痰が取れず、吸引圧を上げたらSpO2 が低下した!

『看護のピンチ!』(照林社)より転載。
今回は、気管挿管をしている患者さんの痰が取りにくく、吸引圧を上げて実施したらSpO2が低下してしまった場合について解説します。

武見 和基

日本医科大学 多摩永山病院 看護部
集中ケア認定看護師

 

 

痰が取れず、吸引圧を上げたらSpO2が低下して、患者が苦しそうにしていて、その様子に焦っている看護師のイラスト

 

ピンチを切り抜ける鉄則

吸引による低酸素血症を避けるには、吸引圧20kPa(150mmHg)以下を守り、吸引の目的である「気道の開存」を踏まえて実施することです。
フィジカルアセスメントで痰が吸引できる位置にあることを確認してから実施し、過剰な吸引を避けることが大切です。

 

POINT
  • 痰が粘稠で吸引しにくいとき、高い吸引圧で実施すると、肺内の空気が吸引され酸素化が悪化してしまいます。
    一度で取れない場合には患者さんの呼吸状態が改善したのを確認しつつ何回かに分けて行います。
    痰は除去できる位置に存在するか、吸引が必要かをアセスメントして実施することが大切です。

 

 

起こった状況

症例

患者Aさん、細菌性肺炎で入院中。
痰が粘稠で吸引を行っても咳嗽を繰り返しており、取り切れていない様子でした。
看護師は、吸引圧20kPa(150mmHg)で実施していましたが、一度で取り切ったほうが患者さんの苦痛が少ないと考え40kpa(300mmHg)まで圧を上げて吸引を行いました。
するとSpO2が83%まで下がってしまいました。
慌てて吸引を中止しましたが、努力呼吸となりAさんは苦しそうです。

 

 

どうしてそうなった?

高い圧での吸引は、肺内空気の量が減る肺容量減少や酸素濃度低下を起こしやすくします。
また、呼気終末陽圧(PEEP)が解除されやすくなり、末梢気道の虚脱が助長される可能性も考えられます(図1)。

 

図1吸引による肺容量・酸素濃度低下、末梢気道虚脱のイメージ

吸引による肺容量・酸素濃度低下、末梢気道虚脱のイメージの図

吸引は肺容量・酸素濃度低下や末梢気道虚脱を誘発する。

 

 

どう切り抜ける?

1 吸引を中止し人工呼吸器の100%O2モード機能を使用して酸素化改善を図る

吸引を続けると低酸素血症を助長するので直ちに中止し、高濃度酸素投与を行って改善を促します。
1~2分で改善しない場合は危険な状態と考えられるため、医師へ報告し対応を検討します。

 

2 観察を継続する

一度酸素化が改善しても、再び低下する可能性があるため呼吸状態の継続観察を行います。
100%O2モード機能使用後にも改善がみられない場合や表1の低酸素血症の症状が見られる場合には人工呼吸器の設定変更で改善を促す必要があるため、速やかに医師に報告します。

 

表1危機的低酸素血症のアセスメント

危機的低酸素血症のアセスメントを表した表

日本呼吸療法医学会気管吸引ガイドライン作成ワーキンググループ:わかる!できる!気管吸引あんしん教育ガイド-気管吸引のガイドライン完全準拠.メディカ出版,大阪,2011:48.より引用


酸素飽和度(SpO2)と動脈血酸素分圧(PaO2)の関係を表2に示します。

 

表2酸素飽和度(SpO2)と動脈血酸素分圧(PaO2)の関係

酸素飽和度(SpO2)と動脈血酸素分圧(PaO2)の関係を表した表

日本呼吸療法医学会気管吸引ガイドライン作成ワーキンググループ:わかる!できる!気管吸引あんしん教育ガイド-気管吸引のガイドライン完全準拠.メディカ出版,大阪,2011:75.より引用

 

3 高い吸引圧の問題

吸引によって肺容量が低下することが指摘されています
吸引圧50kpaで12Frのチューブを用いた実験では23L/分の肺内空気が吸引されたとしています。
また、吸引カテーテルを人工気道に35㎝挿入して吸引圧を変化させ、10秒間の吸引空気量を観察した実験があり、圧が高いほど吸引される空気の量が多くなることがわかります(表3)。

 

表3吸引チューブサイズ別、吸引空気量の違い

吸引チューブサイズ別、吸引空気量の違いを表した表

人工肺を用い10秒間吸引したときの吸引される空気量の測定結果開放状態とは、気管チューブと吸引チューブ間に隙間があり、吸引圧によって外気が気管チューブ内に入る状態である。
密封状態とは、気管チューブと吸引チューブの間の隙間をなくした状態である。
小泉恵,門脇睦美:研究の動向と問題点.ナーシングトゥデイ 1998;13(10):28-32.より引用

 

さらに吸引は呼気終末陽圧(PEEP)を解除するため末梢気道の虚脱が起こりやすくなります。

 

4 吸引の目的は気道の開存

吸引の目的は気道の開存であるため、痰を取りきることに固執することは避けます。
また、吸引で取れる痰は気管チューブから気管分岐部までです(図2)。

 

図2痰を吸引できる範囲と肋骨の関係

痰を吸引できる範囲と肋骨の関係を表した図

吸引できる範囲は気管チューブ先端から気管分岐部までである。
第2肋骨が気管分岐部の目安となる。

 

吸引前に以下のことを観察し、必要性を判断してから行います。

 

① 視覚的に気管チューブ内に痰が見える
② 聴診で第2肋骨周囲の気管から主気管支にかけての低音性連続性ラ音(ロンカイ)が聴診される、または呼吸音の減弱がある
③ 胸部の触診でガス移動に伴った振動が感じられる
④ 人工呼吸器の気道内圧上昇(量設定時)、換気量低下(圧設定時)、フローボリュームカーブにのこぎり歯状波形を認める(図3

 

図3フローボリュームカーブ:のこぎり歯状波形

フローボリュームカーブ(のこぎり歯状波形)を表した図

 

 

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引用文献 閉じる

1) 日本呼吸療法医学会気管吸引ガイドライン作成ワーキンググループ:わかる!できる!気管吸引あんしん教育ガイド-気管吸引のガイドライン完全準拠.メディカ出版,大阪,2011:48.

2) 日本呼吸療法医学会気管吸引ガイドライン作成ワーキンググループ:わかる!できる!気管吸引あんしん教育ガイド-気管吸引のガイドライン完全準拠.メディカ出版,大阪,2011:75.

3) Stenqvist O, Lindgren S, Karason S, et al: Warning ! Suctioning, A lung model evaluation of closed suctioning systems.Acta Anaesthesiol Scand 2001;45(2):167-172.

4) 小泉恵,門脇睦美:研究の動向と問題点.ナーシングトゥデイ 1998;13(10):28-32.

参考文献 閉じる

1) 道又元裕:正しく・うまく・安全に気管吸引・排痰法.南江堂,東京,2012.

2) 日本呼吸療法医学会気管吸引ガイドライン作成ワーキンググループ:気管吸引ガイドライン2013.人工呼吸 2013;30(1):75-91.(2024/5/23アクセス)

 


 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『看護のピンチ』 編集/道又元裕/2024年4月刊行/ 照林社

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