在宅を望む本人と入院望む家族、どちらに立つ?|廣橋猛の「二刀流の緩和ケア医」

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

猛(永寿総合病院

 

アメリカのトランプ大統領が「アメリカファースト」を掲げ、様々な新しい政策を繰り出しては、波紋を広げています。東京都の小池百合子知事が初登庁時の職員への訓示で強調したのは「都民ファースト」でした。今回、緩和ケア医として私が掲げたい公約は「本人ファースト」です。

 

「これから、どこで、どのように過ごすか」というテーマ。終末期、もしくはその状態が迫る癌患者を診療している医療者であれば、誰もがそれを考えざるを得ない事態に遭遇するではないでしょうか。そして、これは癌患者だけに限りません。治癒困難な病気を抱える全ての患者や家族にとって、大きな問題です。

 

先日、このようなことがありました。緩和ケア外来に通院されていた癌患者が、急激な体力低下を実感され、不安に感じて相談に来られました。病状的には予後も限られてきており、そろそろ緩和ケア病棟へ入院されてもよいし、まだ自宅で過ごしたいならば在宅医療を受けた方がよいとお話ししました。

 

本人は在宅医療を受けてでも、もう少し自宅で頑張りたいという気持ちを表明されました。一方で家族は、介護者が不在のため一人で過ごさせる時間があり不安であるという理由から、入院させたいという気持ちを示されました。

 

似たような状況として、次のような場面によく遭遇しないでしょうか。入院されている終末期の癌患者が、比較的苦痛症状は落ち着いているが、体力は低下しつつある状況。本人は自宅に帰りたいと希望しているが、家族は介護が難しいからと退院に難色を示すケース。

 

いずれも本人は自宅で過ごしたいと希望しているが、家族は入院させたいと考えています。このようなとき、医療者はどうすればよいのでしょうか。

 

一番良くないのは、先に家族とだけ話をして外堀を埋めておくことです。「この状態では自宅で過ごすのは無理でしょう。介護だって大変ですよね? 本人には『もう少し良くなって帰れるように頑張りましょう』とお話ししておきます」と話が済んでいて、本人には帰れるように希望を残しておく方法。もちろん、良くなることはないのに。自宅での介護など考えられない家族も確信犯になります。これ、人権侵害だと思いませんか?

 

本人が示した意思をかなえることを最優先に

医療における最も大切な権利の一つに、自己決定権があります。患者は自分のことを知り、自分で決めることが権利として定められています。当たり前のことです。でも、この終末期の療養の場を決める意思決定において、しっかりと守られているでしょうか。

 

医療者はまず患者と家族と一緒に、今後どのように過ごすかの相談を行う必要があります。どちらかだけの味方になるべきではありません。そして、今後どのようになっていくかという情報を伝えつつ、患者がどう過ごしたいと考えているか、家族がどう過ごさせたいと考えているかの気持ちをみなで共有することが大切です。まず、ここからです。

 

患者と家族の気持ちが共有できたら、それぞれの想いを整理していきます。患者が自宅で過ごしたいという希望を実現するために、自宅で介護の支援を受けられる具体的なプランをお話ししてみてもよいでしょう。どのようにすれば自宅で過ごせるか、という提案をしてみます。一方で、不安や負担に感じる家族の気持ちを知って、患者がどう考えるかという心の揺れにも気を配ります。家族がそこまで心配しているのであれば、外泊を繰り返すのでもよいかなと考え直す患者もいるかもしれません。

 

そして、ここで「本人ファースト」です。本人が明確な意思表示をしている以上、まずそれをかなえるためにはどうしたらよいか、という発想から入るべきなのです。もちろん現実的に難しいこともあるのですが、それでもまずは「本人ファースト」です。そこから話し合いを始めて、全員で考えて方針を決定していく作業に意味があります。ちなみに、患者本人が自分の意思を表出できない病状のときは、次にその意思決定を代理する誰かを決めておく必要があります。

 

本人の意思を尊重した治療や療養が最期まで続けられたという事実は、その方を亡くされた遺族にとっても大きな支えとなります。本人が望むようにさせてあげることができた、という保証は満足感にもつながります。

 

少し前に、自分が在宅医療で看てきた慢性疾患の患者が急に亡くなりました。でも、以前から本人は自宅で苦しまずに逝きたいという意思を表出されており、ご家族とも共有することができました。そのため、もちろんご家族は急な最期にショックは隠しきれない様子でしたが、その一方で本人が望むように最期まで自宅で苦しまずに看られたという安堵の気持ちをお示しくださいまして、そのおかげで診てきた私も救われたのです。

 

まずは本人の気持ちや希望がどうか。本人の意思を大切にしましょう。

 

「本人ファースト」ですよ。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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