訪問看護に興味はある…でも「見学させてください」は迷惑?|病院ナースの訪問看護(3)

訪問看護ステーションを見学してみたいけれど…?
今は病院勤務だけど、訪問看護の現場は一度ちゃんと見てみたい。
…でも、具体的には何をどうしたらいいの?
そんなふうに思う若手ナースも多いかもしれません。
実は、近ごろは見学を積極的に受け入れる訪問看護ステーションが増え、以前よりも気軽に見学・同行訪問を申し込めるようになってきているんです。
今回は、個人で訪問看護ステーションに見学に行った病院看護師の体験談です。
見学や同行訪問、「冷やかしになったら申し訳ない」?

「学生のときから在宅に興味がありました」という横地さん
横地哲史さんは看護師7年目。
聖路加国際病院の救命救急センターに勤務しています。
以前、日勤後の時間や休日を利用して、ケアプロ訪問看護ステーション東京で見学・同行訪問を経験させてもらったそう。
「きっかけは、同じく訪看に興味のあった同期が見学を申し込んでいて、『一緒にどう?』と声をかけてくれたから。実は、自分では申し込んでないんです(笑)」

最初に見学に行った日は、日勤後の短い時間だったこともあって、ステーションの理念や具体的な一日の働き方など、軽く話を聞く程度。
そのうえで「よかったら今度、訪問にも同行してみませんか?」と誘われた横地さんは、もちろん行きたいです!…と言いかけて、その言葉を飲み込んでしまいました。
「ここに就職するかどうか、そもそも、すぐに訪問看護師になるかどうかもわからないのに、冷やかしみたいで申し訳ない…」
あらためて後日、そのままの気持ちを伝えてみると、
「『軽い気持ちで来てくれたらいいよー』と言ってもらえて。それで、やっと『お願いします!』と」
学生のときには見えなかった「すごさ」

「看護学生のときとは違う視点で在宅を見ることができた」
実際に訪問看護の現場を見てみて、横地さんは、何を思ったんでしょうか?
「…すごいなって。すごいなって思いました。
4~5件の訪問に同行させてもらったんですが、ALSで医療依存度の高い人でも、自宅で楽しそうに生活しているんですよね。
本当に『日常』の、『生活』を。
でも、この日常にまで整えるのに(訪問看護師や在宅スタッフは)どうやったんだろう。何が必要で、それをチームでどう共有しているんだろう――。
学生時代の在宅実習では見えなかったことがたくさん見えて、聞けて、学べて。…すごいなって思いました!」
取れる情報の深さと濃さ 救急でのケアが変わった

在宅を知ることで、病院でのケアが変わることも(写真と本文は直接関係ありません)
訪問看護の現場を目の当たりにしたことで、横地さんは、救命救急センターでの自身のケアが少し変わったと言います。
それは、たとえば患者さんに付き添ってきた家族への接し方。
救急はどうしても急ぐ必要のある領域とはいえ、動揺している家族にADLの状態を矢継ぎ早に質問したり、機械的に対応してしまったり――。
「つい家族の気持ちを置き去りにしてしまうことがあったな、『救急の処置に必要な情報が早く取れればいい』みたいな感覚があったかもしれないな、と気づいたんです」
個別性の大きい在宅の暮らしを具体的にイメージできるようになったことで、不安に寄り添う言葉を掛けられるようになったり、「自宅での生活状況」を丁寧に聞けるようになったりしたと話す横地さん。
患者さんや家族から返ってくる情報の“深さ”や“濃さ”も増し、「その情報を病棟に送って『治療目標は、こういう生活に戻ること』と治療目標を共有できるようにもなりました」。
「今は病院で頑張る」という選択

「いずれやりたい」と考えていた在宅の現場を実際にのぞいてみて、訪問看護に対する横地さんの今の気持ちは、
「バイトならやりたい」。
「中堅にさしかかって、今は病院、救急でのステップアップが楽しいというのが正直な気持ち。今すぐ(病院を辞めて)完全に訪問看護にシフトしようとは、あまり考えられないんです。訪問看護のバイトがあったら、休日でやりたいなと思っています」
でも、訪問看護師の道は、将来の選択肢として持ち続けています。
きっと、横地さんの次の転機は、在宅ケアのニーズが膨らむ2025年。
「そのころまでには、自分の進む方向性が見えてくるかなと思ってます」
見学を受け入れる訪問看護ステーション側は?
見学・研修を受け入れる訪問看護ステーションが増え、最近は、ホームページに見学申し込みフォームを設けている事業所も少なくありません。
年間100人ほどの見学を受け入れているケアプロ訪問看護ステーション東京に、受け入れ側の気持ちを聞きました。

ケアプロ在宅事業部長の金坂さん(右)と中野ステーション所長の内田さん。ケアプロは若手が多く、見学にくるのも20~30代ナースがほとんどだそう
「ケアプロの場合、訪問看護をもっと広めたいという事業所の理念と、採用につなげたいという目的から、見学や研修を積極的に受け入れる方針を取っています」。
こう話すのはケアプロ在宅医療事業部長の金坂宇将さん。
「もちろん受け入れには負担もありますから、そんなに数多くは難しいですし、就職を希望されている方を優先的に受け入れる時期もあります。
ただ、見学には訪問看護の啓発という目的もあるので、直接の採用につながらなくても、興味を持っていただける機会になるならOKです」というスタンスだそう。
このあたりは事業所の考え方によっても違いが大きく、人手の少ない小規模なステーションでは、見学の受け入れ自体が厳しいところも。
「国として訪問看護を推進していくうえで、見学・研修・出向がもっとしやすくなるような支援が必要だと思っています」(金坂さん)
以前は急性期病院で働いていた内田繭子さんも、たくさんの病院ナースに訪問看護を経験してほしいと言います。
「在宅をやってみると、自宅に帰れない人はいないな、と本当に思うんです。
でも、それは地域に受け入れる資源があればこそ。訪問看護師も、在宅を知っている病院の看護師も、もっと増えるといいですよね」
***
第1回:病院ナース、これから2年「訪問看護」やってみます!|病院ナースの訪問看護(1)
第2回:わがままで怒鳴る「困った患者」は、普通の気のいいおじさんだった|病院ナースの訪問看護(2)
第4回:「3年後は訪問看護師」が約束された病棟ナースたち|病院ナースの訪問看護(4)
看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko)
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