抗菌薬は、どのタイミングで投与するの?|術前・術後ケア 

『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』より転載。

 

今回は「抗菌薬投与のタイミング」に関するQ&Aです。

 

白野倫徳
大阪市立総合医療センター感染症内科医長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長

 

抗菌薬は、どのタイミングで投与するの?

 

原則として抗菌薬は執刀前60分以内に投与されることが推奨されています。

 

〈目次〉

 

SSIとは?

手術部位感染(surgical site infection:SSI)は、一般に術後30日以内の感染症を指しますが、何らかのデバイス(人工物)が挿入されている場合は、1年以内であってもSSIと判定されます。

 

SSIのリスク因子には、(表1)のようなものが挙げられます。

 

表1SSIに関連するリスク因子

 

患者関連の要素 手術手技関連の要素
●年齢
●肥満
●疾患の重症度
●米国麻酔科学会(ASA)スコア
●鼻腔での黄色ブドウ球菌保菌
●手術部位と無関係な遠隔部位の感染症
●術前の入院期間
●体栄養、低アルブミン血症
糖尿病
●悪性腫瘍
●免疫抑制治療
●手術の種類
●術前の体毛除去
●手術時間
●予防抗菌薬投与
●組織傷害
●異物
●輸液
●緊急手術
ドレーンチューブ挿入

岩田健太郎監修,岡秀昭監訳:感染予防,そしてコントロールのマニュアル.メディカル・サ イエンス・インターナショナル,東京,2013:272.より引用

 

SSIの原因は、

 

  1. 手術操作による細菌の押し込み
  2. 手術により体内に留置、形成される異物

に分けられます。異物とは縫合糸、人工臓器、ドレーン、壊死組織、血腫、死腔にたまった組織液などです。

 

抗菌薬の予防投与とは?

SSI予防を目的として、手術開始前に抗菌薬を投与することを予防投与といい、多くの手術でその有用性が証明されています。

 

手術部位を無菌化することが目的ではなく、手術中に曝露する細菌の量を宿主(患者)の免疫のはたらきでコントロール可能なレベルにまで減らすため、補助的に行われます。

 

抗菌薬の適切な初回投与のタイミングは?

抗菌薬投与のタイミングに関する大規模な研究(1)では、(図1)のようにタイミングが早すぎてもかえってSSIが増えることが示されました。

 

図1予防抗菌薬投与のタイミングとSSI発生率

予防抗菌薬投与のタイミングとSSI発生率

 

Classen DC, Evans RS, Pestotnik SL, et al. The timing of prophylactic administration of antibiotics and the risk of surgical-wound infection. N Engl J Med 1992; 326: 281-286. より一部改変して引用

 

現時点では予防抗菌薬は執刀前60分以内に投与開始され、執刀時には完了していることが推奨されています。

 

ただし、バンコマイシン塩酸塩については、短時間で点滴静注した場合にはヒスタミン遊離作用によって皮膚の紅斑や瘙痒感、血圧低下などが出現することがあり、60分以上かけて投与する必要があるため、執刀前2時間以内の投与が推奨されています。また、ニューキノロン系抗菌薬(シプロフロキサシン、レボフロキサシン水和物など)は半減期が長いこともあり、執刀前2時間以内の投与が推奨されています。

 

前もって抗菌薬が投与されるのは?

一般的に抗菌薬の予防投与といえば、(表2)のClassⅠまたはⅡに相当する、清潔または準清潔手術における予防投与のことを指します。しかし、(表2)のClassⅣのように腸管穿孔による汎発性腹膜炎に対する手術や、皮膚軟部組織感染症に対するデブリードマン手術などは、はじめから感染症を発症した状態で手術に臨むことになります。このような場合は「予防投与」ではなく、あくまで発症した感染症に対する「治療のための」投与になります。

 

表2術中の創部汚染による菌量予測による手術創分類

 

Class Ⅰ
clean wound
1)炎症のない非汚染手術創
2)呼吸器、消化器、生殖器、尿路系に対する手術は含まれない
3)一期的縫合創
4)閉鎖式ドレーン挿入例、非穿通性の鈍的外傷
Class Ⅱ
clean-contaminated wound
1)呼吸器、消化器、生殖器、尿路系に対する手術
2)異常な汚染を認めない場合が該当
3)感染がなく、清潔操作がほぼ守られている胆道系、虫垂、腟、口咽頭手術
4)開放式ドレーン挿入例
Class Ⅲ
contaminated wound
1)発症4 時間以内の穿通性外傷(事故による新鮮な開放創)
2)清潔操作が著しく守られていない場合(開胸心マッサージなど)
3)消化器から大量の内容物の漏れが生じた場合
4)急性非化膿性炎症を伴う創
Class Ⅳ
dirty-infected wound
1)壊死組織の残存する外傷
2)陳旧性外傷
3)臨床的に感染を伴う創
4)消化管穿孔

JAID/JSC 感染症治療ガイド委員会編:JAID/JSC 感染症治療ガイド2011. ライフサイエンス出版, 東京, 2012: 183. より引用

 


[文献]

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社

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