ミッションは「100人のハイチ人看護師を育てること」!?―国境なき医師団ナースリレーコラム

国境なき医師団ナースリレーコラム

ハイチ人ナースの育て方

Vol.1 ミッションは「100人のハイチ人看護師を育てること」!?

 

【筆者】看護師 京寛美智子

テント病院内で子どもの患者をケア

 

2010年1月、ハイチで大地震が発生したのを覚えていますか?

約370万人が被害にあい、死者は31万人にのぼりました(※外務省「ハイチ共和国基礎データ」より)。

 

そのハイチで、私は3ヶ月間、国境なき医師団(MSF)の看護師として活動しました。

そこで学んだことのひとつに「人の育て方」があります。

 

ハイチで学んだ「人の育て方」には、国境を越えて共通することがありました。私が日本で看護師をしていたときに感じたのと同じことや、これはどこでも通じるな、と思う場面がたくさんあったのです。

一方で、その国の文化や習慣、教育レベルなどに応じて、工夫することも大切です。

 

これから数回にわたり、ハイチ人看護師育成の中で学んだことを共有できればと思っています。

 

急変してものんびりしてるナースってどういうこと?

現地スタッフの育成は、想像をはるかに超えて大変でした。

まず、日本とハイチとでは、看護のレベルにかなりの差があります。日本の病院で当たり前のように確実に行われていることが、私の赴任したハイチのコレラ治療センターでは、行えていませんでした。

 

たとえば意識不明の重体で搬送されてきた患者さんへの対応が、軽症の患者さんの時と同じ速度でゆっくりと行われたり、患者さんの急変があっても、すぐに救命処置にかかる様子もなく準備もゆっくりだったり、日本の病院ではありえないことをよく目にしました。

 

看護記録に関しても、患者さんの様子を記録することはなく、バイタルサインの記録さえも忘れられていることがありました。また、看護教育の前提にある基礎教育の水準も低く、1分間に20滴イコール15秒で5滴といった簡単な計算が理解されないこともありました。

 

MSFのテント病院内の様子

MSFのテント病院内の様子

 

看護師の輸液管理が生死を決めるコレラ

コレラの治療は、補液が最も重要です。抗生剤を用いる場合もありますが、補液が上手く行えなければ、死に至ります。

 

別の言い方をすれば、コレラは、補液が上手くいけば、助かる病気です。

 

医療従事者は、患者さんの脱水のレベルを評価し、そのレベルに応じて補液の方法(経口・輸液)と量を決めます。脱水のレベルの評価は評価表を用いて行い、補液方法と量はプロトコルに基づいて決定します。

これらの評価・決定は主に看護師が行い、患者さんへの補液を管理します。脱水が回復し、患者さんが退院するまで、再評価を定期的に行い、輸液方法と量を見直すのも看護師の役目です。

 

そのため、看護の質が患者さんの回復を大きく左右します。

 

コレラの治療は輸液管理が重要

コレラの治療は輸液管理が重要

 

私の職務は、コレラの患者さんを一人でも多く救うため、国境なき医師団の治療プロトコルに沿った看護が行われるよう、ハイチ人看護師の指導をすることでした。

 

ミッション:100人のハイチ人看護師を育てよ

被災地支援での職務が「現地スタッフの指導」というのは、もしかすると意外かもしれません。

 

自然災害が起きたあとの医療援助というと、急性期の救急救命医療が想像しやすいと思いますが、今回私が参加したのは地震直後ではなく、その後の混乱・衛生環境の悪化によるコレラのアウトブレイクの対応です。

 

地震発生後半年を経ても、ポルトープランスの街には壊れた建物が残る

地震発生後半年を経ても、ポルトープランスの街には壊れた建物が残る

 

国境なき医師団では、医療や看護の質を高く保つため、外国人スタッフも多く派遣されますが、現地の医療スタッフがいなければ活動できません。そのため、私たち外国人スタッフは、現地スタッフの育成にも力を入れるのです。

 

首都ポルトープランスのコレラ治療センターに赴任した私の主なミッションは、そのハイチ人看護師約100人が行う看護活動の管理監督でした。

具体的には、「100人のハイチ人看護師の臨床実習の指導者」といったイメージでしょうか。

ハイチでいきなり100人をみることになった看護師の体験談に、これからしばしお付き合いいただけたら嬉しいです。

 


【筆者】京寛美智子(きょうかん・みちこ)

徳島県出身、看護師。

1998年、東海大学医療技術短期大学卒業。東海大学医学部附属病院での病棟勤務を経て、2005年より国境なき医師団(MSF)の活動に参加。シエラレオネ、スーダン、ナイジェリア、南スーダン、エチオピア、イエメンなど9度の派遣活動に参加。2011年には東日本大震災の緊急対応にも従事。2013年から2014年にはリバプール大学に留学し、国際公衆衛生学修士号を取得した。1976年4月7日生まれ。


 

【協力】国境なき医師団 日本

国境なき医師団(Médecins Sans Frontières=MSF)は、 中立・独立・公平な立場で医療・人道援助活動を行う民間・非営利の国際団体です。MSFの活動は、緊急性の高い医療ニーズに応えることを目的としています。紛争や自然災害の被害者や、貧困などさまざまな理由で保健医療サービスを受けられない人びとなど、その対象は多岐にわたります。

MSFでは、活動地へ派遣するスタッフの募集も通年で行っています。

(看護系の募集職種)正看護師手術室看護師助産師

看護roo!ポイントでも、国境なき医師団に寄付することができます。

 

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