「私はセックスできなくなっちゃうの?」|がん患者さんのセクシュアリティ支援

なんとなく話しづらい…聞きづらい…性のこと。

 

「私はもう、セックスできなくなっちゃうんですか?」――

 

そう患者さんに聞かれたら、戸惑う医療者も多いのではないでしょうか。

 

がんやその治療による体や心の変化で、セクシュアリティへのさまざまな影響が起こり得ます。

 

ところが、この話題について医療現場で積極的に話されることは、ほとんどありません。

 

そんなふうに何となくタブー視されてきた、がん患者さんへのセクシュアリティの支援に乗り出した「OLAS for Cancer Survivor」が開いた、乳がんや婦人科がんの性をテーマにした勉強会を取材しました。

 

 

話しづらい医療者、聞きづらい患者さん

OLAS for Cancer Survivor代表の宮本紗代さん

OLAS for Cancer Survivor代表の宮本紗代さん

 

OLAS for Cancer Survivor代表を務める看護師の宮本紗代さんは、自身が新人のころを振り返り、次のように話します。

 

「退院支援のパンフレットに性生活の注意点が3行くらい書かれていました。でも、恥ずかしくて患者さんから目をそらし、『ここは読んでおいてください』と言って飛ばしてしまっていました」

 

そうした医療者の恥じらいの行動を感じ取ると、患者さんは「この話は聞いてはいけない」と思ってしまう。

 

宮本さんは自らの経験も踏まえ、治療の影響の一つとして性機能障害も当たり前のように話す姿勢が大切だと強調しました。

 

子宮頸がんのサバイバーであるKEIKOさんも、治療を始めた当初、医療者と性機能障害について話す機会はなかったと言います。

 

「生きるか死ぬかで頭の中がいっぱいで、“性”について考える余白はなかったです。でも、医師から話をしてくれていたら、少しは現実に引き戻されて考えられたのかなと思います。その後、セックスできるとわかってからも、主治医が男性だったこともあり、『命のことを考えてくれているのにこんなこと聞いてもいいのかな』と思ってしまい、セックスの話はなかなかできませんでした」

 

宮本さんによると、AYA世代(15歳から30歳前後)のがん患者さんの研究では、相談したいと思っても約7割の人が医療者に相談できていなかったそうです。

 

 

できないと思い込んだり、ネットや口コミで情報を探したり…

熱心に耳を傾ける参加者ら

 

医療者は積極的に説明しづらい。患者さんは質問しづらい。

 

そんな状況が、セクシュアリティの問題を複雑化しています。

 

たとえば、下記のような状況があります。

 

患者さんが治療後のセックスについて誤解する

ネットやSNSの中にある不確かな情報に惑わされる

 

子宮や卵巣を切除した患者さんの中には、セックスができないと思い込み、それが原因でパートナーにつらい思いをさせたくないと考え、別れてしまう人もいると言います。

 

また、インターネットやSNSなどにはさまざまな情報がある中で、時に「科学的根拠のない不確かな情報」や「がんの種類や治療が自身とは異なる情報」などに惑わされてしまうこともあります。

 

がんサバイバーのKEIKOさんも、最初は医療者に聞きづらく、SNSから情報を得ようとした一人。

 

「やっぱり最初はネットから情報収集しました。特にInstagramを見てました。体験談を読んでいたんです」

 

その後、KEIKOさんは、入院中に知り合ったOLAS for Cancer Survivor代表の宮本さんと話したのをきっかけに、紹介してもらった本から知識を得たり、医療者に性機能について積極的に質問したりできるようになったと言います。

 

 

起こり得る性機能障害はさまざま

勉強会では、婦人科医で日本性科学会理事長の大川玲子さんが、乳がんや婦人科がんの治療で起こり得る性機能への影響について話しました。

 

乳がんや婦人科がんの治療後に起こり得る性機能障害/乳がん:●乳房切除によるボディイメージの変化⇒パートナーが見た時にどう思うか不安に感じる●乳房再建しても戻らない皮膚感覚の変化⇒ボディイメージは変わらなくても、性的に感じなくなる●ホルモン治療の医原性閉経⇒膣の萎縮や濡れなくなることで、性交時に痛みを感じる/婦人科がん:●子宮摘出後、膣断端部に生じる性交痛⇒性交時に手術で縫い合わせた部分に痛みを感じる●手術や放射線治療などで卵巣機能を失うことによる医原性閉経⇒通常の閉経と同様、膣の萎縮や濡れなくなることで、性交時に痛みを感じる●摘出範囲が膣まで及ぶ場合、膣の長さが短くなる⇒深く挿入できなくなる場合がある●膣への放射線照射による膣壁の障害⇒膣が癒着したり腟内が狭くなったりして、挿入しづらくなる

大川さんの講演資料を基に、看護roo!編集部で作成

 

大川さんは、乳がんや婦人科がんの治療による性機能障害が起こった場合の対策として、

 

性交痛:潤滑ゼリーや潤滑ゼリーが付いているコンドームなどの使用

医原性閉経:短期間のエストロゲン局所療法(子宮内膜がん・乳がんでは原則禁忌、がん治療医に相談が必要)

膣の短縮:座位など浅い挿入ですむ体位の工夫

 

などがあると紹介。

 

そのほか、放射線治療による膣の癒着を防ぐために使用する“膣ダイレーター”という器具、手術する際に放射線が当たらないように卵巣の位置を調整しておく“卵巣のお引越し”など、さらに手厚い対応をしている医療機関もあると紹介しました。

 

大川さんは、話の最後にこう締めくくりました。

 

「性交しなくても、タッチングなどでセックスは楽しめます。ほかの方法があることをアイデアの一つとして伝えることも大切です」


 

看護師からどんなふうに話せばいい?

活発に意見交換された勉強会

 

勉強会では、看護師から患者さんに性生活について話すタイミングや話し方も話題に。

 

看護師の宮本さんは、次のように話します。

 

「性の問題は、少し時間がたってから考えるものかもしれませんが、あらかじめ医療者の口からその話題を出しておくことはとても大切です。例えば、退院指導のときに患者さんの目を見て、どういう体位を取ったら良いかなど少し具体的な話を付け加えて説明しておくことで、“この問題に私たちも真剣に取り組んでいます”というメッセージになります

 

また、経過観察のタイミングで、「何か気になることはありませんか?食生活のこととか性生活のこととか?」とさり気なく聞くことで、実は悩んでいたと患者さんから相談されることが少なくないそうです。

 

そんなふうに何かと並列した話題として看護師サイドから伝え続けることで、性生活で何か悩んだときに患者さんが相談しやすくなると宮本さんは言います。

 

実際、KEIKOさんもほかのがんサバイバーの参加者も、医師や看護師から当たり前のように性について積極的に話題にしてほしいと口を揃えました。

 

勉強会の最後、宮本さんは参加者にこう呼びかけました。

 

「例えば、潤滑ゼリーを渡すとき、渡すだけでは本当の意味でのセクシュアリティ支援にはなりません。それを一緒に使うパートナーとの関係性も聞いてみる必要があります。すると、『夫はゼリーとか使いたくなさそうで…』など、悩みが明らかになることも。パートナーに言いづらければ、先に入れて膣内にとどめておける潤滑ゼリーをすすめることもできます。そこまで踏み込んで聞いた上で支援するのが、本当の意味でのセクシュアリティの支援につながるのではないかと思っています


 

看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo

 

 

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(参考)

OLAS for Cancer Survivor

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