ICUにおける鎮静
『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「ICUにおける鎮静」について解説します。
関根庸考
市立青梅総合医療センター クリティカルケア特定認定看護師
杉中宏司
市立青梅総合医療センター 救急科副部長
- 患者状態によるが、通常は浅い鎮静で管理することが望ましい。浅い鎮静とは RASS:- 2 ~+ 1 (SAS: 3 ~ 4 )である。
- 浅い鎮静のために、NRS、VAS ≦ 3 、もしくは BPS ≦ 5 、CPOT ≦ 2となるよう鎮痛管理されているかの評価が重要である。
- 各鎮静薬の特徴は、調節性【Dex = Propo = Mid】、人工呼吸期間【Dex = Propo < Mid】、せん妄発症率【Dex < Propo < Mid】、認知機 能 保 持【Dex > Propo = Mid】、 循 環 へ の 影 響【Dex = Propo >Mid】1)2)である。
Dex:デクスメデトミジン、Propo:プロポフォール、Mid:ミダゾラム
鎮静の目的
- せん妄や不穏など不安に関連する障害は、ICU 患者の85%に認められる。
- 鎮静はそのような不安に関連する障害を和らげ、落ち着けるために必要となる。
- また、酸素消費量・基礎代謝の減少、人工呼吸器の同調性の改善、換気改善、圧外傷を減少させるといった目的でも行われる。
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使用される薬物
- 主に使用される鎮静薬はデクスメデトミジン、プロポフォール、ミダゾラムである。
- ベンゾジアゼピン系であるミダゾラムよりもデクスメデトミジン、プロポフォールの使用が推奨される(表1 )。
- 調節は各鎮静薬で大きくは変わらない。
- 人工呼吸期間では、デクスメデトミジン、プロポフォールを使用した場合よりもミダゾラムで人工呼吸期間が延長しやすい。
- せん妄の発症率では、デクスメデトミジンの使用でせん妄が減少する傾向にある。
- 認知機能保持においてもデクスメデトミジンでは認知機能が保たれるのに対し、プロポフォール、ミダゾラムでは健忘作用があり認知機能が保たれない。
表1ICUで使用される鎮静薬

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鎮静スケール
- ICU での鎮静スケールはリッチモンド不穏・鎮静スケール(RASS: Richmond agitation-sedation scale、表2 )、鎮静・不穏スケール(SAS: sedation-agitation scale、 表3がある。
表2リッチモンド不穏・鎮静スケール(RASS: Richmond agitation-sedation scale)

表3鎮静・不穏スケール(SAS: sedation-agitation scale)

- RASS や SAS は、鎮静を行っていない場合でも不穏スケールとして評価可能である。
- GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)やJCS(ジャパン・コーマ・スケール)などの意識レベル評価ツールは、頭部外傷、脳卒中の評価のために作成されている。
- GCS、JCS は鎮静中の評価には適さないため注意が必要である。
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適切な鎮静管理とは
- 鎮静深度において、鎮静が深く管理された場合では患者の死亡率、せん妄リスク、抜管遅延リスクの増加につながる。
- 通常、鎮静深度は可能なかぎり浅く管理する必要がある。
- 浅い鎮静とは、RASS: - 2 ~ + 1 (SAS:3~4)である。
- 浅い鎮静管理には、毎日の鎮静中断(DSI:daily sedative interruption)と看護師主導の鎮静プロトコルを用いた管理があり、どちらでも浅い鎮静を達成・維持できる。
- ただし、DSI においては看護師の業務負担が増加することがある。
- 鎮静を考慮する前に、まず適切に鎮痛がなされているかを評価・対応することが重要である(鎮痛・鎮静管理のプロトコルを図1に示す)。
図1鎮痛・鎮静プロトコルの例
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筋弛緩薬について
- ICU では病態や治療のために筋弛緩薬が使用されることもある(表4)。
表4ICUで使用される筋弛緩薬

- 筋弛緩薬を使用している場合には RASS やSAS での評価は困難となるため鎮静深度はBIS(bispectral index)での評価が望ましい(図2)。
図2BIS(bispectral index)

- BIS:40~60程度が適切な鎮静深度である。
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1 )Riker RR, et al.; SEDCOM (Safety and Efficacy of Dexmedetomidine Compared With Midazolam) Study Group. Dexmedetomidine vs midazolam for sedation of critically ill patients: a randomized trial. JAMA. 2009 Feb 4 ;301( 5 ):489-99. doi: 10.1001/jama.2009.56. Epub 2009 Feb 2.PMID: 19188334.
2 )Jakob SM, et al.; Dexmedetomidine for Long-Term Sedation Investigators. Dexmedetomidine vs midazolam or propofol for sedation during prolonged mechanical ventilation: two randomized controlled trials. JAMA. 2012 Mar 21;307(11):1151-60. doi: 10.1001/jama.2012.304. PMID: 22436955
3 )日本集中治療医学会 J-PAD ガイドライン作成委員会:日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン,日集中医誌,2014,21:539-579
4 )Yousefi-Banaem H, Goharani R, Hajiesmaeili M,Tafrishinejad A, Zangi M, et al. A Review of Bispectral Index Utility in Neurocritical Care Patients, Arch Neurosci. Online ahead of Print ; 7 ( 3 ):e96490. doi:10.5812/ans.96490.
5 )Medical Advisory Secretariat. Bispectral index monitor:an evidence-based analysis. Ont Health Technol Assess Ser. 2004; 4 ( 9 ): 1 -70. Epub 2004 Jun 1. PMID:23074459; PMCID: PMC3387745.
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版


