目の前の患者さんはLGBTかもしれない 看護師が知っておくべきLGBT

看護師が知っておくべきLGBTのアイキャッチイラスト

 

「外見は女性、戸籍は男性のトランスジェンダーの入院患者さんの病室は女性部屋? 男性部屋? それとも個室にするべき?」

 

「ゲイの患者さんの手術同意書へのサイン、同性パートナーでも問題ない?」

 

目の前の患者さんがLGBTだったとき、看護師をはじめとする医療者はどうしたらいいのでしょうか

 

LGBTの人の中には、医師や看護師の言動に傷ついたという人が少なくありません。配慮のない対応をされるのを恐れて受診をためらってしまうケースも起きています。

 

LGBTの人たちが安心して医療・介護サービスにアクセスできる環境を目指して開かれた「LGBT医療福祉フォーラム」を取材しました。

 

 

トランスジェンダーの看護師が経験した「LGBT患者への無理解」

トランスジェンダー男性の看護師、浅沼さんの写真

トランスジェンダーの男性で看護師の浅沼智也さん。「カラフル@はーと」の共同代表として、うつなどの精神疾患、発達障害、依存症などを抱えるLGBT当事者たちの支援を行っている

 

浅沼智也さんは、都内の病院に勤務する看護師

女性から男性へ、戸籍や身体を変えたトランスジェンダーの男性です。

 

LGBTとはの表。L(レズビアン)は性自認が女性、性的指向が女性に向く人。G(ゲイ)は性自認が男性、性的指向が男性に向く人。B(バイセクシュアル)は性的指向が男女どちらにも向く人。T(トランスジェンダー)は生まれ持った性と性自認が一致しない人、違和感を持つ人のこと。

 

浅沼さん自身が患者として泌尿器科を受診したとき、こんな体験をしました。

 

問診票の既往歴に『子宮・卵巣摘出』と書きました。

すると、看護師に『あなたは男性なのに、どういうこと? からかってるの? 男性にこんなものないわよ!』と突き返されたんです」

 

そのとき、浅沼さんは40度の発熱があり、すぐにも入院が必要という状態。

 

「そんな緊急性を要する場面で、自分の性自認や性指向なんて説明できなかった」と話し、LGBTについて医療従事者が知識を持っておくことの必要性を指摘します。

 

浅沼さんの写真

浅沼さんは「医療従事者がLGBTについて知識を持ち、本人と話し合って対応を決めることが大切」と指摘する

 

さらに、本人の意思を尊重した受診・療養環境への配慮も大切です。

 

「僕は男性の病室に入院し、医療者には(自分がトランスジェンダー男性であることを)特にカミングアウトしていませんでした。ところが、ある日、トランスジェンダー男性の看護補助者が突然、『友達になってください』と、僕のベッドサイドにやってきたんです」

 

浅沼さん本人の知らないところでアウティング(本人の同意なしに、その人のセクシュアリティを言いふらすこと)をされていました。

 

「『トランスジェンダーの人が入院してるみたいだよ、行ってきなよ』みたいに言われて来たらしいんですね。でも、僕自身はカミングアウトしてなかったし、個人情報でもある。医療者のアウティングで、意図せず患者さんの家族に知らせてしまったり、損害賠償を請求されたりする可能性もあります」

 

 

目の前の患者さんが「LGBTである可能性」に気づいて

電通ダイバーシティ・ラボの調査によると、日本のLGBT人口は約7.6%(推計)。

 

外来に来た患者さんや病棟の入院患者さん50人のうち、3~4人はLGBTの患者さんかもしれないという割合です。

 

ただ気づかなかっただけで、これまで接してきた患者さんの中にも、本人の自認する性別とは違う性別として対応したLGBT患者さんがいたかもしれません。

 

さらに、アセスメントやちょっとした会話で、こんな言葉を口にしたこともあったかもしれません。

 

「最近、男性(女性)とセックスしましたか」

「彼氏(彼女)いるんですか」

妊娠してますか」

 

異性愛者やシスジェンダー(身体の性と性自認が一致する人)を前提にした質問にLGBTは答えにくく、重要な情報を聞き漏らす恐れもあると、浅沼さんは指摘します。

 

「『性的なパートナーはいますか』『恋人はいますか』といった言葉を使うことで、どんな人も答えやすい質問に変えることができます」。

 

 

「待合室でフルネームで呼ばれたくない」「問診票に嫌悪感」

LGBT患者への対応が求められる例の表。例として「終末期医療など本人の意思が確認できず、同性パートナーが代理意思決定をするとき」「性別違和を持つ患者さんをケアするとき」「問診票の性別欄、性経験の欄」「病衣、病室、トイレ、入浴など入院する際の環境」などがある

 

持って生まれた性と本人の自認する性が異なるトランスジェンダーの場合、見た目と保険証の性別が違うために『本人ですか?』と聞かれたり、問診票の性別欄に記入したりするのが苦痛だという人も。

 

見た目の性別と違うフルネームを呼ばれ、待合室で好奇の視線を向けられることにストレスを感じる人もいます。

「入院の場面でも、性自認に基づいた性別での対応を希望したのに、何の配慮もなく断られるのはとても苦痛。逆に『LGBTだから配慮しなくちゃ!』と、本人への説明がないまま個室に入院させられ、退院時に個室料金を請求されてしまったという方もいます」

 

浅沼さんは、対応方法の一例として

 

  • 性別欄には男女だけでなく『その他』などの項目を追加、必要なことは診察室の中で医療者が確認する
  • 受付時に番号札を渡して番号で呼び、診察室の中で生年月日などの本人確認をする
  • 入浴時間の工夫やカーテンの使用によるプライバシーへの配慮をする

 

などを挙げ、「医療機関としてできること、できないことをきちんと本人と話し合って慎重に決めていくことが大切です」と訴えました。

 

 

LGBTフレンドリーな医療のために大切な4つのこと

精神科医・林さんの写真

LGBTに特化した診療所の医師としてLGBT支援に携わる林直樹さん

 

LGBTにほぼ特化した「しらかば診療所」(東京・新宿区)の精神科医・林直樹さんは、「LGBTに理解のある医療機関へのニーズは高い」と言います。

 

その上で、LGBTに肯定的な医療のために大切な4つのことを示しました。

 

「LGBTに肯定的な医療のために」の表。1)LGBTという言葉を知る 2)LGBTのライフステージでの特徴的な課題や発達モデルを知る 3)LGBTに固有のカルチャーを知る 4)医療者・援助者自身のバイアスを知る

 

特に4つ目「医療者・援助者自身のバイアスを知る」という点について、

 

「医療者もバイアス(先入観)からなかなか離れられない。目の前の人がLGBTである可能性を考えないというのもそう。自分では『偏見がない』と思っていても、どうしてもネガティブなアセスメントや態度が示される傾向があるんですね。そういうことも含めて、正確な知識が必要だと思います」

 

と指摘。「LGBTブーム」とも言われるほど、社会の関心や認知度が高まっている中で、何が医療者に求められるかをこう締めくくりました。

 

「人の数だけセクシュアリティがあって、その人らしいセクシュアリティを支援すること。多様な性のあり方を尊重しながら、より細やかな配慮をしていくことが必要になっています」

 

看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko

 

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(参考)

LGBT医療福祉フォーラム2018(カラフル@はーと)

電通LGBT調査2015(電通ダイバーシティ・ラボ)

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