2040年に必要な病院は今の半分、4000ぐらいで足りる|医療・介護業界を襲う「2040年問題」

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

聞き手:二羽 はるな=日経ヘルスケア

 

わが国では今後、75歳以上高齢者の急増と現役世代の急減という二つの大きな問題に直面する。人口構造の変化に伴い、医療需要も大きく変わることが見込まれる中、医療機関にはどのような対応が求められるか。

 

日本病院会会長で、相澤病院(長野県松本市)などを運営する社会医療法人財団慈泉会理事長・最高経営責任者の相澤孝夫氏に聞いた。

 

あいざわ たかお氏のプロフィール。1973年東京慈恵会医科大卒。信州大医学部附属病院を経て、1994年に社会医療法人慈泉会・相澤病院理事長・院長に就任。2008年に社会医療法人財団に移行。2017年から現職。同年より日本病院会会長を務める。

 

これからの10年、20年は、医療機関にとって大激変の時代になるだろう。今までよりも変化の度合いが大きくなる。

 

大激変の要因は、人口構造の変化だ。2025年に向けて、75歳以上の高齢者が一気に増える。その後、2040年にかけては15~64歳の生産年齢人口の減少ペースが加速し、75歳以上の高齢者の割合がどんどん大きくなっていく。

 

人口構造が変われば、疾病構造も変わる。入院医療ニーズは今後も伸びると推計されているが、厚生労働省の資料によると、これから増えるのは「肺炎」「心疾患」「血管疾患」「骨折」など、高度な医療を必要としない入院だ。従来型の急性期の入院医療ニーズはこれから激減するとみている。

 

人口構造だけでなく、総人口も変化する。国立社会保障・人口問題研究所が公表している日本の地域別将来推計人口によると、東京都や沖縄県など一部を除いてこれから人口は減る。

 

例えば、2040年には都道府県別人口が最も少ない鳥取県は47万2000人、次いで少ない高知県は53万6000人になると推計されている。この人口に対して、高度急性期医療を手がける病院がどれだけ必要だろうか。少なくとも、今と同じ医療提供体制でいれば需要と供給のミスマッチが生じ、財政的にも立ち行かなくなる。

 

人口構造や疾病構造が変わる中、これからは病院単位で機能分化を進めるべきだと私は考える。高度急性期医療については基幹型病院に機能を集約し、広域の患者を受け入れる。

 

一方で高度な医療を必要としない入院や、急性期後の在宅復帰機能などを地域密着型病院が担う形だ。周囲に急性期医療を担う病院がなければ、地域密着型病院が急性期医療も担うことになるが、大きな方向としては基幹型病院と地域密着型病院という二つの機能への分化を進める。

 

需要に合わせた供給体制を整備できれば、2040年に必要な病院の数は今の半分、4000ぐらいで足りるのではないか。

 

ただ最近、高度急性期医療を担う病院が病棟の一部を地域包括ケア病棟に転換する動きがある。これは機能分化に逆行する動きであり、基幹型病院が地域が担う機能にまで手を伸ばすべきでないということは強調したい。

 

 

データに基づく経営判断を

厳しいことを言うようだが、「自分がやりたい医療」で経営が成り立つ時代は終わった。これからは、「地域に必要とされている医療」を提供しないといけない。

 

そのためには、地域の状況や自院の機能について、データに基づく分析が重要になる。今、こうしたデータは様々な形で入手できる。

 

地域の状況については、厚労省の患者調査や医療施設調査・病院報告、DPCデータなどを利用できる。患者調査は疾患ごとの入院・外来患者数や平均在院日数、年齢階級別の受療率、都道府県別の受療率などが、病院報告では都道府県別の1日平均在院患者数や平均在院日数、病床種類別の病床利用率などが分かる。

 

これらのデータを直前のデータと比べても、あまり変化はないかもしれない。可能であれば5~6年前からの推移を見て、どういうトレンド(潮流)で変化しているかを把握してほしい。地域の人口構造がどうなっているか、周辺にどのような医療機能を担う病院があるかといった分析を踏まえ、地域にない医療機能を担っていく必要がある。

 

さらに、入院や外来以外の機能を担うことも模索していかないといけない。人口減少に伴い、入院・外来の医療需要は、地域差はあるものの、2040年には減少に転じる見込みだ。

 

これまで病院は入院・外来医療を主に手がけてきたが、今後伸びるのは在宅医療予防医療の需要だ。2040年に向けて厚労省が掲げている政策課題の一つに「健康寿命の延伸」があり、特に予防医療は重要になるだろう。健診だけでなく、運動指導や栄養指導などにも取り組むべきだ。

 

医療機関の社会的責任は、「継続すること」だと私は考える。地域の実情に応じて提供する医療の内容を変えてでも、存在し続けることに意味がある。これから訪れる大激変の時代に備え、病院経営者にはデータに基づく経営判断をしてほしい。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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