私たちの情報、どこまで患者さんに話す?

こんにちは、依里楓です。水商売を卒業して、2年目看護師も終盤に差し掛かりました。パニック障害と鬱病と一緒に生活しています。

 

患者さんとの会話の中で、「あなたどこに住んでるの?」「どこの学校を出ているの」などなど、看護師自身の情報を訊かれて、どこまで話すべきか困った経験、看護師ならだれにでもあるでしょう。特に地方の病院では、曖昧に答えようとしても世間が狭すぎて「ああ!あのアパート!」なんてなってしまうことも。

 

今回はそんな、看護師が話すべきことのボーダーラインについて考えてみようと思います。

 

 

元キャバ嬢ナースのとある視点

Vol.14 私たちの情報、どこまで患者さんに話す?

経験を話すことでの患者さんの安心感

先日、女性の大部屋の中のおひとりが組織診のために検査室に呼ばれました。

いつもカーテンを開けて、病気のことから私生活までオープンにしている4人で、常に女子会の雰囲気がただよっており、組織診に呼ばれたその患者さんは「あれ痛いから嫌なのよ~」とのお言葉。

 

下世話な話もよくしている方々だったので、皆が「分かる!」という中、私も「私も子宮頸がん疑いでおまたの中の組織診したの!超痛かった、麻酔が!」と言うと部屋中が「それそれ!結局麻酔が痛いのよね!」と笑いに包まれました。

 

全員癌患者の方なので、「それで結果は?」と訊かれた際には「ひみつ」と答えたのですが、組織診を受ける患者さんはどことなく安心した様子で、無事検査にお連れすることができました。

 

私の、最悪の失敗

もうひとつエピソードがあります。

 

私は現在、鬱病の治療薬が胎児への催奇形をもたらす可能性が高いため、妊娠・出産ができません。

薬の飲み始めは鬱状態があまりにひどく、医師の説明を聴ける状況ではなかったのですが、少し元気になった頃に薬の添付文書を読んで戦慄すると同時に、私は女として欠けているのか、どうして私なのか、なぜ他の人には普通にできることが私にはできないのか、と延々とベッドの中で考えていました。

 

職場復帰をして少し経った頃、白血病で緊急入院になった30代の女性の患者さんがいました。彼女は元々不妊治療をしていたのですが、治療をすれば副作用により一生子どもができない可能性があると医師から説明を受けたことで、治療を迷っていました。

 

「女に生まれたんだから、せめて子ども産みたいじゃない」彼女が私にそう話してくださり、さらに「子どもを諦めるか自分の命を諦めるかなんて選べない」と続けました。私は、できるかできないか分からない子どもを待つより彼女自身に生きて欲しいと、養子縁組の制度もある中、実の子どもにそこまでこだわる必要がどこにあるのかと言いたかったけれど、自分の経験を振り返ると彼女に何も言えませんでした。

 

その患者さんのご家族が少しでも前向きになれるようにとがんサバイバーの方を面会に呼んだり、何とか皆で彼女を説得しようと努力している間、私は、「私も子どもを産めないので、お気持ちは少しお察しできます」と、彼女に言えないまま、時間だけが過ぎていきました。

 

言ってしまったら、それは看護師と患者の関係ではなく、患者同士の関係になってしまうと思ったのです。私がいつも傍に居られるわけでも、チームの看護師でもないのにそんなことを言って、そして彼女が辛い治療を選択して発熱や粘膜の激痛に耐える中、中途半端に経験を話しただけの、看護師でも友達でもない、ただの無責任な「誰か」になってしまうのが怖かったのです。

 

ご本人が入院している間、御家族は何度も医師への説明を求め、さらにセカンドオピニオンを受けるために奔走しました。

 

そして彼女は、ある日突然急変して、急変から40時間で死亡しました。

 

「子どもを産みたい」彼女にとって治療を迷う要因はそれだけでした。

あの時私が、子どもを産めない苦しさを理解しつつも、子どもの有無以前に彼女自身の命が大切であることをもっと強調すれば、彼女の気持ちが変わったかもしれない。もっと早く治療を始めていられれば、彼女は死なずに済んだかもしれない。

 

100%大丈夫、なんて保証のない医療の中で、看護師の職業倫理に則り、患者-看護師関係を保とうとしたことは間違っていなかったはずです。

しかし彼女のことを考えた時、職業倫理を超えてでもひとりの人間として助言を行うべきだったのではないかと、今でも迷いと後悔が綯交ぜになっています。

 

結局、何が患者さんのためになるのだろう

怪我や入院をしたことがある看護師もたくさんいると思いますし、そうでなくとも、患者さんの境遇と自分の経験が重なることは少なからずあると感じます。

病院のスタッフの中で一緒に過ごす時間が一番長い看護師だからこそ、患者さんを気遣わなければならない場面や、看護師の職業性と自分自身の人間性の中で悩むことも多いはずです。

 

そんな時に私達看護師が優先すべきことは何なのか、今一度改めて考える機会を持てたらと、私は、私自身の苦い経験を通して感じています。

 

【著者】依里楓

東京から2時間くらいの場所にある総合病院の内科系病棟で働く看護師。水商売をしていました。

ブログ:プロセスレコード

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