酸素4L/分以下では加湿をしないのは、なぜ?|呼吸ケア

『エキスパートナース』2017年3月号<バッチリ回答!頻出疑問Q&A」>より抜粋。
酸素加湿の必要性について解説します。

 

髙橋栄樹
浜松赤十字病院看護部看護師長

 

酸素4L/分以下では加湿をしないのは、なぜ?

 

低流量の酸素投与では、1回換気量に占める“配管からの酸素”の割合が少なくなるため、加温が必ずしも必要とされません。

 

〈目次〉

酸素加湿の必要性

最近では、ガイドライン等によって酸素加湿がすべてのケースに必要ではないとされています。

 

米国呼吸療法協会(AARC)では、上気道が正常であれば「経鼻カニューレで4L/分以下の酸素流量では加湿は必ずしも必要ない」1と記載されています。

 

また、日本呼吸器学会・日本呼吸管理学会では、「経カニューレでは3L/分まで、ベンチュリマスクでは酸素流量に関係なく酸素濃度40%までは、あえて酸素を加湿する必要はない」2と記載されています。

 

天然の加湿器である“鼻腔”

鼻腔は、血管の豊富な粘膜で覆われています。鼻粘膜は線毛を持つ線毛円柱上皮からなり、粘液を分泌する杯さかずき細胞が存在します。

 

鼻腔を通る空気は、鼻粘膜に豊富にある血管により温められ、湿った粘膜の上を通過する間に加湿されます。空気と鼻粘膜の接触する面積がかなり大きいため、空気の加温加湿が効果的に行えます。

 

したがって、人は天然の加湿器である鼻腔を介して呼吸をしているため、鼻腔が正常に機能している場合には、必ずしも酸素加湿を必要とはしません。

 

一方、気管挿管・気管切開下の場合では、口呼吸や鼻腔がバイパスされてしまい、天然の加温加湿が機能しないまま、肺に入ってしまいます。そのため、加温加湿器や人工鼻などによる加湿が必要になります。加温加湿器の場合は、相対湿度にも注意が必要です3

 

1回換気量あたりに占める供給酸素の割合

例えば「1回換気量(VT):400mL」「平均吸気時間(IT):1秒」の患者さんに、経鼻カニューレ3L/分の酸素を投与している場合では、配管から吸入する酸素流量は50mL、1回換気量として、補足する室内空気は350mLとなります。したがって、1回換気量に占める供給酸素の割合は「12.5%」となります(図1-①)。

 

次に、同じ患者さんで8L40%ベンチュリマスクを使用している場合では、図1の計算式から1回換気量に占める供給酸素の割合は「24.0%」となります(図1-②)。

 

図11回換気量に占める供給酸素の割合(例)

1回換気量に占める供給酸素の割合(例)

 

上記から、低流量やベンチュリマスク8L40%までの酸素投与では、1回換気量に占める供給酸素の割合は少なく、鼻腔周囲の室内空気を吸入する割合のほうが70~80%台と多いことがわかります。つまり、酸素加湿よりも室内の湿度を十分保つほうが効果的であると言えます。

 

実際に低流量や高流量にかかわらず酸素加湿を行っていない施設もありますが、患者さんから鼻閉感・鼻痛・口渇の増強・排痰困難などの自覚症状はないそうです4

 

また、酸素加湿によって起こる弊害もあります(表15

 

表1酸素加湿による弊害

 

  • 酸素加湿器用水の細菌汚染
  • 加湿器からの酸素漏れ
  • 騒音による不眠
  • 加湿器用蒸留水の購入費用とその交換業務

文献5より引用)

 

それでも口渇の訴えがあったら?

このようにガイドラインから「経鼻カニューレでは3L/分まで、ベンチュリマスクでは酸素流量に関係なく酸素濃度40%までは、あえて酸素を加湿する必要はない」と考えられても、臨床では患者さんから口渇を強く訴えるケースがあります。この場合、やはり酸素加湿が必要なのでしょうか?

 

口渇の訴えがある場合は、酸素加湿を行っていないことが原因とは限りません。安易に酸素加湿をするよりも、口渇の原因がほかにないか考えることが先決です。口渇の原因として考えられるものを表2に示します。

 

表2口渇の原因として考えられるもの

 

  1. 発熱や発汗、下痢、術後の水分管理による脱水
  2. 出血やショック、心不全などの循環血液量の減少
  3. 利尿薬(フロセミド)や消化性潰瘍治療薬(アトロピン硫酸塩やブスコパン)、抗ヒスタミン薬(ポララミンやアタラックス)などの口内乾燥を来す薬物の使用
  4. 既往歴糖尿病シェーグレン症候群など

 

酸素加湿にあたっては、ガイドラインに沿って3L/分だから“加湿しない”、5L/分だから“加湿する”と酸素流量だけで短絡的に決められるものではありません。患者さんの自覚症状や痰の性状、水分出納バランスなどから総合的に判断することが必要です。

 


[文献]

  • 1)AARC clinical practice guideline. Oxygen therapy in the home or extended care facility.American Association for Respiratory Care. Respir Care 1992;37(8):918-922.
  • 2)日本呼吸器学会肺生理専門委員会 他編:酸素療法ガイドライン.メディカルレビュー社,東京,2006:26-42.
  • 3)佐藤憲明 監修:誰にも聞けなかった酸素投与のギモン解決Q&A.エキスパートナース 2007;23(7):23-64.
  • 4)三上剛人,小川謙:読めば「なるほど!」ギモン解決Q&A.エキスパートナース 2005;21(4):15.
  • 5)宮本顕二:酸素投与に加湿は必要か.呼吸と循環2007;55(8):899-904.

 

本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2017照林社

 

P.24~26「酸素4L/分以下では加湿をしないのは、なぜ?」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2017年3月号/ 照林社

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