胸水の解説

 

この【実践編】では、呼吸器内科専門医の筆者が、疾患の解説と、聴診音をもとに聴診のポイントを解説していきます。
ここで紹介する聴診音は、筆者が臨床現場で録音したものです。眼と耳で理解できる解説になっているので、必見・必聴です!
より深い知識を習得したい方は、本文内の「目指せ! エキスパートナース」まで読み込んで下さい。
初学者の方は、聴診の基本を解説した【基礎編】からスタートすると良いでしょう。

 

今回は、肺に水が溜まる「胸水」について解説します。

 

皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授)

 

胸水は肺に水が溜まった状態ですが、その原因はさまざまな疾患が関係しているんです。

 

(そういえば、教科書に載ってたのは・・・)
胸水の一番多い原因って、肺炎じゃなかったですか?

 

その通り! ちゃんと勉強してますね。
臨床現場でも胸水の患者さんにはよく出会うと思います。

 

そういえば、昨日、入院した結核性胸膜炎の患者さんも「胸水が溜まっている」って聞きました!

 

少量の胸水なら問題ないんですが、もし急速に胸水が増えた場合は、とても危険な状態なので注意してください。
日頃から、患者さんのバイタルサインのチェックを忘れないでくださいね。

 

〈目次〉

 

胸水の基礎知識

肺には、胸膜とよばれる肺を覆う薄い膜があります。胸水とは、この胸膜の間に液体が溜まった状態のことを言います。呼吸時に胸水があると、肺が正常に膨らむことができなくなります。

 

患者さんに胸水がみられた場合は、胸水が肺の片側にあるのか、両側にあるのかを分けて考えることが大切です(図1)。

 

図1片側性と両側性胸水の原因疾患

 

片側性と両側性胸水の原因疾患

 

片側性胸水の場合は、悪性胸水や結核性胸膜炎、肺炎随伴性胸水/膿胸などが、頻度が高い原因疾患になります。
両側性胸水の場合は、左心不全、低タンパク血症などが、頻度が高い原因疾患です。

 

胸水が片側性の場合は、胸膜炎の代表疾患である悪性胸水結核性胸膜炎肺炎随伴性胸水/膿胸などが、鑑別に挙げられます。また、両側性の胸水の場合は、左心不全低タンパク血症などの炎症を伴う両側性胸水が考えられます。

 

胸水の原因と病態生理

胸水は、図1のように、数種類に分類されますが、滲出性(しんしゅつせい)の胸水が起こる原因としては、肺炎が多くを占めています。

 

肺炎の原因は、約40%が細菌性肺炎によるもので、そのなかでも肺炎球菌肺炎によるものは60%にも及びます。肺炎球菌は、肺炎を引き起こす王様で、最も注意すべき原因菌の一つです。

 

胸水は胸膜腔に溜まる

ヒトの肺の周りには胸膜がありますが、この胸膜は2重の漿膜でできています。一つは、肺実質の表面を覆う臓側胸膜で、もう一つは胸郭の内面を覆う壁側胸膜です(図2)。

 

図2臓側胸膜と壁側胸膜の位置関係

 

臓側胸膜と壁側胸膜の位置関係

 

胸水は、臓側胸膜と壁側胸膜の間に溜まります。

 

臓側胸膜と壁側胸膜の間の空間は、胸膜腔と呼ばれており、胸水の貯留が生じるのはこの場所です。

 

なお、正常なヒトでも、胸膜腔には少量の胸水(約10mL~20mL)が存在します。

 

胸水の症状

急激に胸水が貯留した患者さんは要注意

悪性胸水の患者さんの場合、数日で、急速な胸水の増加を伴うことがあります。この状態は非常に危険なため、患者さんの呼吸数や酸素飽和度の低下を含めたバイタルサインに注意しましょう。

 

また、同じ胸水量でも、緩徐な貯留の場合と、急激な貯留の場合では、患者さんが感じる“息苦しさ”は異なることがあります。この理由の一つは、急激な胸水の貯留は、胸水貯留に伴う肺の虚脱によって、換気の効率が急減に低下する(換気血流のミスマッチ)ためと考えられます。

 

memo胸水が貯留している患者さんは体位を確認しよう

患者さんに胸水が貯留している場合は、体位を確認しましょう。

 

健側肺が下になる体勢をとると、健側の血流が増加して換気の効率が上昇するため、酸素飽和度が上がります。つまり、楽な姿勢になるということです。そのため、例えば、右側に大量の胸水がある患者さん(図3)は、左側臥位になっていることが多いです。

 

体位を確認すると、どちらの肺に胸水が貯留しているかが、わかることがあります。

 

図3右肺に大量の胸水がある患者さんのX線像

 

右肺に大量の胸水がある患者さんのX線像

 

右肺に大量の胸水があり、X線像が真っ白になっています(黄色ライン)。

 

胸水の治療

肺炎随伴性胸水の炎症が高度になると、胸腔ドレナージを行わなければ炎症のコントロールができなくなります

 

一般的にドレナージが必要となる膿胸は、①胸水が明らかに膿、②菌がグラム染色や培養で陽性、③胸水中の糖が40mg/dL未満pHが7.0未満(胸水中の酸性が強い)などの場合です。

 

主治医の先生が、「患者さんに胸腔ドレーンを入れる」と言った際には、どうしてその処置が必要なのか、医師に状況を確認してみましょう。

 

聴診時に気をつけるポイント

基本的に、胸水の患者さんは、背部の下肺野を中心に聴取しましょう(図4)。これは、この場所に胸水が溜まるためです。

 

図4胸水の患者さんに行うべき聴診の位置

 

胸水の患者さんに行うべき聴診の位置

 

背部の下肺野を中心に聴きましょう。

 

ナースへのワンポイントアドバイス

肺の片側だけに大量の胸水が貯留した場合、医師は、同部位に病変を伴う悪性胸水(癌性胸膜炎など)や、結核性胸膜炎、肺炎随伴性胸水/膿胸を最も疑います。

 

逆に、肺の両側に胸水が貯留していれば、左心不全や低アルブミン血症などの可能性を考えています。

 

目指せ! エキスパートナース ①世界中で使用されているLightの基準

医師は、胸水の患者さんを分類する際、「Lightの基準」(表1)という指標を用いて鑑別診断を行っています(1)。

 

表1Lightの基準

胸水蛋白/血清蛋白>0.5
胸水LDH/血清LDH>0.6
胸水LDH>血清LDH正常上限値の2/3

上記のうち一つでも満たせば浸出性胸水となります。

 

なお、このLightの基準は世界中で使用されていますが、この基準ができあがるまでの過程をまとめたエッセイ『The story behind Light's criteria』(2)も刊行されています。

 

目指せ! エキスパートナース ②胸水が聴こえる位置と呼吸音の増強・減弱の関係性

胸水は、側胸部では肺と胸壁の間に沿って、どんどん溜まっていきます。そのため、溜まった胸水の位置は、中腋窩線上で最も高い位置となります。この胸水が溜まった水位のラインを「Ellis-Damoiseauの曲線」と呼びます(図5)。

 

図5胸水の境界ラインであるEllis-Damoiseauの曲線(右肺の場合)

 

胸水の境界ラインであるEllis-Damoiseauの曲線

 

側胸部で胸水の水位が上がっているのがわかります。
この境界線をEllis-Damoiseauの曲線と呼び、ここより下には胸水が溜まっています。

 

胸水は、このEllis-Damoiseauの曲線より下の位置にあるため、この場所で聴診を行うと、呼吸音が減弱して聴こえます。しかし、この曲線の直上には「Scodaの鼓音帯」という、胸水で肺が圧迫されて膨らまない部分(圧縮肺)があります。ここは、聴診音が増強して聴こえたり、ヤギ音が聴こえることがあります。

 

*ヤギ音:呼吸音の伝導がよくなる結果、「イー」という声が、「エー」という音として聴こえる現象。

 

Check Point

  • 急激に胸水が溜まった患者さんは低酸素血症を認めることがあるので、バイタルサインに注意しましょう。
  • 胸水の患者さんを聴診する場合は、背部の下肺野を中心にしっかりと聴こう。

 

次回は、実際の胸水の患者さんの聴診音を聴いて、特徴をしっかりと覚えましょう。

 

[次回]

胸水患者さんの聴診音

 

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  • ⇒『聴診スキル講座』の【総目次】を見る

 


 


[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授

 

[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授

 


Illustration:田中博志

 


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