マダニ媒介の感染症「SFTS」の院内感染を防ぐには?過去に医療者の感染事例も
感染症対策
今年6月、マダニが媒介する感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」に関するいくつかの出来事がニュースになりました。
三重県でSFTSに感染したネコの入院治療にあたった獣医師が、その後SFTSを発症し死亡したというものや、関東地方(茨城県)で初めてネコがSFTSで死亡したことが確認されたという内容でした。
このほか、愛知県でのSFTS患者2人の死亡例や、富山県で高齢女性の感染が確認されたという報道もありました。
SFTSは医療現場で頻繁に遭遇する感染症ではありませんが、海外ではこれまでに医療関係者が院内感染により死亡した事例も報告されています。
医療従事者は基本的な知識を持っておくことが望ましい感染症です。
SFTSウイルスの感染経路
SFTS(重症熱性血小板減少症候群、Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)は、比較的新しい感染症で、2011年に中国で初めて確認されました。
日本では2013年から発生が報告されていますが、2005年にはすでに感染者がいたと考えられています。
SFTSを引き起こすのは、SFTSウイルスです。
SFTSウイルスはマダニの間で広がり、感染したマダニが吸血することでヒトや動物に感染を引き起こします。
感染マダニに刺された野生動物や家畜はウイルス血症を起こしますが、これらの動物の多くは無症状のままであり、吸血する別のマダニにウイルスを広げる役割を担うと考えられています。
一方で、ヒトやイヌ、ネコ、チーターが感染すると、重症化し、命に関わることがあります。
ヒトがSFTSウイルスに感染する経路は主に次の3つです。
① SFTSウイルスを保有するマダニに刺される(最も多い)
② 発症したヒトの血液・体液に曝露する(主に医療機関におけるリスク)
③ 発症したイヌ・ネコの血液・体液に曝露する(主に獣医療や動物の世話におけるリスク)
ここでいう「曝露」とは、ウイルスを含む血液・体液(唾液、気道分泌物、嘔吐物、排泄物)による粘膜・創傷汚染、感染性エアロゾルの吸入、血液・体液が付着した鋭利器材による針刺し・切創、あるいは感染動物による咬傷を指します。
イヌ・ネコからヒトへの感染はまれなので、ニュースで大きく取り上げられることがありますが、国内で報告が最も多い感染経路は①のマダニによる刺咬です。
②による医療関係者の感染は中国、韓国、日本から報告されており、ほとんどが重症患者の血液・体液曝露による感染です。
吸血しているマダニ(聖路加国際病院 皮膚科 新井達先生提供)
西日本を中心に発生、徐々に東にも拡大
SFTSは主に中国、韓国、日本の3か国で流行していますが、東南アジアや南アジアからも発生報告があります。
国内での報告件数は年間120件程度で、西日本を中心に、春から秋にかけて増える傾向にあります。
これはマダニの活動が活発になる時期と、ヒトが野外活動を行う時期が重なるためだと考えられています。
気候変動の影響もあり、発生地域は徐々に東の方に拡大しており、発生報告がない地域でもSFTSウイルスを保有するマダニや感染動物が見つかっています。
注)報告件数は2013年3月4日以降の届出の累計
SFTSの症状|発症初期は風邪に類似
SFTSウイルスに感染すると、7日~14日(平均9日)の潜伏期を経て発症します。
動物やヒトから感染した場合の潜伏期間は、もう少し短い場合があります。感染しても症状が出ない場合もあるようです。
発症初期には、発熱、全身倦怠感や頭痛がみられます。その後、多くのケースで嘔吐、下痢、腹痛などの消化器症状が出現し、血液検査では、血小板減少、白血球減少、トランスアミナーゼ上昇が認められます。
初期症状はインフルエンザや胃腸炎に似ており、マダニに刺されたあとも残りにくいため、早い段階でSFTSを疑うのは簡単ではありません。
若年者は治療を行わなくても自然に回復することが多いですが、高齢者は重症化しやすいことがわかっています。
重症例では、発症から5~7日目ごろに意識障害、出血傾向、細菌や真菌による菌血症、血球貪食症候群、侵襲性肺アスペルギルス症、急性腎障害、心機能障害・心筋炎、横紋筋融解症などの合併症を起こし、10~30%が死亡します。
また、回復したあとに倦怠感、脱毛、不眠、抑うつなどの罹患後症状が、数か月間続くことがあります。
SFTSを疑う患者が受診したら?
先ほども述べた通り、SFTSの初期症状は非特異的なので、医療現場ではSFTSを疑う前にウイルスを含む血液・体液曝露が起こる可能性があります。
これを防ぐには、医療従事者は普段から標準予防策を確実に実施する習慣を身につけておくことが非常に重要です。
例えば、血液・体液に触れる可能性があるときは、事前に手袋を着用します。血液・体液が飛散する可能性があれば、マスクと目の防護具を使って、顔の粘膜汚染を防ぎ、手袋とガウンを着用します。
また、針刺しを防ぐために、採血や抹消ルートの確保は安全装置付きの製品を製造元が定める手順で使用します。個人防護具はベッドサイドを離れる前に取り外し、すぐに手指衛生を実施します。
症状や血液検査、マダニや感染動物への曝露歴などからSFTSを疑ったら、患者は個室に隔離し、対応する職員は標準予防策に、接触感染予防策と飛沫感染予防策を追加して実施します。
さらに管轄の保健所に連絡を行い、確定診断のための検査の必要性やその他の対応について相談します。
高齢者や合併症が見られる患者は、一般的に入院して治療を行います。
患者対応中に血液・体液曝露が起きたら、直ちに感染対策部門や健康管理部門に報告し、曝露から14日間は体温を測定します。
発熱が見られたらSFTS疑い例として対応します。治療の必要性は個別に判断します。
表重症SFTS患者に対して行う飛沫および接触感染予防策
入室時の個人防護具 | ・サージカルマスク(エアロゾル産生手技の際はN95マスク) ・眼の防護具 ・ガウン(ガウンの上からプラスチックエプロンの着用) ・手袋(二重) |
手指衛生 | アルコール手指消毒または石鹸と流水による手洗い |
病室 | 個室(陰圧換気は不要) |
隔離期間 | 発症から14日間 |
日常生活における予防策
日常生活では、マダニに刺されないようにすることが予防策の中心になります。
具体的には、マダニがいるような場所(草むらや藪)に入るときには、長袖、長ズボン、靴下、靴、タオルや帽子で全身を覆って、皮膚が露出しないようにします。
マダニを見つけやすいように、明るい色の服を選ぶとよいでしょう。DEET(ディート)やイカリジンを含む虫除け剤を服の上から使うことも勧められます。
帰宅後は、服を脱いで、マダニに刺されていないか確認します。首、耳、わきの下、足の付け根、手首や膝の裏を特に念入りにチェックします。
もしマダニに刺されていたら、無理に引き抜かず、病院で取ってもらうのがベストです。
その後数週間は体調に気を付けて、発熱などの症状が現れたら受診します。その際、マダニに刺されたことを忘れずに伝えます。
外でイヌやネコを飼っている場合、ダニ駆除剤の必要性を獣医師に相談し、家に入れるときにマダニがついていないか確認します。
室内飼あるいは健康なイヌ・ネコからの感染の報告はこれまでありません。
もし外に出ることがあるイヌ・ネコが体調不良となった場合は獣医を受診し、SFTSが疑われる場合は、飼い主も数週間は体調の変化に注意します。
もっと知りたい方へ
日本はSFTSの流行国だけに、情報が充実しています。
厚生労働省のホームページ(重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A)には一般市民と医療関係者向けの解説がありますので、ぜひ一度のぞいてみてください。
厚生労働省「ダニ媒介感染症」啓発ポスター
この著者の前の記事
参考文献
- NHK. 茨城県内の住宅で飼育のネコ マダニ媒介ウイルス感染症確認.
- NHK. ネコ治療した獣医師死亡 マダニが媒介する感染症の疑い 三重.
- 加藤康幸(代表者). 重症熱性血小板減少症候群 診療の手引き 2024年版. 令和6年度厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業「一類感染症等の患者発生時に備えた臨床対応及び行政との連携体制の構築のための研究」. 2024年8月2日発行. 国際医療福祉大学.
- 厚生労働省. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A (第7版 令和6年8月2日作成).
- 国立健康危機管理研究機構. 感染症発生動向調査で届出られたSFTS症例の概要(2025年4月30日更新).
- 国立健康危機管理研究機構. 本邦で初めて確認された重症熱性血小板減少症候群のヒト-ヒト感染症例.
- Kim WY, Choi W, Park SW, Wang EB, Lee WJ, Jee Y, Lim KS, Lee HJ, Kim SM, Lee SO, Choi SH, Kim YS, Woo JH, Kim SH. Nosocomial transmission of severe fever with thrombocytopenia syndrome in Korea. Clin Infect Dis. 2015 Jun 1;60(11):1681-3.
- Xu Q, Nabeshima T, Hamada K, Sugimoto T, Tun M, Morita K, et al. Transmission of Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome Virus to Human from Nonindigenous Tick Host, Japan. Emerg Infect Dis. 2024;30(11):2419-2423. https://doi.org/10.3201/eid3011.240912
- Casel MA, Park SJ, Choi YK. Severe fever with thrombocytopenia syndrome virus: emerging novel phlebovirus and their control strategy. Exp Mol Med. 2021 May;53(5):713-722.

板橋中央総合病院 院長補佐/感染対策相談支援事務所 所長坂本 史衣
聖路加看護大学(現:聖路加国際大学)卒業. 米国コロンビア大学公衆衛生大学院修了. 2003年より感染制御および疫学資格認定機構(CBIC)による認定資格(CIC)の認定資格を維持. 聖路加国際病院において医療関連感染予防・制御に約20年従事し、2023年11月より現職. 日本環境感染学会理事、厚生科学審議会感染症部会委員などを歴任. 主書に「感染対策60のQ&A」「感染対策40の鉄則」(いずれも医学書院)、「泣く子も黙る感染対策」(中外医学社)、「感染予防のためのサーベイランスQ&A」(日本看護協会出版会)、「基礎から学ぶ医療関連感染対策」(南江堂)など.(プロフィルイラスト:なんちゃってなーす)
編集:北井寛人(看護roo!編集部)
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