「患者の希望」と「自分の感情」を分けられない医療者|がん患者と緩和ケア医の安楽死をめぐる本音(2)

写真家・がん患者の幡野広志さんと、緩和ケア医の西智弘さんによる本音のやりとり。

第2回です(第1回はこちら)。

ガラス反射を利用してご自身を撮影する幡野さんの写真。

本対談の写真は、ガラス反射を利用した幡野広志さんの撮影による。

 

 

発言権を奪われた患者

幡野:最近、「患者は発言権を奪われてるんだ」とわかってきたんです。

 

とある中学校の校長先生に手紙をもらったんですよ。

その人は、がんになってから「必ず治りますよ」「先生良くなってね」と、安易な励ましを大量に受け取ってきたそうなんです。

 

僕は、本(『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』)に、思慮が浅い優しさは、「優しい虐待」だと書いていました。

 

それを読んでくれたそうで、「私が言えなかったことを語ってもらった。心が軽くなったような気がする。どうしてもお礼が言いたい」と書いてきてくれたんです。

 

それくらいきっと「言いたいことを言えない患者の心情」は切実なんだと思う。

 

最近、たくさんのメディアから取材を受けますし、医療者とか患者さんとか、大勢の人が僕の話を聞きたいと言ってくれます。

 

もし、がん患者が当たり前に本音を言えてるなら、僕の発言だって「あるあるだね」「よくある話だね」ってなるはず。

 

なのに、僕のところにみんなが来てる理由は、僕が、がん患者には珍しく「正直にものを言ってる」からだと思うんです。

 

がん患者って、周囲の安易な励ましとか、思慮の浅い優しさに気を遣って、本音を言えてないんですよ。

 

 

患者の希望と自分の感情を切り分けること

患者さんへの接し方について答える西先生の写真。

 

西:安易な励ましや、優しい虐待にならないように、僕は「ペイシェント・ファースト(患者第一)」を信条にしています。

 

患者さんが言ってることが、基本的には絶対です。

 

プロフェッショナルとして、技術や選択肢を提供しますし、今後の予測についても話します。

でも、「Aを選ばなきゃダメですよ」っていう提示はしない。

 

「あなたの生き方はこれです」って提示されても納得できないじゃないですか。

患者さんが自分の人生を生きられなくなる。

 

昔は、患者さんの一言一言に振り回されることもありました。

 

たとえば、患者さんが「旅行に行きたい」と言ったとき。

 

「旅行に行くこと」が、ほんとうにその人の目的なのか、と考察することができなかったんです。

掘り下げられずに、表面的な言葉だけを捉えて行動してしまうこともあって。

 

それはペイシェント・ファーストじゃないなと。

「旅行に行かせたい」という医療者側の考えや感情で動いていると。

 

幡野:「旅行に行かせてあげることができたんだ」「希望を叶えてあげられた」って思えば、患者さんが亡くなったあと、医療者の心も楽ですしね。

 

西:「旅行に行きたいと言っている理由が何なのか」を考えることが大事ですよね。

誰かに会いに行きたいのか、海が好きだから見たいのか、体を動かしたいのか、旅行先で家族だけに話したいことがあるのか―。

 

たとえば、「家族だけで話したい」が、ほんとうの希望なんだったら、別の方法をいくらでも提案できますよね。

 

体調が悪い中で、「旅行」という手段をとることが、その患者さんにとって最善なのか、プロとしては掘り下げなきゃいけないし、知ろうとし続けなくちゃいけない。

 

手振りを交えて答える西先生とかんごるーちゃんの写真。

 

 

怒鳴る患者さんに想うこと

幡野:でも、医師だけが努力しなきゃいけないわけじゃなくて。患者にも、コミュニケーション不全の原因はあると思ってます。

 

医療者は、過去の経験から患者に対して防衛的になってしまっている側面もあるんじゃないかと。

 

医療者に非がなくても、初対面で突然怒鳴る患者さんはいますからね。

 

西:怒鳴る患者さんは一定数います。

怒鳴らせてしまった医療者が悪いというよりは、怒鳴られた時の対処が大事だと思う。

 

幡野:看護師さんも、怒鳴られたりすることは少なくないでしょうね。

みんな、口では「平気ですよ。慣れてますよ」と言ったりするけど、平気なわけないですよね。

ダメージとしては蓄積されていく。

 

西:僕は、怒鳴られた時に「何でこの人こんな感情をあらわにしてるんだろう」と、まず思います。

 

だから「どうして怒っているのか教えてもらえませんか」という姿勢でコミュニケーションをとります。

個人的な傾向なんですけど、僕は怒ってくる患者さんて苦手じゃないんですよ。

 

凛々しい眼差しを向ける西先生の写真。

 

 

どうしても対処できなかった患者さん

西:でも、責任を転嫁する患者さんは苦手です。

 

意思決定の過程を患者さんと、長い時間をかけて一緒に話し合って決めたはずなのに、状態が悪化したあとから「先生が強く勧めてくれなかったからこうなった」とか。裏切られるとたまらないです。

 

幡野:たまらんですね、それは。

医師に対してマナーが悪い患者は、絶対損すると思うんです。

マナーが良い患者の方が絶対得なの。僕自身、病院に行く度にそう感じますね。

 

西:年に1回くらい「どうしても自分には難しい」と思う患者さんに出会うかな。

「責任転嫁する患者さんは苦手」と、自分の感情的に弱い部分がわかっているので、「僕には対処できない」と思ったら主治医を変えてもらうこともあります。

そうでないと、結果的に患者さんにとって不利益になるので。

 

幡野:そういうふうに、自分の傾向を分析できている先生ならいいけど、そうじゃない医療者だっていっぱいいるでしょうね。

 

だから、患者のほうも医療者にはマナー良く接するべきなんですよ。

 

次回に続きます)

※2018/12/29公開です。

 


●幡野広志(はたの・ひろし)

1983年、東京生まれ。2010年に「海上遺跡」で「Nikon Juna21」受賞。 2011年、独立し結婚する。2012年、エプソンフォトグランプリ入賞。2016年に息子が誕生。2017年多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。

公式ブログTwitter

 

●西智弘(にし・ともひろ)

川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター 腫瘍内科医。2005年北海道大学卒。家庭医療を中心に初期研修後、緩和ケア・腫瘍内科の専門研修を受ける。2012年から現職。現在は抗がん剤治療を中心に、緩和ケアチームや在宅診療にも携わる。「暮らしの保健室」など、院外にも活動の場を広げている。

Twitter

 

編集/坂本綾子(看護roo!編集部)

 

【文献】

1)幡野広志:ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。(PHP),2018

 

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