HPVワクチンって私も打った方がいいの?

木下喬弘手を洗う救急医Taka

みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト副代表

ワクチン接種のイメージ写真

 

HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンについての話題を目にすることが増えてきました。一時期は「危ないからやめた方が…」という話だったのに、最近は「打った方がいい」という声もちらほら聞こえてきますよね。

 

昔は「子宮頸がんワクチン」と呼ばれていたはずなのに、HPVワクチンって名前になって、さらに「男性も打つべき」という人もいて。たまに患者さんや友達から質問されることもあるけど、正直ちんぷんかんぷん。「そもそも私は打った方がいいの?」ということすらよくわからない…。

 

今回は、そんな悩める看護師のみなさんのために、HPVが引き起こす病気とHPVワクチンについて解説します

 

新人さんもベテランさんも、女性も男性も、全ての人に関係のある話なので、ぜひこの機会に理解を深めてください。

 

HPVってどんなウイルス?

HPVのことって、実はしっかり理解するのが結構難しいのです。それは、HPVが「普通のウイルス」とはちょっと違う特徴があるから。でも大丈夫、とってもわかりやすく解説します。

 

まず初めに知ってほしいことは、「HPVは一つのウイルスじゃない」ということ。

 

実は200種類以上の「型」があって、それぞれ特徴が違います。新型コロナウイルスも「デルタ」や「オミクロン」など、いろんな名前の変異ウイルスがありますが、HPVは基本的に発見された順に番号で呼ばれます。一番初めに見つかったのが1型HPV、2番目が2型HPV…といった感じです。

 

ほとんどのHPVは皮膚にイボを作ったりするだけで、ヒトの命を奪うことはありません。しかし、200以上の型の中にはがん」の発生に関わるものが10数種類あり、「ハイリスクHPV」と呼ばれています

 

ハイリスクHPVの中でも、特に問題になるのが16型と18型で、「子宮頸部」という子宮の入り口に感染することで、子宮頸がんを引き起こします。

 

HPV感染の多くは性交渉が契機になります。そのため、実は、男女ともに性交渉の経験のある人の80%以上が、一生に一度はHPVに感染すると言われています。こんなにも多くの人が感染を経験していることを意外に思う人が多いのではないでしょうか。

 

ほとんどの人は自分の免疫でウイルスを排除できるのですが、中にはいつまでもウイルスが残ってがんに進行してしまう人がいるのです。自然にウイルスが排出される人と、がんになる人のはっきりとした違いはまだわかっていません。

HPV感染と子宮頸がんの関係モデル図。正常な細胞がHPVに感染すると、一部が前がん病変(軽度異形成、中等度異形成、高度異形成)に進行。前がん病変のうち軽度・中等度異形成は自分の免疫で感染が排除されるが、感染が持続した場合、数年~数十年かけてがん化する

筆者資料を基に看護roo!編集部作成

 

 

HPVワクチンに効果はあるの?

こうしたウイルスの感染から身を守るために作られたのが「HPVワクチン」です。いくつかの研究から、HPVに感染する前にHPVワクチンの接種を済ませると、子宮頸がんになる手前の「前がん病変」をほぼ100%防げることがわかっています1)

 

一方で、一度感染してしまった後にワクチンを接種しても、残念ながら感染したウイルスを排除する力はありません。つまり、HPVワクチンは「初めての性交渉を行う前」に接種することで最大の利益が得られます。

 

日本で主に使われているHPVワクチンには2種類あって、200種類あるHPVのうち4種類を防ぐのが「4価HPVワクチン」、9種類防ぐのが「9価HPVワクチン」です

 

最近の報告では、4価HPVワクチンを接種すると子宮頸がんのリスクは63%下がり、特に17歳未満で接種すれば88%もリスクが低下することがわかっています2)

 

HPVワクチンは男性も接種すべき?

HPVといえば子宮頸がんの原因になることが一番よく知られていますが、実はそれだけではないのです。腟がんや外陰がんのほか、男性に多い中咽頭がんや肛門がん、陰茎がんなどとも関係があることがわかっています。

 

また、HPVは尖圭コンジローマの原因でもあります。これは男女共に関係のある病気で、性器にイボができて痛みやかゆみが出てきます。HPV6型と11型の感染が原因で、4価、9価のどちらのHPVワクチンでも予防が可能です。

 

さらに、男性がHPVワクチンを接種すると、女性の子宮頸がん予防になることもわかってきています3)。HPVは性交渉を契機に男性から女性へ、女性から男性へとうつっていくので、男性がきちんと予防しておくと、パートナーの感染リスクを下げることができるのです。

 

このような理由で、アメリカやカナダ、イギリス、オーストラリアなどでは、男性の接種も当たり前に行われています。日本でも2020年に男性への適応が承認され、希望する男性は打てるようになりましたが、残念ながら今のところ接種は自費になってしまいます。

HPVワクチンを男性も接種する3つのメリット図。1)男性にも関係する咽頭がんなどを予防できる。2)尖圭コンジローマを予防できる。3)パートナーの子宮頸がん防止につながる

 

 

HPVワクチンの安全性は大丈夫なの?

日本では、2013年にHPVワクチンの安全性を疑問視する声が出て、連日テレビなどで報道されました。接種をした後に痛みが続いたり、歩行の障害やけいれんが起きた子たちがいたりすることが問題になり、国は一時、接種を積極的に推奨することを取りやめたのです。これにより、HPV ワクチンの接種率は1%未満にまで落ち込みました。

 

この記事を読んでいる若手ナースのみなさんも、中高生のころ、そんなニュースを目にした方も多いでしょう。

 

しかし、それから約10年の間に国内外で数多くの研究が行われ、どの研究においても「接種後の症状とワクチンの因果関係は認められない」ということが報告されました1,4,5)

 

さらに、WHOは2019年に「予防接種ストレス関連反応」という概念を発表し、ワクチンを接種した後に「ワクチンの成分とは関係なく」痛みや失神などのストレスによる反応を来す人がいることを明らかにしました。

 

現在では、HPVワクチンを接種した後に様々な症状を呈した女性の多くが、この予防接種ストレス関連反応で説明できると考えられています。こうした議論を経て、厚生労働省の委員会は2021年、HPVワクチンの推奨を再開したのです。

 

HPVワクチン、私も打つべき?

上でも述べた通り、HPVワクチンは、性交渉開始前に接種するのが最も効果が高いです。このため、「性交渉経験があれば、もう打っても意味がないのでは?」という意見も多く見られます。これは本当でしょうか?

 

実はこれは間違いで、CDC(米・疾病対策センター)は「男女問わず26歳以下の全ての人」への接種を推奨しています。

 

ここで思い出してほしいのは、HPVは一つのウイルスではないということです。過去に性交渉の経験があって、4価HPVワクチンで予防できる型のうち2つの型に感染したことがあっても、残り2つの型については予防効果があるというわけです。

 

お互いのパートナーが固定していれば接種のメリットは少ないと考えられますが、今後、新たなパートナーと性交渉する可能性がある人は、HPVワクチンを接種することが勧められます。9価HPVワクチンであれば、さらに高い効果が見込めます。

 

2023年現在の日本の制度では、「小学6年~高校1年の女性」が定期接種の対象ですが、過去に接種の機会を逃すことになった世代への特例も設けられています(キャッチアップ接種)。

 

1997年4月2日以降に生まれた女性、つまり「2023年末現在で26歳以下」の女性は、無料でHPVワクチンの接種が可能です(2025年3月まで)

 

HPVワクチンのキャッチアップ接種を呼びかける厚生労働省のホームページ

 

ただし、男性や1997年3月以前に生まれた女性は接種費用が自費になりますので、費用と効果のバランスを個別に検討する必要があります。

 

上でも触れたように、今後、新たなパートナーができる可能性がある人は、前向きに接種を検討しても良いと思います。

 

その一方で、たとえば既婚者などでお互いのパートナーが固定されている場合は、確かに効果は薄いかもしれません。

 

そうした方の場合は、子宮頸がん検診がより大切になってきます。HPVワクチンの接種に関わらず、女性は2年に1回の検診も必ず受けるようにしてください。

 

終わりに

HPVワクチンの必要性について、ご理解いただけたでしょうか。自分とパートナーの大切な命を守るため、対象になる方は是非接種を検討してみてください。

 

 

執筆

木下喬弘(手を洗う救急医Taka)

みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト副代表。こびナビ(CoV-Navi)副代表。外傷専門医、公衆衛生学修士。2010年大阪大医学部卒。大阪の救命救急センターで9年間勤務した後、2019年にハーバード公衆衛生大学院に入学。日本のHPVワクチンに関する医療政策研究で2020年同大学院卒業賞を受賞。『みんなで知ろう!新型コロナワクチンとHPVワクチンの大切な話』(ワニブックス)など。TwitterInstagramYouTube

 

編集:烏 美紀子(看護roo!編集部)

 

 

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