薬物療法の患者指導

『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』より転載。
今回は薬物療法における患者指導について解説します。

 

加瀬美樹
新東京病院看護部

 

〈目次〉

 

 

薬物療法の患者指導

循環器疾患の薬物療法における患者指導には、患者さんの服薬アドヒアランス※1を向上させることが大切です。患者さん自身が主体となって治療に取り組んでいく体制をつくっていくことが重要とされています。

 

これまでは、ただ指示どおりに薬を飲むだけのコンプライアンス※2概念でしたが、今は患者さん自身が自らの意思で積極的に治療へと向かっていくアドヒアランスへと変わりつつあります。患者さんとのコミュニケーションのなかで、患者さんが自分の意思で薬を飲めるように導いていくことが医療者の役割といえます。

 

 

 

服薬アドヒアランスを向上させる方法

患者さんが、なぜ処方箋どおりに薬を飲んでくれないのかを考えてみましょう。

 

よくある例1 内服を忘れてしまう患者さん

内服を忘れる理由として考えられるのは、やはり飲み忘れが一番大きいです。どれだけしっかりと服薬指導をしても、内服を忘れてしまう患者さんはいます。

 

1日3回の処方薬の場合、昼の分を飲み忘れてしまうことが多いとされています。特に会社員や学生は、昼の休憩時間を慌ただしく過ごし、忘れてしまいがちです。

 

例えば、1日3回の内服から2回の内服へ変更したり、患者さんの生活スタイルに合った処方にしてもらえるよう医師へ相談してみましょう。

 

よくある例2 薬を飲みたくない患者さん

薬を飲みたくない原因はさまざまです。「飲まなくても痛くもかゆくもないから飲まなかった」「たくさんの薬を飲むと副作用が怖いので飲まない」などと言う患者さんに、循環器でよく使うアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)・アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬・β遮断薬の効能をいくら説明しても、処方箋どおりに内服してもらうことは難しいです。

 

例えば、頻脈に対してβ遮断薬でレートコントロール※3している患者さんには、「人間は走ると脈拍が速くなります。安静時も脈拍が速くなっていると心臓は疲れて心不全になります。体調がよくても心不全にならないためには、内服することが大切ですよ」というように、薬効だけではなく服用目的を伝えるとよいでしょう。

 

利尿薬は尿の回数が多くなるから、外出するときは飲まないという患者さんがいます。ラシックス40mgは半減期が35分、効果は1時間以内に発現し、6時間持続すると報告されています。体液貯留による浮腫、呼吸困難感の症状を防ぐための内服であることや効果持続時間も伝え、外出時には帰宅してからでもいいので、決められた回数を内服してもらえるよう説明します。

 


[memo]

  • ※1 アドヒアランス(上へ戻る
    指示されたことに忠実に従うというより、患者さんが主体となって、「自分自身の医療に自分で責任をもって治療法を守る」という考え方。「服薬アドヒアランスがよい」とは、薬を飲む意義をよく理解し、その必要性を感じてきちんと薬を服用するという意味。
  • ※2 コンプライアンス(服薬順守)(上へ戻る
    服薬に関して、患者さんがきちんと薬を飲むかどうかについて使われる。「コンプライアンスがよい」とは、きちんと指示どおりに薬を飲んでいるという意味。
  • ※3 レートコントロール(上へ戻る
    心房細動調律のままで心拍数をコントロールし、速くなりすぎないようにする治療法。

 


文献

  • 1)Antman EM,Cohen M,Bernink PJLM,et al.The TIMI risk score for unstable angina/non-STelevation MI.A method for prognostication and therapeutic decision making.JAMA 2000;284:835-842.
  • 2)池亀俊美企画編集:特集 「おさらい」で看護力UP! 3大疾患 総復習.循環器ナーシング 2015:5(3).
  • 3)内藤博昭医学監修,伊藤文代編:循環器看護ケアマニュアル 第2版.中山書店,東京,2013.
  • 4)百村伸一,鈴木誠編:慢性心不全のあたらしいケアと管理 チーム医療・地域連携・在宅管理・終末期ケアの実践.南江堂,東京,2015.
  • 5)佐藤幸人編著:CIRCULATION Up-to-Date Books 02 スペシャリスト集団になる! 最強! 心不全チーム医療.メディカ出版,大阪,2014.
  • 6)佐藤栄子編著:事例を通してやさしく学ぶ 中範囲理論入門 第2版.日総研出版,愛知,2009.
  • 7)木原康樹,森山美和子,広島大学病院心不全センター 他 編著:心不全ケアチーム構築マニュアル 広島発・チームの作りかたと地域連携の道のり.メディカ出版,大阪,2016.
  • 8)日本心臓リハビリテーション学会:指導士認定試験準拠 心臓リハビリテーション必携.日本心臓リハビリテーション学会事務局,東京,2011.
  • 9)Yancy CW,Jessup M,Bozkurt B,et al.2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure:a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on practice guidelines.Circulation 2013;128:e240-e327.

 


本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社

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