終末期の看護で一番悩む患者さんからの「死にたい」。対応のヒント6つ

終末期の看護で一番悩むこと。それは患者さんに「死にたい」と言われることではないでしょうか。

 

看護roo!のアンケートでも、患者さんから「死にたい」と言われたときにどう対応するのかを緩和ケアの専門ナースに聞きたい、という声が集まりました。
 

この難しい問いに答えはあるのか…。緩和ケアのエキスパート、がん看護専門看護師の武見綾子さんにお伺いしました。

聞き手:白石弓夏(看護師)

 

がん看護専門看護師・武見綾子さんインタビュー【前編】

患者さんからの「死にたい」。“傾聴”や“反復”をしてもモヤモヤしている看護師へ

 

武見綾子さんのプロフィール写真

<武見綾子さんプロフィール>

1991年 川崎市立井田病院 ICU・CCU 入職

1999年 同病院 緩和ケア病棟へ異動

2008年 日本赤十字看護大学 看護学研究科 基礎看護学 修士課程修了

2011年 がん看護専門看護師 取得

2018年6月現在、川崎市立井田病院 外科病棟師長

 

■患者さんからの「死にたい」。対応のヒント6つ

 

 

1)正解がわからないのに対応しなきゃいけない“怖さ”を自覚する

 

白石弓夏:患者さんから「死にたい」と言われたとき、教科書には「死にたいと思っているのですね」「どうしてそう思うのですか?」とまずは相手の言っていることを反復して受け止め、傾聴する…と書いてあります。そのとおりやってみても、実際はうまくいっていない気がしてモヤモヤしている人も多いのではないでしょうか。

私自身も、困って固まってしまった経験があります。

 

武見綾子「自分でも正解がよくわからないのに対応しなきゃいけない怖さ」ですよね。

自分が知らないことを聞かれていて、しかも正解がないから「答えられなさ」に困ってしまうんだと思います。

 

「思いがけない反応が返ってきたらどうしよう」「傷つけちゃったらどうしよう」「自分では対応しきれないかも…」と悩みますよね。

 

その場にとどまるのも対応のひとつだし、逃げ出すのも対応のひとつだし…。

私の場合は、頭で考えて選んでるというよりは、とっさに身体が動く。その直感にしたがって対応している感じがあります。

 

 

■私も逃げ出したことはありますよ

過去の患者さんとの出来事を話す武見さんの写真

 

白石:えっ、逃げ出してもいいんですか!?

 

武見:いえ、そういうわけではないんですけど、私も何も言えずに逃げ出したことはありますよ。

その患者さんは、60代の女性で「もう死なせてー!殺してー!」って部屋で暴れて叫んでるんです。

その横に娘さんがいて、「お母さん、もうやめて…」って泣いていて…。

 

耐えられなくて他のスタッフに助けを求めに行きました。

 

私は29歳で、緩和ケア病棟配属後、3カ月目くらいでした。

先輩看護師や医師に状況を伝えても、「部屋にいなきゃだめだ、患者さんについてなさい」って言われて、ほぼ丸1日その部屋にいたんです。

患者さんに何か言うことはできないけど、患者さんの手を握って、その部屋にいました。

 

白石:えっ…すごくつらそうですね…。

 

武見:もう、めちゃめちゃつらいですよ。「自分では対応できない」「無理!何も術がない…」「ここにいたくない」という感覚でした。

このとき感じていたのが「自分でも答えがわからないのに対応しなきゃいけない怖さ」だったんだと思います。

 

緩和ケア病棟での経験で感じたことを話す武見さんの写真

 

白石:先輩看護師や医師はどうしてそのような指示を出したんでしょうか。

 

武見:あえてその場にとどまらせたのは「今そこから逃げ出すな」っていうメッセージだったんでしょうね…。

 

ナースステーションに戻ったとき、「お疲れ。大丈夫だった?」って親身になって先輩が声をかけてくれました。

私が1日中病室にいた日の夜、患者さんはお薬の効果もあってぐっすり眠られて。

 

言葉ではうまく説明できないんですけど、その日を境に不思議と患者さんと私の関係性は深まって、お看取りのときまで比較的穏やかな時間を過ごせていただけたように思います。

 

 

2)“今”“あなたに”言ったことの意味を考えてみる

 

武見:緩和ケア病棟で働いていたとき、あるスタッフが患者さんに「あの患者さん死んじゃったの?」って聞かれて。

答えられなくて、ごまかしてナースステーションに帰ってきてしまったことがありました。

 

そのスタッフに相談されたときには「私も逃げ出した経験があるよ」と伝えました。

みんな同じことで悩むんだなって思います。

 

それから、

「なんでそういうこと言ったんだろうね?」

「患者さんはなんで“あなたに”言ったんだろうね?」

「後からじゃなくて“今”あなたと話したかったんじゃないのかな?」

という話をしました。

 

「なんで逃げてきてしまったのか」と聞いてみると、

スタッフは「患者さんが亡くなった話はしちゃいけないと思った」「患者さん同士仲が良かったから、がっかりすると思った」と答えました。

 

なので、「亡くなった患者さんの話をしたかったのかもしれないよね。だから、声をかけてくれた患者さんがどんな話をするか待ってもよかったのかもしれない」という話をしました。

 

結果的にそのスタッフは、同じようなことがあった時には、逃げずに別の対応ができそうと言っていました。

 

ナースステーションで他のスタッフと笑顔で話しをする武見さんの写真

 

武見:患者さんが、「自分に」「そのとき」伝えてきてくれたことが、一歩踏み込んだケアができるチャンス。

そのとき1回逃げたらもう2度とその患者さんは言ってくれないかもしれない。

だから、その瞬間、自分に言ってくれたんだという事実に自信をもってほしいと思います。

 

白石:「死にたい」って患者さんに言われたときも同じなんですね。

 

武見:そうですね。その人は私を選んでくれたって思ってもらいたいですね。

何も答えられないかもしれないけど、患者さんが自分を求めてくれている、そのときしかないチャンスです。

 

 

3)「どうにか対応したい」気持ちから一歩離れてみる

 

白石:「死にたい」と言われたときにどう対応したらいいか悩む、という内容のアンケートの結果をみると「どうにか対応したい」という気持ちの表れなのかなと思います。看護師だから、どうにかしたい、どうにかしてあげたい、と思うのは当然なんですけど…。

 

武見: そうですね…。以前、病室で泣いているがん患者さんの話を聞いてきたスタッフがいました。

それで私に、「何かもっとできることありますか」って聞いてくれたんですよね。

 

「話を聞いてどうだったの?」と聞いたら、「ただ聞いてただけです。それで患者さんは最後は泣き止んでくれて」と説明してくれました。

「すごくいい看護してきたんだね」って言ったら「え、それでいいんですか?」って。

 

「いいよいいよ、また泣くかもしれないけど、そうしたらまた話聞いてあげて」って言いました。

「その泣けるってことがいいんじゃない」って。

話を聞いた看護師に対して「いいんだよ」と承認できることが大事ですよね。

やっぱりみんな不安なんです。

「その状況なら、私も同じことするわ」って言ってほしいし、誰かに確かめたいという気持ちはあると思います。

 

 

4)「何をやってあげたか」よりも「患者さんの変化や反応」に目を向ける

 

白石:私も、もしただ話を聞いただけで帰ってきたら、それでよかったのかどうか迷いますね…。

それと、人生の大事なときの一言なので、自分次第で患者さんの今後を左右してしまうプレッシャーがあります。

 

武見:そうですよね…。その気持ち、すごくわかります。

でも、「こちらが何をやってあげたか」よりも、患者さんの変化や反応に目を向けると「本当にそれでよかったのか」について考えやすくなるかな、と思います。

 

私自身の経験でいうと、60代の終末期患者さんの清拭をしていたときのことが印象的です。

その患者さんは、腹部大動脈瘤で、若い頃手術をなさったことがあったんです。

「今、がんで苦しむくらいなら、その時に死んじゃえばよかったなー」とぽつり。

「そう思うんですね」くらいしか言えなかったんです。

 

「そんなことないよ、生きてくれててよかったよ」とは言えるはずもないんですけど…。

 

でも、私が背中を拭いていた手に対して「あんたの手あったかいなー」って言ったんです。

そういう話をしたタイミングだからこそ、人の手のあたたかさをいつもと違う感覚で受け止めてくださったのかなと、不思議な感覚になりました。

何も言えないけど、その場にいることができてよかったと感じました。

 

患者さんと会話をしている武見さんの写真

 

武見:そのとき、一つケアができたんじゃないかなって。

「生きること、死ぬこと」を目前にして考えている人だからこそ、人のあたたかみを感じられる瞬間がその方にはあったのだと思います。

あたたかさを感じてくれたことに意味があったのかな、と。

 

何もできないときでも、そこにいるだけでいいし、たとえば肩に手を置くだけでもいいのかもしれないと思いました。

 

 

5)“傾聴”“反復”は逃げ出さないための一つの方法

 

武見:死にたいと言われたらどうしたらいいか、に明確な答えはないと思っています。

だから、教科書に「傾聴」だったり「反復」と書いてあるのは納得がいきます。

それは逃げ出さないための最初の一歩を教えてくれることなんじゃないかなと。


 

 

6)自分の存在に自信をもってみる

 

白石:言葉で返さなきゃとか、具体的なケアで何かをしなきゃと考える看護師って、自分の存在の大きさに気づかずに、普段考える余裕がないまま、目の前のことでいっぱいな人が多いのではないかと。

「そこにいるだけでいい」とは、自分ではなかなか気づけないんです。

 

武見:よく学生が「私は何もできなくって、そばにいただけなんです」と報告に来てくれるんですけど、それがケアなんじゃないの?って。

「え、何もできないと本気で言ってるの?」って(笑)

 

何もできないと思った時は、そばにいてくれればいいと思います。

逃げ出しちゃったりしたら、そこでその言葉を発した患者さんは救われない。

看護師も、後でつらくなります。

だから「そばにいるだけでいい」。自分の存在の大きさに自信をもってほしいですね。

次回に続きます)

 

撮影・編集:坂本綾子(看護roo!編集部)

※編集部注:インタビュー中の事例は個人情報保護に十分配慮して記載しています。

 

インタビュー後編

腕の中で患者さんを看取った衝撃。そして再生|がん看護専門看護師インタビュー

 

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