終末期に「あとどのくらいですか」と聞かれたら|検証進む予後予測ツール

【日経メディカルAナーシング pick up】

 

終末期癌患者の今後の見通しを客観的に予測するための予後予測ツールが国内外で複数開発され、その検証が盛んに行われている。このたび、国内の癌患者2000人以上を対象にした世界最大規模のコホート研究の結果が公表され、目的に応じてツールを使い分けることの意義が示された。

(井田恭子=日経メディカル)


 

「あとどのくらいですか?」と聞かれたら、どのように予後を予測し、どのように話し合うか――。今年6月、日本緩和医療学会学術大会で、こんなタイトルのシンポジウムが開かれ、参加者の関心を集めた。

 

特集「良くない知らせの伝え方」でも紹介した通り、「悪い知らせ」の伝え方に悩む医師は少なくない。中でも予後については予測自体が難しく、終末期癌患者に対する医師の予測は実際の予後より楽観的になる傾向があるとの報告もある。

 

それを補うため、2000年前後から、癌患者の予後を客観的に予測するための指標の開発が国内外で進み、現在、PaPスコア(Palliative Prognosis Score)、PPI(Palliative Prognostic Index)、PiPSモデル(Prognosis in Palliative care Study predictor models)など、予後を「日」「週」「月」の単位で予測する指標が複数存在する。だが、各指標の長所、短所や使い分けに関する検討は、十分行われていないのが現状だ。 

 

 

聖隷三方原病院(浜松市北区)副院長の森田達也氏は、緩和ケア病棟のある16施設(以下、緩和ケア病棟)、入院患者に緩和ケアチームが関わる19施設(同、緩和ケアチーム)、在宅診療を行っている23施設(同、在宅)という異なる環境下の終末期癌患者2462人を対象に、これらの指標の精度や使い勝手などを検証するコホート研究「ProVal試験」を実施。

冒頭のシンポジウムに演者の一人として登壇し、今年4月にEuropean Journal of Cancerにアクセプトされた世界最大規模となる同試験の結果について、報告した。

 

聖隷三方原病院の森田達也氏

「3つの異なる環境の患者で同時に精度を検証した研究は初めて」と語る聖隷三方原病院の森田達也氏。 

 

ルーチンで用いるのに最適なPPI

ProVal試験で検討対象とした予後予測指標は、「PaPスコア」「PPI」「PiPSモデル」。PaPスコアはイタリアで開発された指標で、主治医の主観的な予測を、食欲不振や白血球数など客観的因子で補正し予後を算出する(表1)。せん妄を評価項目に含んだ「D-PaPスコア」もある。

 

表1 PaPスコアの評価方法(がん治療レクチャー.2011;2(3):589-593.より抜粋、一部改変)

PaPスコアの評価方法

 

一方、医師の主観を入れずに経口摂取の低下、浮腫、安静時呼吸困難、せん妄などの患者の症状から予後を算出するのが、森田氏らが開発したPPIだ(表2)。

そしてPiPSモデルは、英国で開発された最も新しい指標で、全身状態や血液検査所見など数十項目から予後を算出する。項目に血液検査所見を含まないA モデルと、含めたB モデルがあり、各項目を専用webサイト上に入力すると、「日単位」(14日以下)、「週単位」(15日から55日)、「月単位」(56日以上)で予後がはじき出される仕組みだ。 

 

表2 PPIの評価方法(がん治療レクチャー.2011;2(3):589-593.より抜粋、一部改変)

左側の項目(起居)から順に、患者に最も当てはまるレベルを決定する。

表2 PPIの評価方法

 

今回の試験では、「緩和ケア病棟」「緩和ケアチーム」「在宅」のそれぞれにおいて、初診時に上記予測指標に必要となる項目を、緩和ケア医もしくは在宅医が記入し、6カ月後の予後を追跡した。

 

図1はその結果。予測精度(accuracy)は、いずれの指標も使用する環境を問わず69%以上だった。国内で汎用されているPPIについては、在宅医から「在宅では予測が外れる」との指摘もあったが、今回の検討では、在宅でも緩和ケア病棟などで使用した場合と精度は同等だった。また、これまで検証されてこなかった化学療法中の患者についても、他の終末期患者と同様の精度が担保できることも分かった(図1右端)。

 

図1 「緩和ケアチーム」「緩和ケア病棟」「在宅」の各環境の患者、および化学療法中の患者における、各指標の予測精度と実施可能性の比較(森田氏による)

「短期生存」はPiPSは13日以下、それ以外は21日以下を指し、「長期生存」はPaPとD-PaPは30日以上、PPIは42日以上、PiPSは56日以上をそれぞれ指す。

図1 「緩和ケアチーム」「緩和ケア病棟」「在宅」の各環境の患者、および化学療法中の患者における、各指標の予測精度と実施可能性の比較

 

各ツール間で精度を比較すると、PPIが全体的にやや低い傾向だったが、一方で、臨床現場での実施可能性(feasibility)、つまり使い勝手についてはPPIとPiPS-Aがいずれの環境においても90%以上と高く、採血を要するPaP、D-PaP、PiPS-Bは低かった。 

 

 

結果について森田氏は、「PPIはもともと、実施可能性を重視して開発した指標。採血が不要で精度も悪くなく、日常臨床でルーチンに使用するのに適している。一方で、採血が可能で予測精度をより高めたければ、PaP(D-PaP)やPiPS-Bを使用した方がいい」と述べる。

 

抗癌剤治療などの積極的治療を続けるかどうかや退院時期の判断、強い痛みに対して神経ブロックを行うか、終末期の鎮静を行うかなど、残された時間がどれくらいかが方針の決定に大きく影響する場合には、より正確に予後を予測した方がよい。その場合は、PPIだけではなく他の指標もを用いた方がいいというわけだ。

「PPI一辺倒でなく、予測の目的や患者の状況に応じて指標を使い分ける必要性が示された点は、今回の検討の大きな成果だ」(森田氏)。

 

なお、PPIについては、項目の1つであるせん妄の評価が難しく、予測が外れる一因となっている。不穏や亡くなる直前の意識がぼんやりしている状態も本来はせん妄症状の一種だが、判断しづらい場合があることから、森田氏は「せん妄の項目を、『不明瞭でつじつまの合わない話しかできない』という項目に置き換えても、ある程度の予後予測は可能なことが示された(simplified PPI)。せん妄の評価に慣れていなければ、患者がコミュニケーションできるかを評価することで代替になる」と補足する。

 

精度向上と患者にどう伝えるかは別の問題

森田氏は現在、予後予測指標の精緻化の検討を進めている。「食べられない」「苦しい」といった評価者の主観が入るような項目ではなく、血液検査や症状出現までの日数など、より客観的なパラメーターの開発もその一つだ。

また、今回のデータを基に、「80歳以上」「若年者」といった年齢の違いや「COPD合併例」など合併症ごとに癌患者を解析し、予測精度を検証したい考えだ。

 

もっとも、「予後予測の精度の向上と、予測結果を患者にどう伝えるかということは、分けて考えなければならない」と森田氏は指摘する。

全身状態の悪化に伴い、自分自身の予後を数字で知りたいという患者は総じて減っていく。

 

「予後を医療者に尋ねる患者の多くは、『残り何カ月か』が知りたいのではなく、先の予定など数字以外の『何か』を気にしている」と森田氏は指摘する。

予後を知りたい理由など患者の思いを聞いた上で、「『その頃には外出は難しくなっているかもしれないから、今のうちにやっておいた方がいい』など、医師は予測指標から得た結果を、患者の知りたい情報に置き換えて話す必要がある」と同氏は話している。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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