知らず知らず看護師に積み重なる悲しみ…「プロフェッショナル・グリーフ」を知っていますか?

音楽のあるホスピスから

Vol.9 喪失を繰り返す職場であることに自覚を

 

プロフェッショナル・グリーフとは

病院、高齢者施設、在宅ケアなどの現場で働いていると、喪失を頻繁に経験します。

 

患者さんや利用者さんが亡くなったとき、私たち医療従事者も悲しみを経験しますが、それを表出する機会は少ないのではないでしょうか。

 

大切な人を失ったときに起こる深い悲しみをグリーフと言いますが、職業柄起こるグリーフは「プロフェッショナル・グリーフ」と呼ばれます。

 

日本では耳慣れないかもしれませんが、アメリカの医療者の間では、よく聞かれる言葉です。

 

このようなグリーフが長年積み重なると、さまざまな症状が現れます。仕事が思うようにできなくなったり、バーンアウト(※)したりするのです。

※燃え尽き症候群のこと

 

私も長年ホスピスケアに携わる中で、プロフェッショナル・グリーフを経験しました。

 

しかし、医療従事者は患者さんの死を個人的なものと捉えないようにトレーニングされていますので、このようなグリーフは自分でも気づかないことが多いです。

 

あなたの職場では、悲しみを表現できるような雰囲気はありますか?

 

私が、家族やペットとの死別というパーソナル・グリーフ(個人のグリーフ)を経験したときには、プロフェッショナル・グリーフが重なり、仕事が続けられないと思った時期もありました。

 

そんなとき役に立ったのは、グリーフについての知識とそれに向き合うための具体的な方法でした。

 

今回は、医療従事者が経験するプロフェッショナル・グリーフとそれを乗り越えていくためのヒントをご紹介します。

 

プロフェッショナル・グリーフ」と「パーソナル・グリーフ」の違いは?

「プロフェッショナル・グリーフ」であっても「パーソナル・グリーフ」であっても、グリーフは、身体的、精神的、社会的、スピリチュアル的な面で私たちに影響を与えます。

 

例として、下記のような症状が挙げられます。

 

・体がだるく、疲れやすい

・食欲がない

・夜眠れない

・溢れ出すような気持ちに圧倒される

・何も感じない(無感覚・無感情

・突然イライラしてしまう

・周囲の人が自分の心の苦しみに気づかない、ということに驚いてしまう

・大切な人の死を防げなかった自分に罪悪感を覚える

・自分自身や周りに怒りがある

・物忘れがはげしくなる(例:頻繁に鍵をなくす)

・何か言いかけて、忘れてしまう

・物事に集中できない

・人生が虚しく感じ、意味がないものに思える

・忙しく予定を立てて、悲しみをまぎらわせようとする

 

このリストからもわかるように、グリーフの症状は幅広く、人によって異なります。

 

■プロフェッショナル・グリーフの特徴

プロフェッショナル・グリーフはパーソナル・グリーフと違い、大抵の場合オープンにされることはなく、個人の心の中にしまったままになっています。

 

医療従事者はプロとして、患者さんの死を個人的なものと捉えないようにしていますし、日々の忙しい仕事に追われ、一人ひとりの死に向き合う暇もない、という現状があるからです。それでもグリーフは、知らず知らずに積み重なっていきます。

 

プロフェッショナル・グリーフの特徴をいくつか挙げてみましょう。

 

・グリーフが隠れていて、わかりにくい

・喪失が積み重なっていき、グリーフが慢性化する

・グリーフが怒り、不安、罪悪感、無力感、非難などの感情として現れる

・喪失が起こってからグリーフを経験するまでに、時間がかかる場合がある

・グリーフが燃え尽き症候群につながる

 

私たちにできることとは?

グリーフの過程で最も大切なことは、自分のグリーフを認識し、何らかの形で気持ちを表現することです。

 

そのためにできる方法をいくつかご紹介します。

 

・定期的にスーパービジョン(※)を受ける

・日記をつける

・音楽やアートを通じて気持ちを表現する

・信頼できる同僚に気持ちを打ち明ける

・「自分のための時間」をつくり、好きなことをする

・健康的な食事、充分な睡眠、適度な運動を心がける

(※専門家からの支援)

 

「音楽療法士は『普通ではないこと』を日々経験し、それを知らず知らずに家に持って帰ってきてしまう。まずはそれを認識しないといけない」と学生時代、恩師によく言われました。

 

これはすべての医療従事者に言えることではないでしょうか。

 

グリーフそのものは「普通のこと」でも…

グリーフそのものは、喪失の際に経験する「普通のこと」です。

 

でも、医療や介護の現場で働き、喪失を繰り返し経験するということは、それが日常の出来事であっても、決して「普通のこと」ではありません。

 

それを自覚することが大切だと思います。

 

そうすることで初めて、セルフケア(自分を思いやること)に目を向けることができるからです。

 

(参考)

佐藤由美子 著『死に逝く人は何を想うのか-遺される家族にできること』(ポプラ社)

Understanding Professional Grief(National Association of Social Workers)

 

【佐藤由美子】

ホスピス緩和ケアを専門とする米国認定音楽療法士。バージニア州立ラッドフォード大学大学院音楽科を卒業後、オハイオ州シンシナティのホスピスで10年間音楽療法を実践。2013年に帰国。帰国後は青森県在住。15年からは青森慈恵会病院の緩和ケア病棟で音楽療法士として働いている。著書に『ラスト・ソング』(ポプラ社)、『死に逝く人は何を想うのか』(ポプラ社)がある。ハフィントンポスト(日本版)でBlog「佐藤由美子の音楽療法日記」を掲載中。

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