素の働き

 

図3糖質とタンパク質の分解

 

糖質とタンパク質の分解

 

[次回]

食道・胃・小腸・胆嚢・膵臓の仕組み|食べる(3)

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版

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