妊娠を喜べない看護師が多いってホント?看護師の妊娠・出産とマタハラの現実

データで見る!看護師の妊娠・出産

 

【目次】

 

職場に妊娠を報告しにくい現実

小児科という、子どもの命に敏感であるはずの職場の対応は最後まで冷たかった。当直を減らしてもらえるよう申し出たが、『なぜ妊娠した人ばかりがかばわれないといけないんだ』と周囲に反発された」

(出展)『働く女性とマタニティハラスメント』杉浦浩美

 

これは、ある医師が受けたマタハラのエピソードです。

今、「マタハラ」が何かと話題になっています。おめでたいはずの妊娠が、仕事を持つ女性にとって、職場への影響を考えると「素直に喜べないものになっている」といいます。

 

日本労働組合総連合会は、過去5年以内に在職時に妊娠の経験がある女性654人(居住区:全国、年齢:20~40代)を対象に、「職場への妊娠報告をためらうことなくできたか?」の調査を実施しました。すると、34.5%の人が「ためらいがあった」と回答しました。

 

看護師はどうでしょうか。看護roo!では、就業中に妊娠を経験した看護師さんに対し、同様の質問を行いました。

 

看護師の職場への妊娠報告、ためらうことなくできた?

(出展)世論deナース「職場への妊娠報告、ためらうことなくできた?」

 

「ためらうことなく報告できた」と答えた人は34%。何らかの理由で「ためらいがあった」という人は、66%にのぼりました。

看護師の職場は「妊娠を報告しにくい職場環境」であることが浮き彫りとなりました。

 

妊娠が報告しにくい理由は「病気じゃない」から? 

看護師を含め、なぜ女性たちの多くがここまで「職場への妊娠報告」をためらうのでしょうか?

 

『働く女性とマタニティハラスメント』の中で、著者の杉浦浩美氏は、被害女性たちの証言をもとにこう分析しています。

 

女性であるがゆえの身体的トラブルが、個人の責任の問題に変換されている。妊娠期の症状を自己管理能力と結びつける職場側の対応によって、母性保護制度の利用の申し出が「しにくいもの」となっている。

(出展)『働く女性とマタニティハラスメント』杉浦浩美著

 

特に看護師が「報告しにくい」と感じている理由には、「慢性的な人手不足」や、冒頭の医師のように日頃から重症患者と接している医療職ならではの、「妊娠は病気ではない」という価値観によるものが考えられます。

 

看護師の3人に1人が切迫流産を経験

前述の杉浦氏によると、「女性は妊娠判明後も『母性』を強調しないという平等化戦略を引き続きとろうとしている。それによって、しばしば母体が危険にさらされている」と言います。

そして妊娠した看護師にとって問題となっているのが、「切迫流産」です。

 

日本医療労働組合連合会が実施した「看護職員の労働実態調査」(※PDF)では、看護職員の切迫流産率が、女性労働者全体(17.1%)の2倍近く(34.3%)にあたることがわかっています。つまり、看護師のおよそ3人に1人が切迫流産を経験していることになるのです。

 

また、看護師に対するアンケートからは、妊娠中の看護師がもっとも辛いと感じていた業務は「夜勤や準夜勤(37%)」ということがわかりました。

 

妊娠中の看護師業務で一番つらかったのは?

(出展)世論deナース「妊娠中の看護師業務、あなたが一番つらかったのは?」

 

このアンケートでは「感染リスクを心配されて師長に訴えたけれど、『気をつけてやって』と言われた」「1日立ちっぱなしでお腹が痛いのに、さらに立ったまま時間外勤務をこなし辛かった」という意見が寄せられており、トラブルの原因が看護職ならではの過酷な労働環境にあることは否めません。

しかし、妊娠中の看護師にこうした「業務上の配慮」をしないことは、実は、マタニティハラスメントにあたるのです。

 

そもそもマタニティハラスメントとは

マタニティハラスメント(マタハラ):働く女性が妊娠・出産などをきっかけに職場で精神的・肉体的な嫌がらせを受けたり、妊娠・出産を理由とした解雇や雇い止め、自主退職の強要で不利益を被ったりするなどの不当な扱いを受けること。

 

マタニティハラスメントは、通称「マタハラ」と呼ばれ、セクハラやパワハラとともに女性を悩ませる3大ハラスメントの一つとされています。

日本医療労働組合連合会の調査では、在職時に妊娠の経験がある女性の4人に1人がマタハラ被害を受けたと回答しており、実際の被害者数は17.5万人に及ぶという推算もあります。

 

それ、マタハラかも?

NPO法人マタハラNetでは、パターンを「いじめ型」「追い出し型」「パワハラ型」「昭和の価値観押しつけ型」の4つに分類し、それぞれの特徴をまとめています。

 

⚫️いじめ型・・・「迷惑なんだけど!」「妊婦は休めていいよね!」「やる気ある?」など、業務をカバーする同僚の怒りが組織ではなく労働者に向けられてしまう。

 

追い出し型・・・「残業ができないと他の人に迷惑がかかるから」「妊婦を雇う余裕はないから」などと労働から排除される。もっとも多い泣き寝入りの典型とされる。

 

パワハラ型・・・「定時で帰る正社員なんていらない」「妊婦でも甘えは許さない」など、妊娠や育児を理由にした時短勤務や休業などを許さず、労働を強制される。

 

昭和の価値観押しつけ型・・・・「子供のことを一番に考えなさい」「君の体のことを心配しているんだ」「旦那の稼ぎがあるからいいじゃないか」など、性別役割分業の考え方を押し付ける。

 

難しいのは、これらが必ずしも「悪意」を持って行われているわけではないということ。また、マタハラは被害者が、妊娠・出産・育児という極めて不利な条件下で行われるため泣き寝入りが多く、露見しにくいのも特徴です。

しかし、実は対抗策をしっかりと認識していることで、未然にマタハラを防ぐことも可能なのです。

 

妊娠したら―労働制度の基礎知識

マタニティハラスメントを未然に防いだり、すでに起こってしまったマタハラに対処したりするには、被害者、そして企業側がマタハラへの認識を高める必要があります。

日本労働組合総連合会では、漫画でわかりやすくマタハラを解説する「連合 マタハラ手帳」(※PDF)を作成しています。このマタハラ手帳はweb上でも閲覧できます。

 

また、妊娠・出産における労働の制度を知って賢く利用するのも一つ。代表的な制度を以下にまとめました。

 

【妊娠期〜産後1年間】

・時間外労働(1日8時間、または40時間/週を超える場合)や深夜業務ができない場合に、それらの制限を申出・請求することができる。

・妊婦検診を受けるための時間を確保したり、ラッシュを避けるために通勤時間をずらしてもらうことを申出・請求することができる。

 

【産前6週間、産後8週間】

・パート・アルバイトなどを含め、全ての女性が休業を取得できる。

 

【産後】

・育児休業の取得は、パート・アルバイトなどであっても、一定の要件を満たせば取得できる。

 

【その他休業以外で取得できる制度】

・育休産休期間中の社会保険料の負担免除。

・短時間勤務制度により、所定労働時間を1日原則6時間にできる制度。

・残業の制限ができ、始業から終業までの時間を超える労働を制限できる制度。

・時間外労働の制限、夜勤の免除。

(参照)「母性保護などの制度」厚生労働省 ※PDF

 

※ 以上について詳しく知りたい方は、都道府県労働局雇用均等室へご連絡ください。電話番号は各都道府県によって異なります。(匿名でOK・相談無料)

※ NPO法人マタハラNetでも、さまざまな体験談が掲載されています。

 

加害者・被害者にならないために

マタハラに限らず、ハラスメントで注意したいのが、無自覚のうちに加害者や被害者になってしまうのを防ぐことです。それには、以下のことに注意する必要があります。

 

⚫︎加害者にならないために

マタハラの加害者は男性だけでなく女性も多いということ、そして長時間労働や深夜残業の多い働き方が、マタハラの温床となっていることを知っておきましょう。

 

加害者が男性のときには、女性の出産における知識が乏しいことが原因の一つです。

また女性の場合には、「それぐらいで流れる(流産する)ならもともとダメな子よ」「私は育児休暇を取らなかったけどね」などと、相手の身体的、精神的状況を軽視し、持論を押し付けるパターンが多いといいます。

 

しかし、妊娠による身体への影響はそれぞれです。ある人が出産直前まで夜勤をこなせていたからといって、すべての人に可能なわけではありません。

妊娠は、初期のうちに打ち明けられることができれば、組織として早くから人員確保に着手できます。また、職場からの配慮が産後の復帰率を高め、結果として組織にメリットをもたらすことにもつながるのです。

 

⚫︎被害者になっているかも?と思ったら

被害者には大きく、労働環境の改善を訴えて断念したパターンと、自分自身が母親になる身体を受け入れられないパターンがあります。

 

前者は、被害者が相談しても問題を放置されたり、更に被害が拡大したりというケースです。外部に訴えても相談窓口の対応が不十分という指摘もあり、未だ泣き寝入りを余儀なくされる被害者も少なくありません。ただ、あくまで法律は働く妊婦の味方です。上記の法律を利用し、理路整然と訴えることで現状を変える一歩となります。

 

また、後者はたとえ切迫早産になっても、「自分が無理をしたから」と自己完結してしまいます。これは、むしろ労働できない自分に否があるという考えが根底にあるからです。しかし、これでは何かのアクシデントがあっても組織は本人に責任をとらせようとするでしょう。泣き寝入りをしないためには、まずは自分自身が労働する体から産む体に変化している現状を受け止める必要があります。

 

「マタハラ」において、日本はまだまだ後進国です。しかし、今年NPO法人マタハラNet代表の小酒部さやか氏が米国務省による「世界の勇気ある女性賞」に選ばれるなど、その実態が明るみに出ることで少しずつですが前進しています。

現在日本では、20人に1人の人が看護職に就いています。まずは、看護職が理解を深めることが、「マタハラ」をなくすきっかけとなるのかもしれません。

 

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