わがままで怒鳴る「困った患者」は、普通の気のいいおじさんだった|病院ナースの訪問看護(2)

茨城県立中央病院の看護師さんたちの写真

茨城県立中央病院は、病院看護師を訪問看護の研修に送り出している

 

その患者さんは、わがままで、いつもイライラ。

 

生活指導を受けても暮らしを整えないから、入退院の繰り返し。病棟では、看護師に怒鳴ってばかり。

 

…はっきり言えば、病棟のナースが「もう入院してきてほしくない」「早く退院しないかな」と思ってしまうタイプの患者さんでした。

 

何回目かの退院の後、病院の看護師が、患者さんの自宅に様子を見に行くことに。

地域の訪問看護師に同行して患者さんに会い、病院の看護師は驚きました。

 

「すごく普通の、ただの気のいいおじさんじゃない…!」

 

 

病院の看護師にこそ、在宅を見てほしい

看護局長の角田さんの写真

茨城県立中央病院の看護局長・角田直枝さん

 

このエピソードを教えてくれた茨城県立中央病院の看護局長、角田直枝さんは続けます。

 

「わたしたちが病院で見ているのは、患者さんの一部。おうちに帰った患者さんは、どんどん“豊か”になる。わたしは、病院の看護師にこそ、それを見てほしいと思ってるんです」

 

茨城県立中央病院では、地域の訪問看護ステーションに協力をあおぎ、希望する看護師を積極的に研修に送り出しています。今年(2019年)の研修募集には30人が応募したそう。

 

「2~3年目の若手から、副部長くらいのベテランまで、参加する人はいろいろです。病院という特殊な環境向けにパッケージ化された生活じゃなくて、『患者さん個々の生活を見てみたい』と手を挙げてくれますね」

 

訪問看護ステーションの訪問看護師に同行して在宅の現場を学ぶ病院ナースの写真

訪問看護師(中央)に同行して在宅の現場を体験する茨城県立中央病院の看護師(写真:角田さん提供)

 

しかし、これだけの数の病棟看護師を研修に出すのは楽ではないはず…。それでも、在宅研修を熱心に進めるのは、どうしてなんでしょうか?

 

「それはもちろん、わたし自身が訪問看護を体験して、目からウロコだったから!

 

 

家にいたのは、全然知らない患者さんだった

角田さんが、まだ5年目の病棟ナースだったとき。

 

がんで予後1カ月とされ、「もう治らないなら、家で寝てても同じ」と退院していった高齢の女性患者さんがいました。

 

最初の手術のときから受け持ちだった角田さんは気がかりで、訪問看護師に同行して自宅を訪ねたそう。

 

IVH(中心静脈栄養)やドレナージが付いていて、こんな状態で自宅に帰して、患者さんは本当に幸せになれるのか、心配だったんですよね。ご家族も大変だろうし、って」

 

角田さんの写真

「病院の看護師に、おうちでの患者さんを見てほしい」

 

でも、それが要らない心配だったことは、すぐにわかりました。

 

商売をしているお宅で、その患者さんは、問屋からの問い合わせをチャキチャキさばいたり、家族からの相談に「それはこうして」と采配をふるったり――

 

「その家にいたのは、わたしの全然知らない患者さんだった。

 

苦しい、寂しいと言いながら病院で亡くなる人をずっと看てきて、人生の最期にこんなに明るく元気になれるんだ、と衝撃だったんです」

 

 

「これじゃ帰せない」から「これで帰れます」に変わる

病院でスタッフと話している角田さんの写真

 

角田さんはその後、訪問看護師として長く在宅の現場を経験。

 

現在の病院で看護局長になってからも「病院から自宅に戻って“豊か”になる患者さん」を見てほしいと、訪看ステーション研修を導入しました。

 

訪看の現場を体験して病棟に戻ってきたナースには、ある変化が起きるといいます。

 

それは、

「あれができないから、まだ退院できない」

「もっとリハビリして、これができるようにならなきゃ自宅に帰れない」

と言わなくなること。

 

「『これじゃ帰せないよね』と言ってた看護師が、『これでも帰れます』『おうちに帰したほうがいいと思います』と言うようになるんです。

 

訪看の研修から帰ってきて、『…うちの患者さんの半分は、今日にも退院できるんじゃないですか?』と言った人もいましたね。わたしも、いつもそう思ってます(笑)」

 

 

家という環境がケアしてくれる

角田さんの手元アップの写真

「患者さんは、もともとおうちにいるものなんですよね」――

 

ただ、「このまま退院したら、すぐ家で転倒しちゃうんじゃないかな」「ごはん食べられないんじゃないかな」「ご家族はちゃんと看られるのかな」と、病棟ナースからしたら心配な患者さんもいるのでは…?

 

こちらはそう心配してても、実際おうちに帰ってみたら、意外と大丈夫だったりするんですよ」と角田さん。

 

たとえば、家の廊下の幅。

普通の家なら、病院の廊下よりずっと狭いから、けっこう転ばずに歩けちゃう。

 

トイレだって、病院みたいに遠くない。

 

病院で歩くリハビリなんて面白くもないから、やりたくないけど、家にいて宅配便が来たら、なんとしても歩かなくちゃ。

 

孫と一緒なら食事も楽しいし、かわいいネコに餌もあげなきゃいけないし――

 

家という環境そのものがケアしてくれるんです。

 

病棟だけ見ていたらわからないけど、訪問看護の現場を知ると、こういうことがいっぺんにわかる。だから自信を持って家に帰せるんです」

 

笑顔の角田さんの写真

 

 

少しでも関心があるのなら経験させたい

角田さんは、みんながみんな訪問看護を経験すべき!とは思っていません。

 

「訪看を経験しても『在宅は、病院のようにモノが整ってない』とネガティブな感想を持つ人もいます。看護師にだって、いろんなタイプがいるのは当然ですからね」

 

でも、少しでも在宅に関心のある看護師がいれば、これからも積極的に研修や同行訪問に送り出すつもりです。

 

茨城県立中央病院のナースステーションの写真

在宅に関心のある病院看護師なら、訪問看護を経験できる機会が用意されている

 

――冒頭に登場した、困った患者さん。

 

自宅での様子を見ていないスタッフにとっては「困った患者」のままだし、「そんな患者さんのところにまで訪問する必要ない」という声もあったそう。

 

ただ、自宅を訪問してきた看護師は「困った患者、だけじゃなかった」と言います。

 

遊びに来てくれる友達が何人もいて、実は生活も整えようと病気のことを勉強していて、でも家族背景が複雑で…

 

「病院とは違う一面を知ったことで、これから必要なケアや支援も見えた」と言い、さらに、こんな話を教えてくれました。

 

「入院中イライラしてばかりだったあの患者さんが、帰り際に『おれの家、どうだった?』とうれしそうに笑ってて、『うちまで来てくれてありがとう。入院させてくれてありがとう』って言ったんです」

 

***

第1回:病院ナース、これから2年「訪問看護」やってみます!|病院ナースの訪問看護(1)

第3回:訪問看護に興味はある…でも「見学させてください」は迷惑?|病院ナースの訪問看護(3)

第4回:「3年後は訪問看護師」が約束された病棟ナースたち|病院ナースの訪問看護(4)

看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko

 

 

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