平衡機能検査|耳鼻咽喉科の検査

『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、平衡機能検査について解説します。

 

高木 康
昭和大学医学部教授

 

〈目次〉

 

平衡機能検査とはどんな検査か

平衡神経とは生体の運動平衡をつかさどる神経系として、広い意味に用いられている。

 

その形態的観点から対象となるものは、前庭機能、深部知覚、視覚など平衡機能に直接関与する感覚器、次に感覚器からの情報伝達する神経路、情報処理が行われる中枢神経系、これに応じて全身の姿勢や運動の調節をつかさどる錐体路と錐体外路と、それらの効果器である全身の骨格筋、そして眼運動中枢と外眼筋である。

 

さらに、体性知覚と自律神経系も関与している。

 

平衡機能検査はこれらの神経系の異常、原因を見つけだす検査である。

 

平衡機能検査の目的

患者の訴える平衡障害、あるいは平衡障害が疑われる症例が、どのような原因で、身体のどの部位(、内、その他)の病気で起こっているのか、また現在の病気がどの程度の重症度かを調べるものである。

 

それらの得られた検査データにより、患者の訴える平衡症状の診断、治療方針を決める目的がある。

 

平衡機能検査の方法

1.下肢偏倚立ち直り検査

  • 平衡障害を訴える症例あるいは平衡障害が疑われる症例を対象とする。
  • 静的体平衡機能(直立姿勢維持機能)の障害を主として偏倚(へんい・かたよること)に対する立ち直り現象の面から評価し、体幹の平衡機能を検査する。

 

(1)両脚起立検査(ロンベルグ検査)(図1

  • 両脚をそろえ、両足先、両踵を接して直立させ、両手は体の側面に垂らして正面を向かせる。
  • はじめ開眼で行い、続いて閉眼で行う。各60秒ずつ(または30秒ずつ)観察する。
  • 開眼および閉眼時の身体に現れる動揺の有無、程度、および転倒傾向、ならびに開眼と閉眼での差などを観察する。

図1両脚起立検査

両脚起立検査

 

(2)マン検査

  • 両脚を一直線上に置き、一側の足先を他側の足の踵に接して起立させ、正面を向かせる。
  • はじめは開眼で行い、続いて閉眼で行う。各30秒ずつ観察する。
  • 前後に置く足を右左入れ替えて同様に検査する。
  • 開眼および閉眼時の身体に現れる動揺の有無、程度および転倒傾向、マン姿勢維持可能時間ならびに開眼と閉眼での差などを観察する。
  • 右足前と左足前との差が現れるかどうかを観察する。

 

(3)単脚起立検査

  • 単脚で起立し、他側の下肢をほぼ直角になるまで上げる。
  • はじめ開眼で行い、続いて閉眼で行う。各30秒ずつ観察する。
  • 開眼および閉眼時の身体に現れる動揺の有無、程度、および転倒傾向、挙上した脚の接床回数または単脚直立維持時間ならびに開眼と閉眼での差などを観察する。
  • 右脚直立と左脚直立との差が現れるかどうかを観察する。

 

(4)足踏み検査(図2

  • 被検者を床上に30°または45°ずつ分度した半径0.5mおよび1mの2つの同心円中心に両足をそろえて立たせる。
  • 遮眼にて、その場で足踏みさせる。足踏みの際、大腿が直角になるまで足を上げるようにする。歩数は50歩または100歩とする。
  • 検査は3回行うのが望ましい。また検査前には開眼にて軽く練習をさせる。
  • 足踏み中の被検者の態度(動揺、転倒、前方に伸ばした両上肢の上行、下行あるいは偏倚)を観察し、足踏みが終了したときの停止位置における身体の回転方向、回転角度、中心からの移行方向、移行角度、移行距離を測定する。

 

図2足踏み検査

足踏み検査

 

2.上肢偏倚検査

  • 平衡障害を訴える症例あるいは平衡機能障害が疑われる症例を対象とし、上肢、特に繊細な指関節運動における偏倚現象を検査する。

 

(1)遮眼書字検査

  • 被検者を体が触れないように机の前に座らせ、マジックペンなどで、ABCD、東西南北などの文字を用紙上に縦書きで書かせる(1つの文字の大きさが3〜5cm平方大で、20cm程度になるようにする)。
  • 最初、開眼で、次に閉眼または遮眼で行う。検者は用紙が動かないように用紙を押さえておく。
  • 開眼と閉(遮)眼の文字を比較し、一連の文字、各文字に現れる所見を検討する。また、一連の文字の偏書方向、偏書角度(一連の文字中、最初の文字と最後の文字の中央とを結ぶ線が真直ぐに書き下ろすべき線となす角度)を判定する。

 

(2)指示検査

  • 被検者を検者と対面して座らせ、被検者は両腕を伸ばし、示指(人差し指)が検者の指先を指さすようにさせる。
  • 次に、閉眼また遮眼にて、両腕を伸ばしたままに挙上する。挙上した腕はできるだけ後方にそらせるように行う。
  • さらに、閉眼または遮眼のままで両腕を伸ばしたまま、最初の検者の指先を指すように元に戻させる。
  • あらかじめ開眼状態で数回練習を行ってから検査を施行する。両側の上肢が水平面で右あるいは左にどの程度偏倚したかを測定し、最大の偏倚を結果として採用する。

 

3.眼振検査

  • めまい、平衡機能障害を訴える患者およびその疑いのある患者すべてが対象となる。眼振と眼運動異常を測定する検査である。

 

(1)自発眼振

  • 正常な頭位ですでに眼振が現れているかを検査する。現れていた際には下記の検査を行う。

 

(2)注視眼振

  • 左、右、上、下方向約30°を注視させ、眼振を観察する。
  • 記載法を図3 に示す。

図3注視眼振

注視眼振

 

(3)フレンツェル眼鏡(図4

  • この眼鏡は15〜20°ジオプトリーの凸レンズと2個の照明ランプを用いられているものが標準的である。
  • これを装着すると、微妙かつ複雑な眼運動を拡大して観察できるほか、固視機能が取り除かれるので前庭性眼振が活発になる。いわば、眼に現れたロンベルグ検査を行うことができる。

図4フレンツェル眼鏡

フレンツェル眼鏡

 

(4赤外線CCD カメラ(図5)

  • フレンツェル眼鏡以上に固視機能を取り除くことができる。
  • 録画ができる。
  • 2012年から赤外線CCDカメラを用い頭位および頭位変換眼振検査が保険診療で認められるようになった。

図5赤外線CCDカメラを用いた眼振検査

赤外線CCDカメラを用いた眼振検査

 

 

(5)眼振電図(ENG:electronystagmogram)

  • 電気眼振計(electronystagmography)は、電極、電極ボックス、電気眼振本体からなっている。
  • 眼球の網膜と角膜の間の電位差(角膜網膜電位)を利用してENGの記録はされる。すなわち、顔面に装着した電極差が眼球の運動によって変化することを利用して眼球運動を測定している。

 

(6)頭位眼振検査

  • 頭位の変化によって出現する眼振を観察する検査である。
  • 固視の影響を取り除くため、フレンツェル眼鏡下、またはENG下で行う。
  • 坐位にある患者の頭位をできるだけ体幹と一緒にゆっくりと、背屈、前屈、右下、左下の位置にもたらして検査する。また、さらに仰臥位にして続ける。
  • 眼振の潜伏時間、眼振方向、眼振数、再現性、減衰現象、めまい感の有無などを観察する。

 

(7)頭位変換眼振検査

  • 頭位を急速に変化させた時に出現する眼振を観察する検査である。
  • 固視の影響を取り除くため、フレンツェル眼鏡下、またはENG下で行う。
  • 矢状面の頭位変換眼振検査(Stenger法)、矢状面と水平面の複合頭位変換眼振検査法(Dix-Hallpike)とがある。
  • 眼振の潜伏時間、眼振方向、眼振数、再現性、減衰現象、めまい感の有無などを観察する。

 

(8)温度刺激検査(Caloric test)

  • 経外耳道的に与えられた温度刺激により眼振を誘発させ、左右の末梢前庭機能、主として外側半規管由来の前庭眼反射系の機能を検査する。
  • 検査はフレンツェル眼鏡下、またはENG下で行う。
  • 仰臥位で頭位30°前屈させ、外耳道内の体温と異なる温度の水を注入し、眼振を観察する。
  • 原法としては、30℃左耳、30℃右耳、44℃左耳、44℃右耳の順に、少なくとも5分間の間隔をおいて40秒間注入する冷温交互試験がある。
  • 注入量としては20mL・10秒間、50mL・15秒間とする方法もある。また5mL程度の冷水(20℃)あるいは氷水を用いる比較的簡便な方法もある。
  • 最低限度必要なことは、左右耳に同じ条件で刺激することである。

 

平衡機能検査前後の看護の手順

1.患者への説明

  • 医師からの検査説明の後、再度検査の必要性と目的―どのような原因で、身体のどの部位(脳、内耳、その他)の病気で起こっているのか、また現在の病気がどの程度の重症度かを調べるものもの。それらの得られた検査データにより、患者のめまいの診断、治療方針を決めるもの―を説明し、患者、家族に検査を協力してもらうようにする。
  • 日時、時間(検査開始時間、所要時間)、場所を説明する。

 

(1)検査する上での注意事項等の説明

  1. 検査によって起こるかもしれない自律神経症状(めまい感、悪寒、心悸亢進など)は、いずれも一過性で、できるだけ少なくするように努めること。
  2. 検査によって自律神経症状(めまい感、悪寒、心悸亢進など)が起こるかもしれないため、検査前の食事は少なめとするか、または控えるようにすること。
  3. 検査で動くことが多いため、服装はしめつけない、また楽な格好が望ましいこと(スカートは下肢偏倚立ち直り検査時、歩行状態が分かりづらく、またタイトスカートだと片足立ちがしづらいため、できるだけズボンが望ましい。また靴もかかとが低く、動きやすいものがよい)。
  4. 検査前、気分が悪いときなどは無理をしないこと。

 

(2)検査中の注意事項等の説明

  1. 検査中、医師、技師の説明、指示通りに行うこと。よく分からなかった場合は質問すること。
  2. 検査中に自律神経症状(めまい感、悪寒、心悸亢進など)が起こった場合は、医師、技師、看護師に知らせること。また、無理をして続けないこと。

 

(3)検査後の注意事項等の説明

  1. 検査結果等については、後日医師から説明があること。また、それにより治療方針等が決定すること。
  2. 検査によって自律神経症状(めまい感、悪寒、心悸亢進など)が生じた場合、症状が落ち着くまで安静とすること。また、帰宅途中や帰宅してからめまい発作が現れることもあるので、何か異常があれば連絡すること。

 

2.準備するもの

  • 検査室(静かな、また検査できる大きさであること)
  • 各検査に必要な物品(書く用紙、ペンなど)
  • 血圧計などバイタルサインが測れるもの
  • 緊急処置の物品(ガーグルベースなど)

 

平衡機能検査において注意すべきこと

  • 検査前、患者の状態、また検査に対しての不安などを把握し、医師または、技師に連絡する。
  • 検査中、患者の状態を随時観察し、必要時は応急処置を医師とともに行う。
  • 患者に何かが起こった際も、すぐに処置できるように、患者の近くに待機していること。
  • 検査に不必要なもの(音、物など)は除去し、患者の安全を確保すること。
  • 検査後も、患者の状態が落ち着くまで付き添うこと。

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版

SNSシェア

看護ケアトップへ