身体拘束実施の病院は9割、介護施設は4割―虐待と安全のはざまで揺れる医療者

日本病院協会の調査結果から、病院の9割および介護施設の4割で、患者や利用者に対して身体拘束が行われていることがわかりました。

 

高齢者に対する虐待や身体拘束のニュースに注目が集まる中、患者の安全を守りつつ治療を行う病院において、より一層、拘束を行わなければならない状況にあることが浮き彫りになりました。

 

身体拘束11項目(*)のうち1つでも実施していると回答したのは、医療保険適応の病床では9割超、介護施設では4割でした。両者の中間的な位置づけである介護療養型医療施設は、8割程度となっています。

 

多くの施設で実施されていた拘束内容は「手指の機能を制限するミトン型の手袋着用」「ベッドの四方を柵や壁で囲む」「Y字型抑制帯・腰ベルト・車椅子テーブル」などです。

 

 

「四肢拘束」より「監視」に強い抵抗感

また調査では、身体拘束に対する医療従事者の考え方も調べています。

 

それによると、「ミトン型の手袋着用」や「Y字型抑制帯・腰ベルト」などはやむを得ないと考える施設が多い一方で、「自分の意思で出られない居室に隔離する」「テレビ監視モニタを用いる」「鈴などの音の出る装置を体に装着させる」といった監視につながる行為については、理由を問わず避けるべきとの意見が多く、実際に行っている施設も少ないことがわかりました。

 

このことから、患者や入所者に対する“監視”行為は、医療現場では四肢の拘束以上に拒否感が強いことがわかります。

 

 

介護保険では身体拘束は“原則禁止”

介護施設で身体拘束が少ない低い理由の1つに介護保険制度があります。

 

介護保険は2000年の施行時から、「緊急やむを得ない場合を除き、身体拘束を行ってはならない」とし、身体拘束を行わないことを大原則として打ち出しています。

 

しかし見方を変えれば、介護保険の適応を受けている介護療養型医療施設においても8割で拘束が行われているなど、病院において身体拘束を完全になくすことがいかに難しいかを物語っているともいえます。

 

 

アンケートでも「必要であれば行うべき」が多数

看護roo!が行ったアンケートでも「必要であれば行うべき」という意見が大半です。

 

寄せられたコメントの多くは「命を守るために必要な時もある」というもの。

 

「安全」と「権利」を天秤にかけて、ギリギリの判断で患者の安全を優先し、身体拘束に踏み切っている医療現場の様子が浮かび上がります。

 

実際問題として、夜間など限られた看護師で大人数の患者を見守る場合、身体拘束を行わなければ、とても患者の安全を守ることができないという現実があります。

 

 

“虐待”と“安全”のはざまで揺れる医療現場

また、慢性期の利用者が多い介護施設と比べて、急性期が多い病院では、患者が興奮状態になることのリスクがより高いということも考えられます。

 

身体拘束が“虐待”として社会問題になる一方で、身体拘束をしないことによる事故で医療機関が責任を問われることも、まだまだ多いのが現状です。

 

単純に拘束ゼロとうたっても、慢性的な人手不足や拘束しないことによるトラブルの責任など課題は山積しています。

 

何が“患者の安全”で何が“虐待”か――医療現場では難しい判断が求められています。

 

 

【介護保険の適応を受ける施設で禁止される拘束行為】

(*)厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」まとめ

 

1.徘徊しないように、いすやベッドに身体を縛る

 

2.転落しないように、ベッドに身体を縛る

 

3.自分で降りられないように、ベッドを柵で囲む

 

4.点滴などのチューブを抜かないように、身体や腕を縛る

 

5.点滴のチューブを抜いたり皮膚をかきむしらないようにミトン型の手袋をつける

 

6.車いすからのずり落ち・立ち上がりを防ぐ為に、Y字ベルトや車いすテーブルをつける

 

7.立ち上がることができる人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する

 

8.脱衣やおむつはずしをしないように、つなぎ服を着せる

 

9.他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに身体ををひも等で縛る

 

10.行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に飲ませる

 

11.自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する

 

【ライター:横井 かずえ】

 

(参考)

身体拘束ゼロの実践に伴う課題に関する調査研究事業(全日本病院協会)(pdf)

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