気管切開術
『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「気管切開術」について解説します。
剱持雄二
市立青梅総合医療センター 看護主任
得丸貴夫
市立青梅総合医療センター 頭頸部外科部長
- 気管挿管をされた患者が気管切開を受ける場合の介助がわかる。
- 気管切開後の留意点がわかる。
気管切開術の適応
- 人工呼吸管理もしくは人工気道を必要とする患者に対する気道管理として、気管挿管継続から気管切開移行が必要と判断された場合(概ね2週間以上気管挿管を要し、その後も人工気道による気道管理を要する場合)
- 人工呼吸器離脱困難患者(高度意識障害、重症呼吸不全・神経筋疾患など)
- 上気道閉塞や顔面外傷、熱傷などで換気や気道挿管が困難
- 過剰な気道分泌物、出血などによる誤嚥や気道閉塞のリスクがある患者
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気管切開術の実際
必要物品(写真1)
写真1気管切開に必要な部品
- 気管切開チューブ(2~3サイズ用意しておく)、チューブ固定用紐、カフエア用シリンジ、バッグバルブマスク、モニタ、カフ圧計、潤滑剤、局所麻酔、18G・23G 針、滅菌手袋、滅菌覆布、穴あき滅菌覆布、円刃、尖刃、滅菌ガーゼ、Yガーゼ、縫合糸、消毒液
- 吸引器・吸引用チューブ( 2セット:気管・口腔内吸引用、術野用)、オーバーテーブル、無影灯(必要時)、綿球、カップ、滅菌ガウン、キャップ
- 気管切開セット:鑷子(有鉤、無鉤)を各2本、モスキート、ペアン、筋鈎(小・中)各2個、剥離子、剪刀、持針器(マチュール型・へガール型)
- 丸 針、 角 針、 絹 糸(2-0: 固定縫合用、3-0:結紮用)など
- 局所麻酔: 1 %E 入りキシロカイン(10mL)、4%キシロカイン( 2mL)
- 吸引用のコネクティングチューブ、ディスポーザブル吸引嘴管(しかん)
- 電気メス:バイポーラ、モノポーラ(それぞれのケーブル)、対極板
介助手順(すでに気管挿管されている場合)
1患者へ必要性を説明する(写真2)。
写真2患者に必要性を説明
2患者の肩に枕を入れ、前頸部を伸展させる。頭の下には円座などを置き、気管が頸部正中に位置するように頭を固定する(写真3、写真4)。
写真3患者の肩の下に枕を入れる
写真4頭の下に円座を入れ、頭を固定
3気管および口腔内吸引を十分に行い、酸素投与する。
4術者の術衣装着の介助を行う。
5オーバーテーブルをベッドの上へ設置し、気管切開セットをのせ、無菌操作で開ける。患者の頭側に医師 3 人、右下(足側)に器械出し看護師が基本的な配置となる(写真5)。
写真5スタッフの基本的な配置
6医師の指示に従い、無菌操作で気管切開チューブ、局所麻酔、カフエア用シリンジ、滅菌ガーゼ、23G 針、 円刃、 尖刃、Y ガーゼ、縫合糸、滅菌手袋、滅菌覆布、穴あき滅菌覆布などを出す。
7術野の消毒の介助を行う。
8術野を無影灯で照らす。
9皮膚切開を行い、前頸筋を左右に分けて甲状腺を露出(写真6)。甲状腺を切断すると気管壁が露出する(写真7)。
写真6皮膚切開後に露出した甲状腺
写真7甲状腺切断後に露出した気管壁
10気管壁を逆 U 字に切開して気管弁を挙上し 、気管弁、気管壁を皮膚と縫合して気管切開を終了する(写真8、写真9)。ここまで来たら、頭側の介助者は気管内および口腔内吸引を行い、挿管チューブを固定しているテープを外し、抜管に備える。
写真8気管壁を逆 U 字に切開して気管弁を挙上したところ
写真9気管弁、気管壁を皮膚と縫合して気管切開を終了
11術者に清潔な吸引チューブを渡し、切開後に清潔野で吸引ができるよう準備する。
12医師の指示に従って、気管チューブのエアを抜き、抜管もしくはその介助を行う。
13気管チューブを抜管した直後に医師が気管カニューレを挿入する(写真10)。
写真10気管チューブを抜いて気管カニューレに入れ替え
14気切カニューレは、カフ付きの単管を使用する(サイズは挿管チューブと同じ)。
15気管チューブ挿入後、カフエアを膨らませ清潔野で吸引または、吸引の介助を行う。
16気管カニューレは、術後のむせ込みでの飛び出し予防のために四隅を縫合固定する。
17Y ガーゼを挿入して、さらにチューブ固定用紐を通し、頸部に固定する(写真11)。
写真11気管切開カニューレの縫合固定(2点皮膚縫着)
18気管吸引をし、左右の呼吸音を聴取し、換気が正しく行なわれているか確認する。
19処置終了後、カフ圧が正常範囲内であることを確認する。
留意点
1術者から患者の頭が見えないので、正中位を保ち、頸部を伸展させているか確認する。場合によっては、頭部や頸部を手で保持する。
2気管チューブを抜くように指示された時はどこまで抜くのか(完全に抜いていいのか、気管にまだ入れておくのか)必ず、医師に確認して行う。
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気管切開術後の観察項目・留意点
- 換気ができているか。
- 創部周辺からの出血はないか。
- 術後合併症として、皮下気腫、創部感染がないか。
- Y ガーゼは痰により汚れるため、適宜交換する。
- 皮下気腫の有無
- 各勤務でカフ圧の確認を行う。
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換気が不十分な場合の対応
- カフが適量であるか確認する。
- カフ内の空気を一旦抜いて、再度調節する。
- カフ上に痰がたまっているため、吸引の準備をしてから行う。
- 気管切開カニューレ内腔が痰、血餅などで閉塞してないか確認する。
- 気道内圧が上がっている場合は、カニューレの閉塞を疑う。
- 気管切開カニューレがすぐ用意できない場合には、緊急対応として気管チューブを代用として一時的に使用することもあるが片肺換気にならないように注意する。
- 自発呼吸がある場合には焦らずに気管カニューレを抜去し、気管切開チューブを挿入する。
- 気管カニューレが閉塞した場合は交換が必要であり、自発呼吸があれば医師が到着まで施設の基準に準じて抜去しておくことがある。
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気管切開術後の術後管理
- 気管切開後、 1 週間程度で初回の気管切開カニューレ交換し、その際に、気管切開カニューレ固定の糸は抜糸する。
- その後は 2~3 週間を目安に交換する。
- 気管孔周囲の縫合糸は 2 週間を目安に抜糸する。
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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版