体位変換したら低下したSpO2が、吸引しても上がらない!

『看護のピンチ!』(照林社)より転載。
今回は、体位変換後に痰による気道の閉塞が起こり、SpO2が低下してしまった場合について解説します。

武見 和基

日本医科大学多摩永山病院看護部
集中ケア認定看護師

 

 

 

患者の体位変換後に痰による気道の閉塞が起こり、SpO2が低下してしまい焦っている看護師のイラスト

 

ピンチを切り抜ける鉄則

SpO2低下時には酸素化の改善を促し、フィジカルアセスメントを行ってアプローチを検討します。
低酸素血症の継続は生命の危機に直結するため、速やかに応援を要請します。
また100%O2モード機能使用や仰臥位への体位変換で改善が見られない場合には医師へ報告し対応します。

 

POINT
  • 痰量が多く粘稠な患者さんは気道クリアランスを保つことが難しく、体位変換で呼吸状態が悪化する場合があります。
    痰による気道の閉塞に対しては、まず酸素化の改善を促しながら排痰ケアを行うことが大切です。

 

 

起こった状況

症例

患者Aさん、肺炎で気管挿管・人工呼吸器を装着しています。
ヘッドアップ、左側臥位の体位でSpO2は95%で経過しています。
側臥位へ体位変換を行ったところ、しばらくしてSpO280%への低下がみられました。
もともと痰の多い患者さんであったため、看護師は吸引を行いましたがSpO2は上昇せず、患者さんは努力性の呼吸をしています。

 

 

どうしてそうなった?

体位変換によって重力の影響を受けた痰が移動し、気道の閉塞を起こしたと考えられます。
看護師は吸引を行いましたが、吸引で除去できる痰は気管までです。

 

それよりも末梢側に痰が存在するため、吸引では呼吸状態の改善が得られない状況です。
早期に酸素化の改善が得られなければ危険な状態に陥ります。

 

図1痰による気道の閉塞イメージ

痰による気道の閉塞イメージ

 

 

どう切り抜ける?

1 100%O2モード機能を使用し酸素化改善を図る

低酸素血症の継続は危険であるため人工呼吸器の100%O2モード機能を用いて酸素化の改善を促します。
また、応援を要請し2人以上で対応します。

 

2 体位を仰臥位にする

気道の閉塞によって換気血流のミスマッチ(換気血流不均等)を起こしています(図2図3)。

 

図2体位とガス交換のイメージ

体位とガス交換のイメージ

(体幹断面を足側から見上げた状態)

 

図3換気血流ミスマッチのイメージ(右側臥位)

換気血流ミスマッチのイメージ(右側臥位)

(右肺が患側の場合の右側臥位)

患側は痰による気道の閉塞で換気が少ないが、重力の影響で血流が多い。健側は換気が多いが、血流が少なくミスマッチが起きている。

 

仰臥位にすることで、健側の血流が増加しやすくなるため酸素化改善が期待できます(図4)。

 

図4仰臥位での換気血流ミスマッチ改善のイメージ

仰臥位での換気血流ミスマッチ改善のイメージ

仰臥位では、側臥位に比べて健側への血流が増加するためミスマッチが是正されやすく酸素化の改善が得られやすくなる。

 

酸素化の改善を促しながら呼吸評価を行います。

この時点でSpO2の改善が見られない、低酸素血症が悪化する場合には、速やかに医師に報告します。

 

 

3 呼吸の観察を行う

視覚・聴診・触診・モニタリングの観察とアセスメントを行って対応を検討します(図5表1)。

 

図5呼吸の観察

呼吸の観察を表した図

 

表1アセスメントと対応例

アセスメントと対応例を表した表

*いずれの対応でも改善が得られない場合には速やかに医師に報告し対応します。

 

4 除去できる範囲に痰があれば吸引を試みる

仰臥位への体位変換や患者さんの咳嗽によって痰が吸引できる範囲に移動する場合があります。
聴診で第2肋骨周囲のロンカイや呼吸音減弱、触診で振動がある場合には吸引を検討します。

100%O2モード機能を使用してSpO2の上昇を確認した後に、吸引を10秒以内で実施します。

 

吸引しても痰が取れない場合や酸素化の改善がみられない場合には、体位ドレナージや気管支鏡などの検討が必要となるため、医師へ報告し対応します。
体位ドレナージは呼吸器設定を変更し酸素化・換気の改善が得られてから行います。

 

 

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参考文献 閉じる

1) 日本呼吸療法医学会気管吸引ガイドライン作成ワーキンググループ:気管吸引ガイドライン2013.日本呼吸療法医学会,2013.

2) 安倍紀一郎,森田敏子:関連図で理解する呼吸機能学と呼吸器疾患のしくみ.日総研出版,名古屋,2009.

3) 工藤翔二,村田朗,高瀬真人,他:聴いて見て考える肺の聴診.株式会社アトムス,大分,2014.

 


 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『看護のピンチ』 編集/道又元裕/2024年4月刊行/ 照林社

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