妹の願いから生まれた「温泉に入れる」人工乳房

池山メディカルジャパンはオーダーメイドの人工乳房の制作を行う会社です。商品の人工乳房は、ぽんと置かれているとギョッとするほどにリアル。シリコンなどを素材に使い、肌の弱い人もかぶれにくい接着剤で直接胸に貼り付けて使います。

 

人工乳房を制作する会社は日本どころか海外にもほとんどなく、世界中からたくさんの作成依頼や問い合わせが押し寄せています。ただし、開発までの道のりは決して平坦ではなかったとか。千代田区にある人工乳房作成のためのスペース・東京ブレストセンターで、社長の池山紀之さんにお話を伺ってきました。

 

温泉旅行に行ける人工乳房ができるまで・池山メディカルジャパン【1】

 

 

きっかけは妹の一言から

尿道ステント事業で会社をスタートさせた池山さんが、人工乳房の開発を始めるきっかけとなったのは妹さんの乳がんでした。胸の切除手術を受けて5年。再発もなく完治したタイミングで企画された家族旅行での出来事です。

 

「母の発案で、家族みんなで温泉に行きました。帰りに妹に『温泉どうだった?』って聞いたら『入れるわけないじゃない』って言うんですね。母に体を見せられない、悲しい顔を見たくないって。その時に妹から『おっぱいは作れる?』って聞かれたんです」

 

元々の池山さんの専門は歯科インプラント。アメリカ留学中に歯科の技術を応用した指やなどのインプラントの研究開発に携わりました。「指や耳が作れるんだからおっぱいくらい作れるだろう」。そう考えた池山さんは、軽い気持ちで「できる」と答えました。

 

当時の人工乳房やパッドにはオーダーメイドという概念がなく、既製品は色や形、手触りなど、本物とは似ても似つかないもの。さらに普通のブラジャーだと取れたりずれたりしてしまうため、ポケットが付いた専用の下着を使うのが一般的でした。

 

どうせ作るなら、とその時に妹さんが出した条件が「体にぴったりした服、胸の開いた服を着ても分からないこと」「かわいいブラジャーが着けられること」「2泊3日の温泉旅行に行けること」の3つでした。

 

なんで下着に入らないの?

池山さんの最初の壁は接着剤だったといいます。胸は大きいので、耳や指の義肢に使う接着剤では強度が足りません。さらに安全に体に使用でき、簡単に取り外しできることも必要です。世界中から医療用の接着剤を集め、まずは自分の体で試しました。

 

「まずおっぱいを作って、自分の胸に貼ってみました。お風呂の湯船やシャワーを浴びてみての耐久性も知りたかったんですが、娘が小さくて一緒に入ることがあったので、その時は外すように気を付けましたね。でも、たまたまおっぱいをくっつけたままのところを娘に見られてしまって。大騒ぎになりました(笑)」

 

そんな騒動を経て接着剤が見つかり、妹さんの残された側の胸の型をとって人工乳房を作ってみると、本物と違わないとてもよい出来。しかし、なぜかブラジャーに収まりません。本物と同じ大きさで作ったのになぜ入らないのか、池山さんには全く分かりませんでした。

 

「まずはもっと下着を知らないとだめだと思って、デパートやスーパーの下着売り場でブラジャーの形を研究して、買って自分で着けてみたりもしました。店からはもう変態扱いですよ(笑)。最後にはどこでも顔なじみになるくらい通いつめました」

 

必要なのは本物そっくりなことじゃない

池山さんの涙ぐましい研究の結果、分かったのは“バージスラインの違い”。胸の下の膨らみと体の境目となるバージスラインが、寄せて上げるブラジャーのワイヤーのカーブと合わないことが原因でした。本物の胸は柔軟性がありますが、人工乳房は皮膚に接着剤で貼っているため、同じだけの自由度はなかったのです。

 

早速妹さんのブラジャーを借り、カーブを計測して作った人工乳房は、ぴったり収まりました。ブラジャーを外してみると左右でなんとなくの違いはありましたが、人間の体はもともと左右非対称。池山さんは“左右そっくり同じもの”を作ろうとしていましたが、求められているのは“なんとなく同じでブラジャーに収まるもの”でした。

 

妹さんの条件をクリアし、満足のいくものができるようになったころ。尿道ステントの医療機器の申請許可がなかなか下りず事業が思うように進まない中、乳がんの学会で展示発表を行う機会があり、そこでの想像以上の高評価を受け、主力事業を人工乳房へ転換する決心が付いたといいます。

 

「夫と娘にしか見せたことがない手術痕を、兄に見せるのは妹としても勇気がいったと思うんです。開発中は医療関係者を含め、たくさんの方から『本当にそんなものが作れるならぜひ協力したい』と後押ししていただきました。こんなに多くの人に望まれているなら、仕事として成立するのかもしれないな、と思いました」

 

乳房再建手術を受けた人のための人工乳頭の扱いも

 

癒したのは…

胸の型取りをさせてくれた女性やブラジャーの着脱を見せてくれた女性、会社がなんと言っても協力すると言ってくれた下着メーカーの担当者。胸の手術後に悩んでいる女性を救いたいという気持ち、そしてそれを支えたいと思う人々の気持ちから、池山メディカルジャパンの人工乳房事業は発進しました。

 

できた人工乳房をプレゼントすると、早速、妹さんは温泉へ。しかし意外なことに、人工乳房を使って温泉に入ったのは初めの1回だけ。今は“お守りとして持っているだけ”で安心感があり、付けなくても平気になったのだといいます。池山さんの人工乳房は、胸を切除した女性の体の傷だけでなく、心の傷までカバーしてくれているのかもしれませんね。

 

次回は事業の方向性を決めた出来事についてお話を伺います。

 

【次の記事】乳がんを経験した女性と共に歩む人工乳房

 


【「人口乳房をつくる」池山メディカルジャパン・インタビュー】

【1】妹の願いから生まれた「温泉に入れる」人工乳房

【2】乳がんを経験した女性と共に歩む人工乳房

 

(取材協力)池山メディカルジャパン

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