ICUにおけるせん妄予防・せん妄ケアリスト
『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「ICUにおけるせん妄予防・せん妄ケアリスト」について解説します。
関根庸考
市立青梅総合医療センター クリティカルケア特定認定看護師
杉中宏司
市立青梅総合医療センター 救急科副部長
- CAM-ICU や ICDSC でせん妄を評価することが重要である。
- せん妄予防、せん妄発症後に長引かせない。そのため、修正可能な促進因子(入院に伴う環境の変化、疾患や治療に伴う身体的・精神的ストレスなど)への介入が重要である。
- せん妄ケアの質を維持しつつ、多角的な非薬理的せん妄ケアを日常的に実践可能とするため、ケアリストを活用してくことが重要である。
せん妄とは
- せん妄は、精神状態の変化や変動、認知機能障害(記憶欠損、失見当識、言語障害など)、注意力障害、および思考の混乱または意識レベルの変化がみられる急性の脳機能不全である。
- 主な症状は幻覚、妄想、睡眠障害、精神運動異常、情緒障害(恐怖、不安、怒り、うつ、無感情、多幸)などがある。
- ICU でのせん妄の発症は、人工呼吸期間やICU 在室日数、入院期間の延長、死亡率の上昇との関連がある1)。
- そのため重症患者の管理において、せん妄予防、せん妄発症後に長引かせないことが重要である。
- せん妄のタイプは、過活動型せん妄、低活動型せん妄、混合型せん妄の 3 つに分かれる。
- ICU でのせん妄は混合型>低活動型>過活動型の順に多い。
- とくに、低活動型は適切な評価ツールでの評価をしなければ見落とされやすい。各タイプのせん妄の特徴的な症状を表1に示す。
表1せん妄のタイプと症状

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せん妄の評価ツール
- せん妄の評価ツールには、CAM-ICU(confusion assessment method for the ICU) や ICDSC(intensive care delirium screening checklist) がある( 図1、 図2)。
図1CAM-ICU

(鶴田良介:痛み・不穏・せん妄の評価法,INTENSIVIST,2014,6(10):9~1より改変)
図2ICDSC

(日本集中治療医学会J-PADガイドライン作成委員会:日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン,日集中医誌,2014,21:539~579より改変)
- CAM-ICU では患者の協力が必要となるが、評価したその時点でせん妄の有無を評価できる。
- ICDSC は客観的に評価できるため患者の負担がない反面、現時点でのせん妄の有無は評価できず、過去のせん妄を評価していることとなる。
CAM-ICU
- CAM-ICU では「所見 1 :精神状態変化の急性発症または変動性の経過」「所見 2 :注意力欠如」「所見 3 :無秩序な思考」「所見 4 :意識レベルの変化」の 4 つの所見で評価する。
- このうち「所見 1 」+「所見 2 」+「所見3 または所見 4 」となる場合 CAM-ICU 陽性となり、せん妄と判定する。
ICDSC
- ICDSC は 8 時間ごとに定期的に評価していき、評価した時点から24時間以内で得られた情報を基に点数をつける。
- 8 点満点で、 4 点以上をせん妄と判定する。
- せん妄の有無にかかわらず、 4 点未満であっても亜症候性せん妄といったようにせん妄の強弱を評価しやすい。
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せん妄ケアについて
- せん妄の発症機序は完全に明らかとなっているわけではない。
- 重症疾患や身体的な障害によって、生理学的な変動、精神的ストレスなどが脳に影響を及ぼし発症する。
- せん妄のリスク因子は主に直接因子、準備因子、促進因子の 3 つに分かれる(図3)。
図3せん妄のリスク因子

(Van Rompaey et al.:Risk factors for delirium in intensive care patients: a prospective cohort study. Crit Care.2009;13(3):R77. doi: 10.1186/cc7892. Epub 2009 May 20. PMID: 19457226; PMCID: PMC2717440より改変)
- 修正可能な促進因子に対し、多角的な非薬理的せん妄ケアが重要である。
- 主に睡眠の改善(アイマスク、耳栓、概日リズムの改善)、覚醒の促進(眼鏡、補聴器、見当識改善)、リラクセーション、早期リハビリテーションなどがあげられる。
- せん妄ケアは看護師間で統一された介入がなされにくい。
- ケアリストとして具体的ケアを行動レベルで示しておくことで、ケアの質を維持しつつ、多角的な非薬理的せん妄ケアが日常的に実践可能となる。
- ケアリストに関しては各施設状況を考慮し、作成していくことが重要である。
- せん妄ケアリストの例を図4 、図5、図6に示す。
図4せん妄ケアリスト(せん妄予防)

(日本クリティカルケア看護学会せん妄ケア委員会:せん妄ケアリスト,Ver.1.,2020より改変)
図5せん妄ケアリスト(せん妄発症後)

(日本クリティカルケア看護学会せん妄ケア委員会:せん妄ケアリスト,Ver.1.,2020より改変)
図6せん妄ケアリスト(せん妄離脱後)

(日本クリティカルケア看護学会せん妄ケア委員会:せん妄ケアリスト,Ver.1.,2020より改変)
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1 )Ely EW et al:Delirium as a predictor of mortality in mechanically ventilated patients in the intensive care unit. JAMA 291, 2004, 14: 1753~1762
2 )鶴田良介:痛み・不穏・せん妄の評価法,INTENSIVIST,2014, 6 (10): 9 ~19
3 )日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会:日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン,日集中医誌,2014,21:539~579
4 )Van Rompaey et al.: Risk factors for delirium in intensive care patients: a prospective cohort study.Crit Care. 2009; 13( 3 ):R77. doi: 10.1186/cc7892. Epub 2009 May 20. PMID: 19457226; PMCID: PMC2717440.
5 )日本クリティカルケア看護学会:せん妄ケアリスト,Ver.1,せん妄ケア委員会,2020
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版


