シスター・カリスタ・ロイの看護理論:適応モデル

『新訂版 実践に生かす看護理論19 第2版』(サイオ出版)より転載。
今回はロイの看護理論である「適応モデル」について解説します。

 

樋口京子
四条畷学園大学看護学部 教授

 

 

Point
  • ロイの看護理論では、人間を「全体的適応システム」としてとらえる。
  • ロイは、適応を「生存、成長、生殖、円熟、自己実現をはじめとする、個人の一般的目標を促進する環境への反応」と定義している。
  • 人間は、環境からの刺激に対して適応を維持するために、調節器と認知器からなる複雑な対処プロセスを働かせる。
  • 刺激には、焦点刺激、関連刺激、残存刺激がある。
  • 対処プロセスは、4つの適応様式(生理的様式、自己概念様式、役割機能様式、相互依存様式)を通じて表現される行動を観察することによって把握することができる。
  • 看護の目標は、「適応を促進し、生命・生活過程を整え、人間の健康、生命、生活の質、尊厳ある死に貢献すること」である。
  • 看護の目標を達成するために、看護理論のなかに看護過程を明確に包めている。
  • ロイの看護過程は、行動のアセスメント、刺激のアセスメント、看護診断、目標の設定、介入、評価の6段階からなる。

 

 

ロイの看護理論

ロイの適応モデルで中心になる概念は、「人間」と「看護」である。人間を「全体的適応システム」としてとらえ、看護の目標を「適応を促進し、生命・生活過程を整え、人間の健康、生命・生活の質、尊厳ある死に貢献すること」(1999)としている。

 

したがって、ロイの適応モデルを理解するためのキーワードは、「適応」と、システムとしての人間がもつ「全体性(holistic)」と複雑な「対処プロセス(coping process)」であると考える。

 

 

また、ロイの看護理論の特徴は、その方法論である看護過程を看護理論のなかに明確に含めている点にある。

 

ロイの看護理論の科学的前提として、「適応レベル理論」と「システム理論」があげられる。

 

一方、哲学的前提には「ヒューマニズム」と「ヴェリティヴィティ(真実性:veritivityはロイの造語)」がある。

 

当初、ロイの理論は個人を対象にした看護モデルとして開発されたが、最近では集団の視点を取り入れて展開されている。

 

ここでは、個人のレベルにとどめて述べる。

 

 

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適応

適応に関しては、小児科での看護師として、小児がもつ適応力や回復力を実際にみていたロイ自身の臨床経験によるところが大きい。

 

ハリー・ヘルソン(H.Helson)の適応レベル理論では、適応を「環境の変化に肯定的に反応する過程」と定義している。

 

ロイは、それを「生存、成長、生殖、円熟、自己実現をはじめとする個人の一般的目標を促進する環境への反応」と発展させている。

 

ロイは人間をその人独自の思考や感情に基づいて、環境の変化に効果的に適応するだけでなく、また逆に環境に対して影響を与える存在としてもとらえている。

 

つまり、健康と病気がもたらしたさまざまな状況に対して、ある面ではその状況を受け入れ、ある面では取り巻く状況に積極的に働きかけ、目的をもって自ら変化をつくり出し適応する能力を、人間は潜在的にもっていると考えているのである。

 

 

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複雑な「対処プロセス」をもつシステムとしての人間

人間は、一般システム論でいわれている「入力(input)」と「出力(output)、「制御(control)」とフィードバックの過程をもつ(図1)。

 

図1適応システムとしての人間の略図

適応システムとしての人間の略図。人間システムは生理的、自己概念、対処プロセス、相互依存、役割機能からなり、それを適応が囲っている。与えられる刺激はこのシステムを通して行動に変わる

出典:シスター・カリスタ・ロイ、松木光子監訳:ザ・ロイ適応看護モデル、医学書院、2002より改変

 

 

1入力

人間は、変化する環境と絶えず相互に作用し合う、開かれたシステムである。入力は、内的外的刺激と適応レベルによってもたらされる。

 

まず、刺激には3つの種類がある。

  • 焦点刺激:最も直接的に直面する内的・外的刺激
  • 関連刺激:焦点刺激以外の行動に影響を及ぼすすべての刺激である
  • 残存刺激:人間の内部または外部にある環境要因で、現在の状況ではその影響が不明確なもの

 

適応レベルとは、ある状況に対してその人が肯定的、適応的に応答できる範囲(ゾーン)をいう。

 

同じ刺激を受けても、その人の適応レベルによって対処できる能力が異なるため、一人ひとりが異なる行動をとる。

 

適応レベルは、それまでの経験に左右され、希望や夢、達成への動機づけによってこれからも変化し続ける。その関連を見極めることが重要である。

 

 

2対処プロセス

人間は、入力された刺激に対し、2種類の複雑な対処プロセス(coping process)を働かせてコントロールする。

 

このコントロール過程は、システム機能の中心になるものである。

 

対処プロセスは、変化する環境と相互作用し、生命・生活過程の統合を維持するために働く先天的・後天的方法である。

 

それは、調節器サブシステムと認知器サブシステムの2つに分けられる。

 

  • 調節器サブシステム:刺激が感覚器をとおして入力され、神経・化学・内分泌系の経路を通じて、自動的・無意識的に反応する対処プロセスであり、先天的な相互作用である。
  • 認知器サブシステム:認知・情報処理、学習、判断、情動という4つの経路をとおして、意識的、無意識的に反応する対処プロセスである。これまでの学習や経験によって後天的に獲得された相互作用である。

 

大学生の花子さん(19歳)が風邪を引いた場合の2つの対処プロセスに生じていることを定義に基づいて展開してみる。

 

風邪のウイルスの入力によって、調節器サブシステムと認知器サブシステムでは、次のような活動が始まる。認知器サブシステムの働きは、図2のようになる。

 

図2風邪による認知器サブシステムの活動

風邪による認知器サブシステムの活動をイラスト付きで表した図版

 

調節器サブシステム:

  • 免疫能が作動し、白血球が増える。発熱メカニズムが作動する
     

認知器サブシステム:

  • 認知:のどが痛い、熱っぽい
  • 判断:風邪かな?練習が忙しくて抵抗力が弱っていたせい?
  • 情動:明後日、テニスのサークルの試合がある。仲間に迷惑をかけることになる。どうしよう?
  • 学習(過去の経験):おばあちゃんがよくつくってくれたネギとショウガたっぷりのスープでも飲むといいかも

 

このような身体の内部で行われている複雑な調節器と認知器の対処プロセスを、外部から直接観察することはできない。

 

しかし、ロイは複雑な対処プロセスであるこれらの活動を観察するアセスメントの枠組みとして、具体的に使えるツールを開発した。

 

臨床で帰納的な研究方法を用いて患者の反応を分析し、4つの適応様式(生理的、自己概念、役割機能、相互依存)を導き出したのである。

 

4つの適応様式は、簡単に説明すると次のようになる。

 

  1. 1生理的様式:身体的に生じた変化・反応。9つの構成要素をもつ。
  2. 2自己概念様式:精神的な不安や自己の身体や性格、自分らしさなどのイメージや自己期待、価値観の変化・反応である。
  3. 3役割機能様式:家族内や社会での役割の変更、経済状況の変化・反応である。
  4. 4相互依存様式:人間関係を及ぼす変化・反応である。

 

ロイは、これらの適応様式を通じて表現される行動を観察することによって、適応の目標に向かって活動する対処プロセスを把握できると考えた。

 

この様式にしたがって、先ほどの花子さんの事例で風邪によってひき起こされた状況を示すと、図3のようになる。

 

図3相互に関連する4つの適応様式

相互に関連する4つの適応様式。「生理的様式」「自己概念様式」「役割機能様式・相互依存様式」の関連を風邪の例を元に表している

 

3出力

対処プロセスの結果として、人はさまざまな反応や行動を出力する。

 

行動には、適応反応(適応の目標を促す反応)と非効果的反応(適応の目標に役立たない反応)がある。

 

行動は、問題やニーズ、障害につながる反応だけでなく、その人の能力や長所、知識、技能、意欲や思い入れなどを含む幅広いものである。

 

 

4フィードバック

これらの反応の一部は、フィードバックとして、刺激として作用する。

 

適応できるように、入力から出力のプロセスを繰り返している。

 

 

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「全体性」をもつ存在としての人間

一般システム理論において、システムとは、ある目的のために1つの全体(whole)として機能するよう、各部分が相互に作用し、関連づけられたまとまりになったものをいう。

 

システムとしての人間は、相互に依存し合う各部分が、ある目的のために統合に向かってコントロールされ、全体として機能する。

 

そのため、1つの部分に起こった現象は、ほかに影響を及ぼし、相互に関係し、重なり合って、全体としての人間に複雑な現象をひき起こす。

 

そのことが、今までの“その人のあり様”や“その人らしさ”を維持することに影響を及ぼすのである。

 

また、この「全体性(holistic)」をもつ存在として人間をとらえる考えは、哲学的仮説にも基づいている。

 

単にまとまりをもって機能するだけでなく、目的に向かって創造的に行動し、全体としての統合性を維持しながら人間関係のニーズを実現するために努力する存在である。

 

ロイの理論を理解するには、4つの様式の一つひとつを注意深くみるだけでなく、相互の関連性や部分の総和状態である「システムとしての全体」に焦点をあてることが必要である。

 

現在把握している4つの様式による行動以外に、まだみえない(観察できない、本人も気づいていない、意識していない)部分をもっている複雑な存在として、人間を理解していくことが重要なのである(図4

 

図4「全体性」をもつ人間としてとらえるポイント

「全体制」をもつ人間としてとらえるポイント。

出典:シスター・カリスタ・ロイ、松木光子監訳:ザ・ロイ適応看護モデル、医学書院、2002より改変

 

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4つの適応様式

ロイは、私たち看護師が対象の「全体性」を意識してとらえていることを、観察可能なかたちで表現し、共有するにはどうすればよいか、その方法を4つの適応様式を用いることによって、具体的に示している。

 

アセスメントの枠組みである4つの適応様式と、それぞれの様式の関連性をどのようにとらえていくか、詳しくみていくことにする。

 

 

生理的様式

この適応様式は、環境からの刺激に対する人間の身体反応であり、生理的な活動を示す。生理的様式は、5つの基本的なニードと4つの複合的過程を合わせた9つの構成要素からなる(表1)。

 

表1生理的様式

生理的様式を表した表。基本的ニードと複合的過程があり、さらに9つの分類がある

 

5つの基本的ニードは、①酸素化、②栄養、③排泄、④活動と休息、⑤防衛である。

 

さらに、4つの複合的過程とは、⑥感覚、⑦水・電解質・酸塩基平衡、⑧神経機能、⑨内分泌機能である。

 

4つの複合的過程は、互いに複雑に関連しながら、各器官の活動を調節したり、身体機能を統合して協働させたりする機能をもつ。

 

複合過程の機能に障害をもつ糖尿病や脳血管障害、腎不全更年期障害などでは、ほかの構成要素への影響も関連させて、アセスメントする必要がある。

 

 

自己概念様式

自己概念とは、「ある時点において個人が自分自身について抱いている感情や信念の合わさったもの」である。

 

自分自身の内面の知覚だが、他者の反応に基づく経験が、その人の自己概念の形成に強い影響を及ぼす。また、その人の行動を方向づけるものである。

 

自己概念様式は、身体的自己と人格的(個人的)自己という、2つの構成要素からなる(表2)。

 

表2自己概念様式

自己概念様式を解説した表。身体的自己と人格的自己(個人的自己)の2つがある

 

ロイは、身体的な自己についてアセスメントすることは、適応を促進するうえで最も重要だとしている。

 

なぜなら、健康が障害されることで、それまで当たり前と思っていたことができなくなった状況に置かれた自分をどのようにとらえているかという問題は、患者の治癒力や健康を維持増進していく能力にも影響を及ぼし、阻害することがあるからである。

 

この身体的な自己についてのイメージの変化は、自分自身の人生の意味や価値などに対する見方である人格的自己を変化させることにもなる。

 

人は統合感(sense of unity)をもち、自分らしさを失わず、「こうありたい」と描く自分であり続けたいと願う。

 

人格的自己への影響をアセスメントし、できるだけそれまでの自己のイメージに近づけて心理的安定が得られるようにサポートすることが重要になる。

 

 

役割機能様式

役割機能で焦点になるのは、個人が社会のなかでとる役割である。特定の役割や立場をもつ人は、自分の役割は何であるかを知り、社会的に期待される行動をとることが必要である。

 

役割機能は、発達段階によって異なり、影響を受ける。ロイは、役割を次の3つに分類している(表3)。

 

表3役割の分類

役割の分類を解説した表。1次的役割、2次的役割、3次的役割がある

 

また、それぞれの役割をどのように果たしているかを示す「道具的行動」と、どのようにその役割を受け止めているかを示す「表出的行動」の両面からとらえていくことで、適応状況をアセスメントできる。

 

病気や健康を増進する必要性が生じたとき、これらの役割遂行にどのような影響を及ぼすのか、家庭内・社会での役割や経済状況の変化をとらえることによって逆に役割をもっていることが回復への何らかの動機づけとはならないかをアセスメントすることが重要になる。

 

とくに役割移行が必要な場合は、こうありたい自分のイメージと相容れないことも多い。そのため、自己概念との関連を常にみていく必要がある。

 

また、健康─疾病役割については、道具的行動と表出的行動およびそれらに相違がないかについてアセスメントする必要がある。

 

 

相互依存様式

相互依存様式で焦点になるのは、他者との深い密接な関係である。

 

その相互依存関係は、愛情や尊敬、価値、療育、知識、技能、時間などを他者に与えたり、受けたりという相互作用である。

 

  1. 1やり取りをする相手として、重要他者とサポートシステムを特定する。重要他者は、その人にとって最も重要な人で、サポートシステムは、愛情などの相互依存のニードを充足させるために、その人のかかわりをもつ個人・集団・組織である。これらの関係には、医療従事者との関係も含まれる。
     
  2. 2それぞれの関係における愛や尊敬、価値を受ける行動(受容的行動)と与える行動(寄与的行動)をアセスメントする。
     
  3. 3受容的行動と寄与的行動のバランスが、病気や健康を増進する必要性が生じたことによって、どのように変化しているか、それをどうとらえているかなどをアセスメントする(図5)。

 

図5相互依存様式の変化に関するアセスメント

相互依存様式の変換に関するアセスメントについて、人間関係の例のイラストを含めてわかりやすく図版化した

 

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ロイの看護理論から得るもの

いまここでの反応と、過去の経験と未来への希望をつなぐその人固有の反応を見逃さない目が養われる

ロイの看護理論は、「どのような境遇に置かれても、人間はそれに適応できる潜在的な能力をもつ」という、人間に対する深い信頼を基本に、適応を促進するために反応を見逃さず観察する視点を与えてくれる。

 

それは、刺激に対するその人固有の反応を、次の3点から潜在能力を含めてアセスメントする独自の視点である。

 

  1. 1(いまここで)どのように反応しているか。
  2. 2(過去にさかのぼって)適応していくことに役立つ経験は何か。
  3. 3(未来に向かって)どのような希望や達成動機が適応へ向けていく力を引き出すことになるのか。

 

看護理論を実践に反映させる方法が明確である

ロイの看護理論の大きな特徴は、看護理論と看護過程が直結している点にある。

 

過去・現在・未来をつなぐその人固有の反応を生かし、適応を促進できるように、目標を共有して刺激をマネジメントし、対処能力を高められるようにアプローチしていく方法が、看護過程に明確に示されている。

 

看護理論と実践のつながりや、看護理論を実践に反映させることについての示唆がちりばめられている。

 

 

3つの刺激をとらえることは予測した看護につながる

ロイは、刺激を3つに階層化してとらえる。このことは、私たちの苦手意識を増幅させる。

 

しかし、臨床では事態がめまぐるしく変わり、1つの原因だけを特定した看護計画では対応しきれないことが多い。

 

原因が複雑に絡み合っているなかで、主な原因である焦点刺激、誘因になる関連刺激、今後予測される原因になるかもしれない残存刺激を含めて考えることは、あらゆる可能性に対応できる予測した看護を実践する準備になる。

 

万華鏡に例えられることがある。変化に合わせて像を結ぶ万華鏡のように、関連刺激が焦点刺激になっても、焦点を次々に変えて適応促進のサポートができるように3刺激を3つの階層でとらえることは、予測した看護を展開するうえで重要である。

 

 

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看護理論のメタパラダイム(4つの概念)

1人間

変化する環境と絶えず相互に作用し合い、効果的に適応する能力をもち、成長・発達する存在である。

 

人間は、1つの開かれた全体的適応システムである。複雑な認知器・調節器サブシステムをもち、その活動は4つの適応様式(生理的、自己概念、役割機能、相互依存)を通じて表現される。

 

 

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2環境

人間の内部からの刺激、および人間の外部からの刺激が重要な環境の要素である。

 

人間の発達や行動に、影響を及ぼすあらゆる条件・状況が、影響要因となる。

 

 

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3健康

健康とは、環境と相互に作用し合い、統合体として、全体としてのまとまりをもった人間としての状態、またはそうなろうとするプロセス(生成過程)である。

 

自分の可能性を最大限に生かし、その人個人の目標を達成している状態である。

 

 

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4看護

看護とは、4つの適応様式における適応を促進し、生命・生活過程を整え、人間の健康、生命・生活の質、尊厳ある死に貢献することである。

 

行動や適応レベルに影響を及ぼす要因のアセスメントを行い、刺激をマネジメントし、対処能力や環境との相互作用を高めるように介入する。

 

 

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看護理論に基づく事例展開

ロイの看護過程

ロイの看護理論は、その方法論である看護過程を明確に包めている点を特徴としている。

 

適応システムとして人間をとらえること、適応を促進するために必要な看護とは何かを明確にしながら、適応を鍵にして看護過程が展開されている。

 

アセスメントは、行動と刺激の2段階で行い、適応状態を診断し、目標設定、介入、評価のプロセスをたどる。

 

 

1第1段階:行動のアセスメント

健康状態の変化に対する適応状況を示す行動に焦点をあて、アセスメントの枠組みである4つの適応様式に沿ってデータを収集する。

 

健康問題を示す情報だけではなく、どのように反応しているか、過去に対処能力に関してどのような経験をもっているか、未来に向かってどのような希望や達成動機が適応を促すことに貢献するか、についても焦点をあてる。

 

それらの情報をもとに、その人の行動が適応行動か非効果的行動かを、一次的なかたちで仮に判断する。

 

 

2第2段階:刺激のアセスメント

第1段階で明らかになった非効果的行動に影響を与えている内的・外的刺激を特定する。

 

それらを焦点刺激、関連刺激、残存刺激に分類する。焦点刺激は、一般的にいわれる原因で、関連刺激は誘因、残存刺激はまだ確認できていないものである。

 

健康を維持・増進するために必要な刺激もアセスメントする。

 

 

3第3段階:看護診断

適応状態に関する判断の記述である。

 

第1段階のアセスメントで評価した行動と、第2段階で特定した行動に影響を及ぼす焦点刺激・関連刺激とを関連させ、一定の形式で記述する。

 

 

4第4段階:目標の設定

適応を促進する看護ケアを行うことによって期待される成果を、行動レベルで明確に記述したものである。

 

目標を達成するまでの時間枠、観察や測定、主観的な言動など、確認可能な変化を含めて記述する。

 

 

5第5段階:介入(ケアの選択と実施)

刺激を変化させたり、刺激に対処する能力を高めたりすることによって、適応を促進するために選択した看護ケアを実施する。

 

具体的には、焦点刺激、関連刺激をマネジメントする。

 

マネジメントには、変化させる、強化する、減少させる、除去する、維持する、などが含まれる。

 

 

6第6段階:評価

計画して実践した看護ケアに対し、クライエントがどのように反応したか、クライエントの行動がどう変化したかを観察し、第4段階で設定した目標が達成されたかどうかを判断し、ケアの有効性を評価する。

 

 

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2型糖尿病で気力の落ちている男性の事例

 

事例

Aさん、60歳、男性。妻と息子(28歳)の三人暮らし。元市会議員。娘は結婚して車で20分のところに住んでいる。15年前から2型糖尿病である。

 

心筋梗塞で緊急入院した。入院は8回目である。心臓リハビリテーションが開始されたがクリアできず、室内とトイレのみ移動可能の行動制限が2週間続いている。糖尿病と心不全による食事制限(18単位、減塩7g)と、水分制限(700mL)がなされている。食欲不振も続いている。

 

病気に対して、「糖尿病や心不全はすべて完治しない病気だ。治るものならそれに向かって頑張るが、治らないものには何を目的としてよいのかわからない」「今回がいちばん落ち込んでいる。気力がなくなり、誰とも話をしたくない」と話している。

妻からみたAさんは、「弱みをみせることができない性格」だという。

 

1アセスメント

 

 

2看護診断

行動のアセスメントであげた自己概念様式の「治らないものには何を目的としてよいのかわからない」「気力がなくなり、誰とも話したくない」など非効果的行動がみられる。

 

適応問題を「疾病の予後に関連した無力」とした。

 

 

3目標の設定・実施

 

  1. 1自分が置かれている状況に対する感情をありのまま言える。
  2. 2車いすによる散歩を行い、気分転換ができるようにする。
  3. 3食事に対して自分でコントロールできるという気持ちがもてるように、栄養士と相談して制限範囲内で好きなものを組み合わせたメニューを工夫する。
  4. 4重要他者である妻の協力を得る。
  5. 5自分自身の目標を言語化できる。

 

 

4評価

自分自身が参加して食事メニューを考えたこと、嗜好を生かした食事でおいしいと満足して食事ができたことから、「医療者から指示されるだけでなく、自分自身で決定して取り組むことができてうれしい」という反応がみられた。

 

重要他者である妻から、「私に感情を吐き出し、整理する機会にはなったようです」という反応があった。

 

これらの反応から、医療者との相互依存関係も無力に影響を与えていたことがわかった。

 

 

ロイについて(詳しく見る) ロイについて

シスター・カリスタ・ロイ(Sister Callista Roy)は、1939年にアメリカのロサンゼルスに生まれた。

 

現在は、東部にあるボストン・カレッジ看護学部の大学院の教授(1987〜)で、カトリックの聖ヨセフ・カロンデレのシスター(修道女)でもある。

 

 

若い頃からの看護の定義や理論開発に対する熱意

ロイは、1963年にロサンゼルスにあるマウント・セント・メリーズ(Mt.St Mary’s)大学で、看護学士号を取得し、小児看護領域で臨床看護を経験した。

 

また、1966年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で看護学修士号を取得し、1982年まで母校の教員をしている。

 

20歳代前半から「看護とは何か」を追及することに情熱を傾け、31歳のとき(1970年)に雑誌『Nursing Outlook』でロイ適応モデルを発表した。

 

ロイは、理論開発にいちばんの影響を受けた人物として、大学院の時期に出会ったドロシー・E.ジョンソン(Dorothy E.Johnson)をあげている。

 

ジョンソンからは、システム論の考え方だけでなく、「『看護とは何か』という看護の定義を示す点に、もっとエネルギーを集中すべきである」と教えられた。

 

このことが20歳代前半から理論開発に取り組む熱意になった。

 

その後50年にわたって、臨床での実践や教育、研究に理論を適応し、それらの結果をもとに現在もモデルを開発し続けている。

 

 

心理学・生物学・社会学・哲学の看護への適応

ロイは、看護学博士号を取得するだけでなく、理論開発後の1973年に社会学修士、1977年に社会学博士をUCLAから取得し、1983年には神経科学の研究員になるなど、社会科学、人文科学、自然科学の幅広い分野で学問の理論的背景を学んでいる。

 

これらの領域の専門的な理論や概念は、ロイの適応様式を説明する基盤になった。

 

複雑な人間の反応をあらゆる角度から理解できるように、これらの領域で開発されてきた既存の知識を看護に適用し、発展させる努力を惜しまなかった。

 

 

精力的な著作・教育・研究活動

ロイは、著作活動も看護の本質を伝えて進展させる重要な要素であるという信念をもち、大学院終了後も、毎年少なくとも1冊は執筆している。

 

一方で、彼女は臨床での看護活動も継続している。理論を実践に根差した形で普及させ、実践を理論に反映させる努力も惜しまなかった。

 

加えて、NANDA(北米看護診断協会)の看護理論家グループの委員長を10年間務めた。現在はボストンで、モデルに基づいた看護実践の促進、ネットワークづくり、ワークショップの開催などに尽力している。

 

 

人間に対する暖かい眼差し

ロイは、シスターである。彼女のもつキリスト教的価値観が、人間や健康の見方に影響を与えている。

 

人間がもつ潜在的な能力に寄せる、暖かい眼差しを感じることができる。

 

さらに、1999年に出版された『The Roy Adaptation Model(2nd ed.)』(『ザ・ロイ適応看護モデル』)の前書きで、執筆の間に脳腫瘍による2回目の開頭手術を受けたことを記している。

 

ロイ自身の長年の闘病生活における「Sick role」が、モデルに与えた影響は計り知れない。

 

 

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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 実践に生かす看護理論19 第2版』 編著/城ヶ端初子/2018年11月刊行/ サイオ出版

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