防護服は何のため? 除染は不要? 被ばく医療のポイント|「日本集団災害医学会総会・学術集会」より

国内外における災害時の医療や防災業務に携わるさまざまな職種が参加する集団災害医学会総会が、2016年2月27(土)~29日(日)に山形で開催された。東日本大震災以降、はじめて東北地方で開催された同学会の「21回日本集団災害医学会総会・学術集会」の様子をレポートする。


講演を行った明石真言氏

ミニレク30 放射線障害」では、医療者であれば知っておきたい放射線の基本的な知識および、被ばく医療についてのポイントを、明石真言氏(国立研究開発法人放射線医学総合研究所)過去の事例を挙げながら説明した。

明石氏は現在、同研究所の理事であり、2010年にアジアで初めて発足した「緊急被ばく医療支援チームREMAT (Radiation Emergency Medical Assistance Team)」の部長で、日本における被ばく医療の第一人者である。

 

まずはおさえておくべき放射線の基礎知識

生命にかかわる治療をまず優先させる

防護服は放射線被ばくを防ぐためのものではない

除染はデメリットになることもある

 

まずはおさえておくべき放射線の基礎知識

明石氏はまず基礎知識として、X線やCTなどで受ける放射線量、および自然界の放射線量について説明した。

 

先に放射線量を表す単位について説明すると、「Sv(シーベルト)」とは「ある期間に被ばくした量の合計」を表す単位であり、「Sv/時」とは、「その場所で1時間いた場合に被ばくする量」を表している。ちなみに、この毎時をあらわす「/時」は、報道などでは通常、省略されていることも多い。なお、1Sv=1,000mSv(ミリシーベルト)=100万μSv(マイクロシーベルト)である。

 

明石氏によると、X線の実行線量はだいたい0.1~3.3mSv、CTでは2.4~12.9 mSvだという(下図参照)。

 

これに対し、自然界の放射線量は、東京都で0.03μSv、富士山頂では0.15μSvであり、東京~サンフランシスコ間の航空機では7μSvと、当然ながら、宇宙に近くなるほど放射線量は上がる。ちなみに国際宇宙ステーションの船外活動だと67μSv、国際宇宙ステーション内でも24μSvである。

 

医療従事者、特に放射線技師などであれば、一般よりも放射線を浴びる機会も多く、そのため、医療法実効線量限度が定められている(下図参照)。

なお、福島第一原発事故での緊急作業従事者の実行線量限度は、100mSvとされており、明石氏によると「250mSvに変更しようとする動きが厚生労働省にある」という。もちろん、それについては十分なデータを検証した上でのことであると続ける。

 

生命にかかわる治療をまず優先させる

次に、被ばく医療についての説明に進んだ明石氏は、「放射線被ばくの治療より、生命に危険のある外傷や熱傷、疾病などの治療をまず優先する」という被ばく医療の原則を紹介し、その理由として以下の3つを挙げた。

 

・放射線による症状は、前駆症状を除いて被ばく後すぐには出ない

・被ばく・汚染だけで緊急に治療が必要になることはない

・汚染があっても緊急搬送は可能である

 

ちなみに、ここでいう前駆症状とは、急性放射線症の前駆期の症状で、頭痛下痢などの症状を指す。しかし、これらの症状は一過性のものであると明石氏は説明した。

 

上記のような理由は、過去に実際に起こった事故により、すでに実証されているとのことで、たとえばロシアのサロフで1997年に起きた臨界事故では、41歳男性が全身に被ばくし、飛行機や車両で病院まで10時間かけて搬送されている間、前駆症状は出たものの、話したり座ったりすることに何も問題がなかったという。

 

防護服は放射線被ばくを防ぐためのものではない

基本的に、被ばくした患者が搬送されるのは緊急被ばく医療機関である。
そういった医療機関や搬送に携わる可能性のある機関では、防護服が準備されているが、明石氏は「防護服は放射性物質に直接触れないためのもので、必ずしも放射線被ばくを防ぐためのものではない」という。

 

放射線には、α(アルファ)線β(ベータ)線γ(ガンマ)線X線中性子線があり、それぞれに透過力が違う(下図参照)。

日本原子力文化財団:エネコチャンネルより

 

通常、医療施設などで準備されている防護服は、α線と低エネルギーのβ線には有効だが、ほとんどのγ線には無効であるという。

γ線を通過させないものもあるが、明石氏によると、そういった防護服には鉛が使用されており、かなり重く動きにくい。そのため、熱中症を起こすなどの弊害の方が大きくなるといい、明石氏は「防護服を着る意味を考えて選ばないといけない」と強調した。

さらに、「個人線量系は、汚染させると意味がない。そのため必ず防護服の内側につけること」と付け加えた。

 

除染はデメリットになることもある

最後に、放射線により汚染された患者の扱いについて、「汚染の有無にかかわらず、生命にかかわる治療を優先させること」と再度、被ばく医療の原則を紹介。

 

基本的に汚染された患者には除染が必要だと思われがちだが、これについて明石氏は「状況によりけりだが」と断った上で、除染はデメリットになることもあると述べる。

 

そもそも、除染は「放射線の吸収と内部沈着の低減」、「吸収した核種の除去と排泄の促進」、「汚染の拡大防止」を目的に行う。しかし、明石氏によると、除染時に皮膚をこすることで皮膚障害を起こしてしまったり、細かいしわなどから吸収され、内部被ばくになることがあるという。

そのため、「無理に除染をするよりも、毎日シャワーで流す方がいい場合もある」と話し、「汚染された患者の除染については、ぜひ専門家に相談してほしい」と会場に訴え、講演を終えた。

 

【看護roo!編集部】

 

 

2016年2月27(土)~29日(日)
第21回日本集団災害医学会総会・学術集会

【会長】

森野一真(山形県立中央病院)

 

【副会長】

石井 正(東北大学病院)

眞瀬智彦(岩手医科大学)

 

【会場】

山形ビッグウィング(山形国際交流プラザ)

 

【学会HP】

日本集団災害医学会

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