呼吸困難はなぜ起きるの?|ガス交換に関するQ&A(3)

『からだの正常・異常ガイドブック』より転載。

 

[前回]

ガス交換がうまくできないと体はどうなる?|ガス交換に関するQ&A(2)

 

今回は呼吸困難~心肺停止に関するQ&Aです。

 

山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長

 

〈目次〉

 

呼吸困難はなぜ起きるの?

呼吸困難とは、息が苦しい、呼吸が十分にできないという自覚症状です。

 

呼吸数が多くなる、1回換気量が少なくなっている、苦しそうな顔をしているなど、他覚的に努力呼吸をしている状態がみられることがあります。ほとんどの場合、酸素欠乏の状態になっているため、病態生理学的にはPaOが減少し、PaCOが増加した状態を呼吸不全としています。

 

肺胞での換気量が減り、同じく肺胞でのガス交換に障害が生じると、呼吸困難を引き起こします。重症の気管支喘息や肺気腫などによる呼吸困難は、気道での流量の低下が原因で起こります。PaCOは上昇し、呼吸性アシドーシスになります。間質性肺炎、肺線維症などでは、肺胞でのガス交換に障害が生じます。

 

MEMO努力呼吸

体が必要とする酸素を吸入するために、胸郭を大きく動かして呼吸をしている状態です。吸息時に翼が広がる鼻翼呼吸、頸部や肩の呼吸補助筋を使う肩甲呼吸なども、努力呼吸の一種です。

 

MEMO間質性肺炎(かんしつせいはいえん)

肺胞を取り囲んでいる薄い壁(間質)に炎症が起きた状態を間質性肺炎といいます。間質には、ガス交換を行うための毛細血管が張り巡らされています。炎症が進むと肺が硬くなって膨らみが悪くなり、酸素の吸収効率が悪くなります。

 

MEMO肺線維症(はいせんいしょう)

塵肺(じんぱい)、膠原病(こうげんびょう)、特発性間質性肺炎などが進行し、肺が硬く縮んで線維化し、ガス交換能が大きく低下した状態です。

 

体位によって息苦しくなったりするのはなぜ?

最も呼吸運動を行いやすいのは立位や座位です。重力の作用で腹部内臓が下がり、横隔膜の動きが大きくなるため、呼吸運動が大きくできるからです。

 

また、肺のうっ血が起こりにくくなるため、肺での換気面積も大きくなります。呼吸困難を起こした患者が起座呼吸をすると呼吸が楽になるのはこのためです。

 

仰臥位や側臥位では、体重による圧迫で肺にうっ血が起こりやすくなります。また、肋骨や胸骨の動きが制限されます。加えて、腹部内臓によって横隔膜の動きがある程度制限され、肺での換気量は減少してしまいます。

 

呼吸機能が低下している場合に同じ体位を取り続けると、体の下側になった部分に分泌液が停留しやすくなり、肺胞が押しつぶされた状態になる危険性もあるため、注意が必要です。

 

呼吸が止まると数分で心臓も停止するのはなぜ?

血液中に含まれている酸素の量は、最大でも1Lほどです。ヒトは、安静時でも1分間に300mLの酸素を必要としますので、呼吸によって酸素が供給されない場合、3分程度で酸素を使い切ってしまいます。

 

呼吸停止から4分ほど経つと心筋が酸欠になり、心臓が停止します。その結果、血液の循環がなくなり、脳細胞は次第に壊死し始めます。

 

ドリンカーの救命曲線によれば、呼吸が停止してから4分経つと救命率は50%になり、8分経つと蘇生が不可能になります(図1

 

図1ドリンカーの救命曲線

ドリンカーの救命曲線

 

 

COLUMN口すぼめ呼吸は呼吸困難の対処法

呼吸の基本は、十分に息を吐ききることです。呼息が不十分だと吸息が十分に行えず、呼吸困難が助長されます。しかし、肺や気管支に障害があると、十分に息を吐ききることが難しくなります。このような時には、口すぼめ呼吸を行うと楽になります(図2)。

 

口すぼめ呼吸とは、口を閉じて鼻から息を吸い、口をすぼめてゆっくりと少量ずつ息を吐く、という呼吸法です。口をすぼめずに息を吐くと、気道内は陰圧になり、肺胞の細気管支が塞がって空気が出にくくなります。口をすぼめて少しずつ息を吐くと、気道内は陽圧になり、気管支が閉塞しないので、十分に空気を吐ききれます。

 

図2口すぼめ呼吸

口すぼめ呼吸

 

[次回]

循環とは何だろう?|循環器系に関するQ&A(1)

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のためのからだの正常・異常ガイドブック』 (監修)山田幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版

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